第43話 「私、人を探してるんです」
「はじまるんだけどー……あー、実は、ナタが今遅刻しててー……先輩の私が前座にやってきていますー!!」
唐突の激白。ぶいちゅーん第一期生星河ミナが、何て後輩だー!と笑い倒しながら前に映し出される。巨大な大画面で現れる姿も、もはや立体すぎてそういう人物がここでだけ現実に現れるのではないかと錯覚するくらいだ。そんな彼女が、俺と山田君の目当て、ナターシャ・グリースフィアの遅刻を告げた。曰く――――
「なんか用事があるから私は参加できないかもー、らしいよ?」
ということらしい。つまり彼女もあんまり詳しいことは知らないようだ。ここに集まったナターシャのファンも、なにか嫌なことがあったのか、気持ちが暗くなっているのでは?と身を案じる声、自身も悲しくなる人などが出てきている。
「うーん……しゃーなし。周りのモノでも適当に見て回ろうかな」
時には諦めるという事も大事である。俺は噂の激カレーでも食べに行こうかと思って集まった人の中から抜け出そうとしたとき
「うわっ」
「きゃっ」
知っての通り体幹がよわよわな俺は人とぶつかってしまったらしく、思いっきりずっこけ、前のぶつかった人も倒してしまった。
「大丈夫ですか?ごめんなさい抜け出すのに夢中で」
「いえ、こちらこそ……目の前すら見えてないとは……うぅうぅ」
俺が相手方に心配と謝罪の言葉を言うと、相手はなぜかさらに顔色がまずくなったというか、こうなんか、焦っているというか。お互い手を差し出してバランスをとって立ち上がる。そのときはじめて相手の様相がはっきりとわかった。
まず手が細く華奢であることが分かった。そこから顔へと目線を映していく。普段なら無難な恰好であると言えるシックであまり目立たない色の服を着ており、自分の好きを前面に押し出している人の集まりの中ではかなり異色な恰好。しかし、ぶいちゅーんのファンなのかぶいちゅーんのロゴが入ったキャップをかぶっており、皆がいっぱい手荷物を持っているなか目の前の人は何も持っていない。
そして、キャップの影で少し隠れている顔だが、はっきりと整っていることがわかり、肌は白く髪はダークブロンド。目はとてもきれいな水色の目だった。あまりにも見蕩れてしまったために、彼女は困ったような顔で俺に訪ねてきた。
「あの、そちらこそ大丈夫でした?どこか怪我とか……」
「あ、すいません。つい、そのー……」
俺が言うのをためらっていると、なにか言えないことでも起きてしまったのだろうかとさらに顔を青ざめてわなわなと震えだす。
「私、そんなにひどいことを」
「いえ!そういうわけではなく、そのですね?……き、綺麗ですね。……っておも……って」
そういうと、彼女は頬を赤らめて
「そ、そう、ですか……よかったぁ」
なんとか誤解を解き、ほっとした表情になる。
「そうだ。これも何かの縁!実は私、人を探してるんです」
せわしない子だなぁと、俺は目の前の彼女を見る。さきほどまでおどおどしていた声だったのが、今ははっきりと意思を持った可愛らしい声になっている。
「まず自己紹介しましょう。私、
こひま、かぁ。その字ならこがなら聞いたことあるけど、珍しいなぁ。なんで俺一人旅先でこんな女の子と喋ってるんだったっけ?頭がふわふわしてるなぁ。
「美空遥だよ……です。すいませんなんかテンションが急におかしくなってきちゃって」
「いえいえ!あ、じゃあ私もため口で行くね?遥ちゃん」
俺の心にずっきゅんずっきゅんきゅんしたわ。そんなナチュラル上目遣いをするでない。少年の心は繊細で敏感なんだぞ……あれ、俺こんなキャラだったっけ。
「とりあえず、ここじゃなんだから向こうで話しよっか。ね?」
「あ、え、ちょ」
「まぁまぁまぁまぁ、ちょーっとだけだから。ね?」
「今から激カレー食べに行きたかったんですが」
「ん~渋いね!じゃ、行こうか」
「え、あ、ちょ」
「まぁまぁ……(以下繰り返す)」
その時人々は、少女がより華奢でか弱そうな少女に無理矢理引っ張られていくというダレトクな情景だった。
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今日やっとTRPGが終わりました。全員楽しんでくれたみたいで良かったです。
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