第44話 激参加型オンエアバトル!
手を引かれて連れてこられたのは、少し帆と通りの少ないトイレの前の休憩所。彼女は見た目に反して力が強いらしい。
「ごめんね。話の内容が話の内容だからあんまり人に聞かれたくなくて」
「エエ、ソウデスネカレータベタカッタナー」
「ゴメン。あとでおごるから!ね?」
「よしわかった話を聞こうではないか。……こほん、い、一体どうしたの?」
「すこぶる現金な人だねぇ……ま、それもいいか。実はね」
古閑さんが神妙な面持ちで俺に話しかけてくる。
「私、オンエアバトルに出る人を探してるの!」
「……ん、ん?」
オンエアバトル、正式には激参加型オンエアバトル!というイベントブース。14:00から予選が行われ、そこで豪華な審査員による採点で優勝した人や印象に残った人は、19:00からの激歌ステージにて観客の前でお披露目できるのだ。しかしここに立つにあたって条件がある。
一つは歌う曲は自分たちでひっさげてこなければいけないという、割と本格的な新人発掘を目指したものだという事。もちろん今前線で活躍している音楽プロデューサーなんかも売り出したい歌手と組んでやってきたりするので、毎年このステージに向けられる期待は高い。
そしてもう一つの条件。さっきちらっと言ったかもしれないが、二人一組。つまり、作曲者と歌い手のコンビでなければいけない。これは公式の思惑で、参加者全体に人脈形成を促すという物もあれば、化学反応を期待している面もある。
出場することすらかなりの準備を要するこのイベントに、彼女は初対面で全く素性を知らない俺を誘ってきている。いくら人脈形成を図っているとはいえ、さすがにこれは難しいだろうと、俺は思っていたことだろう。
自分もそれを望んでさえいなければ……
考えてみてほしい。俺がどうしてこの祭典にペアチケットで参加しようと思っていたのか。どうして俺が小松菜と来ようとしていたのか。それは至って簡単。これに出たかったからである。
かねてから小松菜とはチャットでやり取りしたり、オンラインゲームをともにプレイしたりと交流はあり、会話の流れで小松菜が歌をうまく歌えるという事は知っていた。だからこそ俺が作曲して歌ってもらおうと思っていた矢先、向こうが急用で来られなくなり、やっとこさバンドを組んで歌ってくれるようになった圭さんにも無理と言われ、姫野さんとはあれから交流がないから誘うことに緊張し……
取りつく島なくこの場に来ている俺にとってはこの話は天から差し伸べられた救いの手なのである。
「やっぱり、ダメかな……いきなりそんなこと頼むなんて」
「いいよ。いきましょう」
「……え?……え!?」
「やったりましょう!俺たちの力で優勝してステージで魂燃やしまくってやりゃしょうぜ!!!」
「……そ、そうだね。よし!やろう!」
彼女が決意のジャンプをすると、ダークブロンドの髪に光が当たって艶やかに靡く。少し大人びた綺麗な顔が、少女のようににぱっと笑顔を作る。割と願ってもないことだったので、俺口調が出てしまった。がしかし、これで出場条件は一応達成だ。
「ちなみに古閑さんは歌い手だよね?」
「……てことは、遥ちゃんは作曲?」
「やったー奇跡のマッチングじゃん!」
「うぉー激熱やぁー!!」
「いやーこれは渋いっすわぁ」
ふたりでトイレの前でハイタッチしながら飛び跳ねていると、遠くから警備員さんが訝し気に見てきていることに気づく。少しは自重しようという気持ちがお互い多少なりとも強くなった。
「じゃあ、決まったことだしお楽しみのカレー食べながら作成ん会議しよっか」
「おーけい。じゃあとりあえぞ古閑さん奢ってもろて」
「ほう……ここは1d100で出た目の低い方が奢られるでいきますか」
なんだか彼女と話していると、全く初めてあった気がしないんだよなぁ……とどこか頭の中で引っかかる何かを探しながら出した目は、なんと98だった。
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古閑「人の金で喰うカレーが一番うめぇ!」
遥「財布が……また財布が寂しく……」
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夏休み更新頻度増やしたいけど、一日10時間勉強しないといけないらしくて、ちょっと頻度落ちるかもしれないです。
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