第17話 寄せ集めだと思っていました……

 今日までに聞いてきた上坂たちのメンバーの情報はクラスのみんなが噂してたり食堂で喋ってる人達から調達してきたものなので、ちゃんとメンバーを知るのはこれが最初である。無論それは相手もなのだが、集まっている生徒はあちらさんの方にしか興味がないといった感じ。完全にアウェーじゃないですかもう……


「さあ、待ちに待ったこの勝負。なんといっても如月圭のバンド再スタートがかかっています!彼女の運命を左右するバンドメンバーを紹介していくぜ!!」


 あの松永って先輩。マイク持つと人が変わるでおなじみである。彼のノリにノった実況で生徒たちのムードはどんどん上がっていく。


「さあまずはみんなの期待が集まるこちらのバンドだー!」


 体育館の照明が暗転する。業者に頼んで設置されたカラフルなスポットライトがくるくると回りだす。スピーカーからは重低音が刻まれて自然と拍手が湧いてくる。


「緊張に飲まれんなよ。俺らならできるぜ」


 土下座……お前膝震えてんぞ。見てるこっちも緊張してくるんだよ。



「一年の頃から活発で周りに慕われるリーダー性を発揮し、イケイケな気性とは真逆の丁寧なベースラインで繰り出す音色は聴く人の心を揺らす!『AKKI』リーダー。上坂晃かみさかあきら!!!」


 生徒から、特に女子からは黄色い声援が鳴り響く。こいつだいぶ性格ヤバそうだったのに人気あるのかよ。これが、これが顔面優遇かッ……もし俺が男のときにこういうのを見てると羨ましいとおもうんだろうな。今は絶対になりたくない人間像だけども。


「さらに!彼に力を貸す精鋭たち!『AKKI』ギターのシンジと、『スクリーム』から、ギター、ドラム、ボーカルが集結!!軽音部二大バンドが合わさる今日限りのドリームマッチです!!」


 『AKKI』……聞いたことがある気がする。去年の夏祭りのステージで演奏して、観客を魅了していた……ような気がする。別に興味がなかったわけではなくて、結構本格的だったから耳は傾けてたんだけどそこにこう……小学生の時ははなしてたけど中学入ってから話さなくなった子とかがいたもんで、何分気まずいじゃぁないですか。本当は目の前まで行って聴きたかったけど自分の同世代恐怖症が発動してしまったのです。え?てかそんな人が相手なの?え?



「みんな!俺たちの音で盛り上がってくれ!!」


「「「「ワー!!!!」」」」



 だめだ……もう生徒は彼らのことしか目に入っていない。俺なんか、応援してくれる人はいないか……まあ、ぽっと出だもんな。けどなんか悲しいな。


「落ち込むな。きっと目をかっぴらくのはお相手さんだろうよ」


 翼先輩がそう言って不敵に笑う。続くように姫野さんも凛々しい顔つきでステージへ歩む。土下座も、どこかわくわくしてそうな感じで後に続く。


「久しいなぁ……この感じ」







 



 上坂晃が軽音部に入ったのは、この双葉学園軽音部にあったとあるバンドに、中学時代で出会い憧れたからである。遥も聴いた夏祭りのバンドステージでは、双葉学園は毎年軽音部と吹奏楽部がパフォーマンスをしている。ちょうど上坂が中学三年生のときにそこで演奏したのは、その当時はもちろん今なお熱狂的な人気を誇る伝説的なバンドであった。しかし、彼が入学してすぐに軽音部に入部届を出し、そのバンドに入れてもらおうとしたときには、すでに解散していた。話を聞けば、結成からわずか一年足らずでの解散だと言い、ライブを行ったのは文化祭と夏休みのたったの二回だけだといい、故にメンバーをはっきり知っているのはごく少数だという。解散理由まではわからなかったが、彼はそれがどうしても気に食わなかった。


