第2話 あなた圭って言うのね!

 体が女になってからというもの、わかったことが幾つか。周りは俺が女になったことに気づいていないというか、元から女だったかのように接してくる。それに今日の日付。あの綺麗な子と会って轢かれる1週間前なのだ。おまけに長年この病室でお世話になってるかのように壁には本棚と受験対策用の参考書がずっしり並んでいた。


「こら遥。はよ受験勉強せんと、受かるもんも落ちるで」


「わぁーってるってばよ」


「あんたはよその言葉遣い直しや。女が廃るわ」


「廃って結構じゃ!んじゃおやすみー」


 俺はというと、きれいな銀髪になってるし、、髪は肩まで伸びてるし。高校入ったら俺相当モテるんじゃないか!?




 あの子が轢かれるまであと1週間。受験まではあと1か月。


「数学はわかってきたんだけどなー」


 どこで対応して相似な図形になっているだとかそういうのを判断するのがとても難しい。


「あの子はまたあの横断歩道に来るんだろうか」








 1週間後、病院の人に外出の許可をもらいあの横断歩道に行ってみた。


「おるやん……」


 あの綺麗な容姿は間違いない。それにやはり憂鬱な目をしているし。


「なんで生きてるんだろう、私」


「生物学的に言えば子孫を残すためだし、個人の主観で言えば生きるのに理由なんてないだろって思うけど」


 いきなり背後から独り言に口出ししたから、綺麗な子はびくっと肩を揺らして驚いた。


「……君、誰?」


「私は美空遥。いろいろな偶然と必然が合わさって今ここにいる受験生だ」


「……受験生?にしては随分背が低いね。君」


 彼女に言われてはっと気づき、自分の背丈をまじまじと考えてみる。言われてみれば最初彼女のことを見かけたときよりも目線が下になっている気がする。


「体が……縮んでいる!?」


「君探偵にでもなるの?」


「それよりも、綺麗なお姉さん。あなたの名前をお聞かせ願えますか?」


「えぇ、、、女の子にナンパされるなんて思ってもなかった」


「私だけ名乗るって不公平じゃん!ってそうだ!」


 奥からトラックが走ってくるのが見える。いかん。この子をトラックから遠ざけないとまた躊躇なくトラックにあたろうとしちゃう!


「お姉さん!ちょっとわたしと遊ぼ!」


「は?ってちょっと!」

 俺は躊躇なく彼女に向かって突撃する。


「ぐぇっ」


「え、、、大丈夫?体も……その、、頭も」


 女子になっているからだろうか。フィジカルがくそ雑魚になっていた。結果彼女にぶつかってそのまま俺が後ろに倒れ、彼女は微動だにしなかった。


 ぶーん。とエンジン音が横切る。どうやらトラックの危機はもう過ぎ去ったみたいだ。俺のこの醜態も一人の命を救ったと見れば賞賛に値する!はず!


「初対面でいきなりタックルするなんて、他でやっちゃだめだから。いい?」


「はい、すんませんでした」


「私は如月圭きさらぎけい。名前は教えたから。もう行く」


 彼女。もとい圭さんはあの独り言のように悩んでいる素振りなど一切なく、颯爽と去っていった。けど収穫はあった。


「えへへ、あなた圭って言うのね」


 言ってみただけで他意はないが、とてつもない寒気がした。



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