第45話 はる……いいですよね
「約束が違うぞ約束が。カレー奢ってくれるんじゃなかったのかー」
「さ、さあ私にゃさっぱりわからんで御座候」
「お、さてはちみ近畿の民だな?」
「一瞬で見抜かれるとは……貴様は頭の回転焼きが早いようだな」
ここは飲食販売ブース。ものすごく辛くってものすごく美味いという激カレーを、絶賛目の前にして堪能しようとしている。当然俺はチーズとはちみつマシマシだ。
「今が12:00前だから、予選まで2時間くらい練習できるね。遥ちゃんの作った曲、今聞かせてもらってもいい?」
「聞いたからには、途中で鞍替えしないでよね?約束だよ?絶対絶対離さないからね?私あなたしかいないんだから」
「うん。重過ぎる愛は二次元だけで十分です」
「はい、私ので悪いけどイヤホンどぞどぞ」
うむ……激辛と謳ってはいるが、マシマシチーズとはちみつのおかげで程よくスパイシーな美味しいカレーになっている。やば、肉がまじで美味い。あ、玉ねぎマシマシにしてもらえばよかった……
隣の古閑さんは、真剣に俺の新作を聞いてくれている。これを聴かせたのと、参考までにアドバイスをもらったのが小松菜だけであるが、まああやつもなかなか音楽理論が好きだから、結構いい感じに仕上がっていると思われる。多分、目の前で古閑さんが雷に打たれたような表情をしているのは、俺の曲が革新的でえげつなくいい曲であることを体現してくれているのだろう。めっちゃこっちちらちらみてくるし……
彼女が曲を聴いている間に、俺はカレー一杯目を食べ終わり、二杯目を買いにまた並びに行くのだった。
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う そ だ ろぉおおぉぉぉぉおお!?!?!?!?!?!?
私、古閑つみきの脳内は、奇跡と偶然と驚嘆と仰天にまみれていた。確かに、最初に会ってから話しているうちにここまで冗談を言い合えるようになったのも、どこか雰囲気が初めてじゃなかったのも私にしてはすごいことだなぁと思っていたのだ。なにせ私は事務所でも結構ぼっちを好む方で有名だからだ。
が、しかし……
考えれば考えるほどピースがはまっていく。私を救ってくれた恩人であり、進む道を後押ししてくれた親友のアカウント名はharu。対して彼女の名前は美空遥。伝わらないだろうと思って言った1d100が伝わった。haruはTRPGをすき好み、自分でシナリオも作っている。haruは昔から作曲を楽しんでいる。彼女はここに作曲者として、しかしペアがおらず歌い手を探してからオンエアバトルに参加しようとしていた。haruは、小松菜とペアチケで行くつもりだったこの激談義に、小松菜から急な用事が入ったと言われ、先輩も誘えずここにやってきている。
今聴いている曲は、彼女……haruが、私にアドバイスを求めながら久々にしっかり作った曲だ。
しっかり自分の中で事実を確認した途端、涙がすーっと流れてくる。
「やっと……会えた……ッ」
私が、古閑つみきが、自身を持って今を生きている理由である人物と、こうして巡り合えたのだ……
「ごめーん勝手に二杯目買いに行ってた。あでもちゃんと古閑さんのやつもこうして……え?な、泣いてる?わ、私女の子泣かせちゃった!?あ、えとどうすればいいんだっけ。あー、よちよーち、だいじょぶでちゅよー……ご、ごめんごめん煽ってるわけじゃなくてあぁ……どうしようどうしよう……――――
「あはは……ごめん。勝手にどっか行っちゃったから揶揄おうと思って……」
「演技力高すぎん?てか心配を返せ!」
「慌てるハルも、可愛いね」
心から漏れ出した思いが、小さく声に出てしまった。
「へ?なんか言った?」
彼女は甘くしたカレーですら辛く感じるらしく、ふーふーしながら水を飲んで緩和していた最中だったようで、聞こえてはいなかった。
「なんもないよ。ただ春が好きって言っただけ。さ、早く食べて練習しよう!」
今はまだ、黙ってても面白いかなと……私、古閑つみきは激辛いカレーを全速力で頬張った。
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暑い夏は、レモンと大根おろしとネギを添えた冷やしうどんが食べたくなる
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