 あれだけ上手くて響く音を出せるのに、どうして辞めてしまったのか。彼はあのバンドを再現するために、ギターやドラムなど、上手い奴らを片っ端から勧誘して自らバンドを結成した。でも、どうしてもあの音を越えられない。どうも思い描く理想には適わない。しかしそんな悔しさとは反対に人気になり、だんだんと上達していくベースに、彼は堕落していった。その成れの果てが、今の上坂晃である。かつての負けず嫌いで努力家な彼は、もはや心の奥底に沈みきっている。『AKKI』のメンバーも、昔の彼を知っているためにあまり大きく踏み込んで注意をすることもできていない。自分たちがもっと努力していれば、彼の理想へ上り詰めることができていたら、彼がここまで堕ちることはなかったかもしれないという後悔からである。結果、彼のバンドは人気こそ高いものの実態は堕落しつくした奴らの集まりという集団になってしまったのである。


 しかし、そんな彼らでも、まだ心の奥には努力してきた自分が眠っている。まだあの夏に見た伝説がくっきりと残っている。だからだろうか、彼らには思い出せる。ピンクっぽい髪の毛。透き通ったパワフルな声。白髪のショートカット。テクニカルかつ本能のままに弾きさばくギター。そして彼の憧れた丁寧で魂までに響くベース。


 なぜか彼らは、思い出していた。今の今までほとんど忘れかけていたような、ひと夏から始まった憧れを。彼らは、重ねてみていたのだ。







「続いて紹介するのは、新入生ながらに挑戦的でパワフルな少女率いる、全くつながりの見えないこのバンドだ!!」


「なんとまともに楽器を演奏するのは小学校の音楽会ぶり!木琴歴6年のキーボード!美空遥!」



 一気にスポットライトがこちらに向けられる。なんだか、さっきと違ってみんなの視線が懐疑的……ふざけた紹介文で出てきやがってみたいな目をしている。けれど言わせてほしい。俺は断じてそんな紹介をしてくれなんて言っていない。しかも音楽会で木琴しかやったことがないなんて、まだ誰にも言っていない!誰だ。一体誰がこれを漏らした。誰がこんな紹介文に仕組んだ!!



「続いては上坂とは半ばライバルにあたるこいつだー!正確なビートかつアレンジが豊富。『モノリス』ドラム!久我雄太!」


 土下座……なんかバチ当たって負けるのも嫌だから久我先輩って呼ぼう。久我先輩にスポットライトが当たる。さっきまで姫野さんになじられてシュンとしてた人には思えないくらい堂々としている。なんならめっちゃ楽しみにしてそうだ。


「続いて、軽音部幽霊部員ここに再臨!謎多き彼女は、再びギターを手に取り寄せ集めに加わった!!ギターは二年!黒咲翼!」


 翼先輩は、いつもの調子って感じだ。けど、誰よりも燃えている気がする。


「勝つぞ。


「ッ……はい!!」


「さあラストだ。これまた謎多き少女。黒咲翼の友人が誘われて飛び入り参加だ!!三年!ボーカル、姫野桜!」


「あんた思いあがらない方がいいわよ?ほんとうに、ヤメタホウガイイ」


「あ、あっははやだなーもうめっちゃ怖いんで止めてもらっていいですかぁ!?」


 ステージ全体が照らされて両バンドのメンバーが勢ぞろいする。久我先輩以外の紹介では、全員が誰?といった反応である。これにどうもひっかかる。俺に対しては新入生っていうのもあって理解できるし、姫野さんのこともあんまりわからないから何とも言えないけれど、翼先輩はあんなに。人前であんまりやってなかったのだろうか。


 そんな俺の疑問をしり目に、司会はどんどん進めていく。


「今回このバンドはなんとベースがいない!一体どんな音で私たちを魅了してくれるのか!!」


「楽しみですね!それでは、今回これを行うにあたって外せないこの人に登場してもらいます!」


 プシューっと白い煙幕みたいなのがでて、体育館の入り口から誰かが入ってくる。照明はまだその人を照らさないから、顔がはっきりとわからない。煙で概形しかわからないその人はステージの方まで伸びるレッドカーペットを歩いてくる。カーペットのすぐ横にいる生徒はその人を見てなんか盛り上がっている。とくに男子。


 これは女子だな?と推測しつつ、煙が晴れていくのを見る。すらっとしたスタイル。白髪のロング。そして、整った顔立ち。


「二年!如月圭!!」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


プロットを書いておけばよかったと後悔していますが、反省はしていません。


春休みに入るのでテストに向けて忙しくなってしまいますが、頑張って登校しようと思います。

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