第3話 一人暮らし準備
病院を退院し、入試まであと2週間。なんだかんだあって久々に帰ってきた自分の家は、そこまで変わってはいなかった。自分の部屋を除いて……
「母さん。この部屋のデザインとかどないなってんの?これ」
「あんたやっぱり、頭壊したんじゃないでしょうね。自分で「これカーワーイーイー」とか言って並べていった結果だろうに」
あんなに慣れ親しんだ落ち着きのある我が聖域は、アニメでしかみたことないような(というかそもそも女子の部屋を見たことがないが)白と桃色を基調としたそれはそれは可愛らしいお部屋になっていたのだ。
こっちの本棚には、本よりもなんのキャラなのか分からないが、悪魔のような羽の生えた紫の熊のぬいぐるみが、色々な服を着て何10体と並んでいる。なにこれ。
「落ち着かねぇ……全然落ち着かねぇ……」
「確かに、あんたがもう一人暮らしするとなると、心配で心配で落ち着かないよ」
「あ、そうか」と、一人合点がいき、一人ほっと一息つく。
俺の家では一つ風習というか、そういうきまりみたいなものがある。それは……
「あー遥もとうとう一人暮らしかぁ。。。この家も寂しくなるな」
「ほんとにねぇ父さん。遥?なんかあったらお母さんたちに言うのよ?」
そう、一人暮らしだ。高校に入るにあたって、うちに生まれた子供はみんな一人暮らしを始める。まあ、一人暮らしといっても今の家からはさほど遠くないし、二人いる姉のうち一人は、私が借りる予定の賃貸アパートの1階に住んでいる。ちなみに俺は2階だ。この見慣れない部屋からは早急に撤退して、聖域をいち早く復興しなくてはならない
「てことでさ。お母さんたちいっつもわが子が旅立つ前に家電一つ買ってるじゃん。あんたにも一つあげるから、自分でなんかいいやつ見つけてきなさい」
そう言って母は私に10万円を渡す。うへへ、これってこそっともう1個安いなにか買ってもバレないんじゃ……
「渡したけど、全部使っていいわけじゃないからね?」
「………はい」
魂胆はばればれでございやした。
いやー今年はあの野球チームがアレしたからね!この家電量販店はすごいね。めちゃセールしてるね!ってことで今は家電を物色中。店内はアレをしたからかずぅーっとチームの歌が流れている。
「家電といっても、一体どれがいるのやらわからんなー」
電子レンジは、家のお古がもらえるし、テレビはもう今時いらんだろうし、冷蔵庫は姉の部屋にあるやつ使わせてもらえるし。
「いっそ趣味の方で買ってみるか?」
と、オーディオ関係の売り場へと行く。この店舗は少し田舎寄りの場所だからかものすごく敷地が広く、普段ネットでしか見つからないであろうすこしマニアックな機器でさえ取り揃えてある。さて、俺の目当てはあるかなー………あれ?
と、そこにいたのは見覚えのある綺麗な容姿。吸い込まれそうな漆黒の髪に、人形のような顔立ち。女子では珍しい高身長でスタイルもモデル並み。
そう、言わずもがな圭さんだ。
「なに選んでるのかこっからじゃ見えないけど、そこにいるってことは圭さんもオーディオ関係興味あったりするのかな?」
俺は背後から気づかれぬように圭さんに迫り、おどかしてみようかと思った。
「ぐふふ、おびえた姿も可愛かろうのう。ぐふふふ」
抜き足差し足忍び足。ゆっくりゆっくり音立てず近寄っていく。
「なにしてんの?」
「うえぁあ!!?き、気づいてたの?」
「恥ずかしいからそれやめて。関係者だと思われたくない」
なぜか振り向きもせず俺に気づき発せられたうんざりしたような声に、俺の方が驚いて尻もちをついてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます