第51話 君と作った私の歌

「え、なに遥ちゃん。曲作れちゃうの!?」


 ミナが驚いたようにふるまう。見てる人たちもおぉと驚く。確かに、自分で曲作って自分で歌うようなVtuberは、ましてや自分の事務所の先輩に提供するような子は、見たことがない。(俺がんわかなだけかもしれないが)


 俺的には、誰かに依頼してお金が高くつくよりかは、自分の事務所の作った子の宣伝にもなるし、それがいい曲でも悪い曲でもまあ、話題性はあるはずだし、もし俺が作るとしたらお金はあまりとらないだろう……とるには取るだろうけど。



「ね。ハル、早速披露しちゃおう」


「え、でもナターシャさん。あれ私が歌うんじゃなかったんですか?」


「さっき練習したでしょう。訳あってあなたの曲は聴きなじみがあるというか……私が歌いたくなったのよ」




:あのナタちゃんがこんなに歌いたい歌って、どれくらいいい曲なんだろう。


:初お披露目初イベで初曲披露とか、事務所気合入りすぎか?


:とかいって、内心楽しみにしてる模様


:ふ、そんなの言うまでもないな……ナタちゃん今日もかわいい!!!!




 さっき練習していたのはナターシャのマネージャーさん?古閑さんでしょうが!なのにチャット欄も盛り上がっている様子。やばいことに、なんかナターシャが歌を歌うムードになっている。


「あの、作ったは作ったんですけど、あれ友達と作って、わりとイキった歌詞もあるというか」


「い……き、ってなんかないわ!……失礼。私は、聴いててとても響いたわよ。表現力がすごい歌詞じゃない」


「ぷぷ……イキった歌詞ww」



 ナターシャにいきなり全力で俺の歌を褒めちぎられ、またミナはくすくす笑っている。本当に今日は様子がおかしい。ナターシャがここまで感情を表に出すことが珍しいから、それで笑っているんだろうか。それにしては、結構小ばかにしているような……気のせいか。めっちゃミナのことをナターシャがにらみつけてるけど。




『ナタちゃん。歌のステージの準備はできてるよ!』



 カンペだ。私たちだけじゃなく、見てる人たちにもわかるように文章がスクリーンの右上にでっかく映し出されてもいる。




@K  ¥50000

――――――――――――

もういい。会場まで行くから



@隣の山田君  ¥500

これは遥ちゃんのデビューも期待!



「よかったね遥ちゃん。熱心なファンが一人来てくれるよ!」


「いやいや明らかに怖い文章じゃ……てかKさん。どれだけ50000円落とすんで……す、か……え、K。けー。けーさん。けい、圭さん!?」





 これ、この50000円をずっと投げている人って、もしかして……確かに、おうちは豪邸だったし、あの人の金銭感覚は割とはちゃめちゃだったけど……俺、ヤバいこと口にしてないよね。圭さんに怒られるようなこと、なんか言っちゃってないよね?

 

 などと俺が心配している間に、ナターシャは登場するVtuberが歌を歌うスクリーンにきらきらーんと移動し、なんかキリッとしている。ミナはそんな思考にふけった俺を置いて一人コメントに反応しつつ、会場を盛り上げている。恐ろしいほどのまわし力。




:もしやKさんって遥ちゃんのリア友だったり?


:そのままストーカー説


:でもでも遥ちゃんの反応からして今のは……予感がする


:百合だとなお良し!




「そ、そんな関係じゃないですってば!ミナさんどうにかしてください!!」


「あははー、やっぱこういう仕事は楽しいねー」


「ミナさん!」





 コメントにプライベートをさらけ出されそうでがちゃがちゃしていると、静かに、芯に響く声があたりを静める。


「みんな。ハル。聞いて」



 その声は、さっきまで動画で見るよりも少女で、かわいらしかったナターシャから発せられていた。



「今は、今だけは、私を見ていてね」


  さっきまでの空気が一変。わいわい楽しい雰囲気の会場とコメ欄が、動画で見ていたような、クールでも美しいナターシャの盤面になった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


イベント終わりに圭さんに詰め寄られる遥が書きたい一心で書いてます

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