第18話 待っててじゃない。聴いてて
圭さんがみんなから人気なのは、その整った容姿からもそうだけど、飾らない淡々とした性格でもあるからだと思っている。実際そういう目で見る男子や、憧れのまなざしを向ける女子も多い。だけど、どうもそれだけじゃないように思えるのは、俺だけだろうか。新入生のみんなはきっとただ圭さんに魅了されているのだろうけど、上坂しかり軽音部部長しかりなにか圭さんに期待しているようにも見える。普通一人をバンド間で取り合いになったとき、生徒会が介入するだろうか。まだ部長が取り仕切ってなにかで決めるのはわかるが、こんな傍から見たら小さな争いを、どうして全校生を巻き込んで繰り広げるだろうか。俺の推測では、これは取り合っているのが圭さんだからだという結論にたどり着いた。奇しくもこの一部の人間のある思惑が、圭さんの人気からの興味にかき消されて見えなくなっているだけなのではないか……
圭さんがあんなに顔を歪ませるなにかがあったのではないか。
「圭さん……」
圭さんはいつものような、いたって無表情で用意された司会のすぐ横の席に座る。
「両バンド積もる気持ちもあると思いますが、間もなく始まる争奪戦に向けてなにか一言、お願いします!」
司会の松永先輩は俺と上坂に言葉を求める。考え事のさなかに来たもんだから一瞬何を言われているかがわからなかったために、上坂に出遅れた。生徒はおぉと、上坂の迷いなく先手をとる勇気に称賛の声を上げる。
「圭。俺がこの新入生を打ち負かして、すぐにバンドに引き入れてやるから、待ってろよ。俺が、絶対に勝つから」
再び館内が黄色い声援と大きな拍手に見舞われる。上坂の言葉には、俺たちを見下す態度はあるものの、これまでで一番何というか、覇気というか決意というかが籠っていた。圭さんのほうを見る。表情は先ほどと変わらない。
「さあ美空さん!何か一言お願いします」
俺の番。この勝負は、ただ生徒の票を過半数集めたら良いんじゃない。本当に大事なのは圭さんがどう思うかだ。つまり、もうすでにこの勝負は始まっている。
「圭さん」
圭さんは改めて俺のことを見る。歓声は一瞬にして収まり、俺の声を待つ。今だから伝えられるいろんなことはあるけど、今一番伝えたいこと。俺や久我先輩、翼先輩がどれだけ頑張って、姫野さんが今日のためになにをやってきたのかを想像したら、どこか自然と自信が湧いてくる。一人じゃない。みんなでならできる。だからそれを見ていてほしい。
「私たちの音、ちゃんと感じてね。私たちが圭さんを楽しませるから」
生徒たちの反応は、思ったよりも半々に分かれている。もっと叩かれると思っていたけど、なかなか言うじゃないかムードが出てきている。
「私は勝利を待っててなんて言わない。ただ聴いててください」
圭さんの表情がほんの少し変わる。私の強気で静かな重い言葉が、館内の生徒を揺らしたと、そう自覚できるほどの歓声が上がった。
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なんか全然勝負が進まないけど、次から多分いけるはず……
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