第4話 邂逅(圭side)

 人生ってなんなんだろう。そんな漠然とした疑問が私を取り巻くようになったのはいつからだろうか。別に今の自分の生活が苦痛ではないし、友達関係がぎくしゃくしてるわけでもない。本当にふとした瞬間に頭に浮かんだ、ほんの少し授業中に考えた疑問。


 それでも、私の頭からはちっとも離れない。ぐるぐると渦巻いて、どんどん日常に現れる。


 年老いて、毎日のように病院に通いながら毎日のように「体が痛い」だの「なんだか体調が悪い」だのほざく母がどうしてそこまでして生にしがみつくように生活しているのか、私にはわからない。痛いなら逃げてしまえばいいじゃないか。死ぬのが怖いだのと言う人もいるが、死んでしまえばそんなことを考える余裕もない。


 皆死に至る寸前の痛みに怯えているが、慢性的な自身の苦痛に比べたら一瞬だし、まして経験したこともないし想像でしかわからない痛みを受けたくないがために生きるのは、周りからすれば迷惑なんじゃないかとも、思ったり思わなかったり………


 私自身、周りに比べたら欲求が少ない方だと思う。自分では割と好きだと思っていて、リリース初期からやってるゲームでも、半年しかやってない人の方がキャラはいっぱい持ってるし。


 考え出すと収まらないのだ。本当にそれだけなのだが、逆にそれが私の明るかった日常に影を落とすのだ。




「もうこんなところまで来てたんだ」


 私は、少し先に見えてきた横断歩道に気が付き、自分の世界にどれくらい没頭していたのかを体感する。人通りは私以外見えず静かなはずなのに、本を読み終えたときのような静かな騒音が私を元の世界に引きずり戻そうとする。


 かねてから個人的に死後の世界には興味があった。後ろから概形だが、おそらくトラックであろう物体が坂の下からやってくるのが見える。


「あれに当たったら、行けるのかな」


 そのときは本当に興味本位で、周りへの迷惑なんて考えていなかった。いや、せめて私という存在がいたということを、最後くらい残してやろうなんて気持ちもあった。なぜか無性に腹が立っていた。


「なんで生きてるんだろ、私」


 これから死ぬと考えると、少し空しくなった。けど、それに相反して、後ろから可愛らしい声が聞こえた。


「生物学的に言えば子孫を残すためだし、個人の主観で言えば生きるのに理由なんてないだろって思うけど」


 誰だろうか。私の記憶にはない娘だった。


「私は美空遥。いろいろな偶然と必然が合わさって今ここにいる受験生だ」


 名乗られてもわからなかった。ずいぶん背が低いのに、私の1個下なんだということに驚いた。


「お姉さん!ちょっとわたしと遊ぼ!」


 彼女がいきなり私に突進してきた。驚いたけど、対してけがはしなかった。というか、空気があたったかのような軽すぎる感触に、私が倒されるわけもなく……


「ぐぇっ」


 彼女は自滅してしまった。


 そんな彼女に、珍しく少し興味が湧いてつい名前を教えてしまったが、すぐにプライバシーという単語を思い出し、早々にその場から立ち去った。






 はずなのだ。


「なんでここにいるの?」


 私が気付いているとも思っていないのだろう。彼女が手足を一緒のタイミングで前に出しながら中腰になってそろりそろりと歩いてくるのがスピーカーのプラスチック部分に反射して見える。


「店員さん引いてるじゃん」


 近くにいたので呼ぼうとしていた店員さんも、彼女の醜態を見てカウンターの裏に入ってしまった。


「なにしてんの?」


「うえぁあ!!?き、気づいてたの?」


「恥ずかしいからそれやめて。関係者だと思われたくない」


 赤の他人のはずなのに、私の方が恥ずかしくなった。綺麗な銀髪に小学生と間違うくらい童顔でお人形さんみたいないで立ちなのに、中身がまるでいたずら盛りの小学生男児である。(本人は元男子中学生で受験生です)


「お姉さんもオーディオ系とか興味あるんだ。私はてっきり文学少女なのかとおもったよ」


「文なんて、そんな大層な物できない。音楽はいっぱい私を慰めてくれるから好き」


 昔から、家でかかってるラジオから流れてくる音楽をとても楽しく聞いていたから、その名残で今でもスピーカーでゆったりリラックスしながら聞いている。


「ふ~ん。私が慰めてあげようか?よしよし~頑張ったね~」


「私はあなたと違って小学生じゃない」


「私は受験生ですー。そらお姉さんみたいな……」


 彼女はそこまで言って黙り込む。


「お姉さん。それって……その服って」


「何?私の恰好って変?」


 私がしっかり彼女の方を向いて少し服をひらひらさせてみると、見る見るうちに彼女の顔が青ざめていく。


「お姉さんって高校生だったのっ!?!?!?!?」


「…………そこ?」


 今までなんだと思ってたんだ。と、そう彼女に目で憤った。

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