第19話 

「一年生美空さんの予想以上に強気な言葉が、生徒たちの興味を一瞬で引いた!さあそれではこのムードに乗って早速行っちゃいましょう!今回はこの二つのバンドが交互に、カバー曲とオリジナル曲を披露します。その後、皆様の投票によって商社が決まるという仕組みになっております!」


「どちらの演奏も楽しみですね!それではまず、カバー曲からやってもらいましょう!皆さん準備はできてますか?」


 俺も上坂も自信をもって頷く。みんなもいい表情をしている。


「先攻は俺たちがもらう」


 上坂がぐっと前に出て宣言する。生徒たちはまたおぉと拍手を送る。


「いいのか?先にばーっとやっちまおうぜ」


 久我先輩は先にやりたがっているけど、ここは後からでいきたい。


「いや、あとの方がインパクトあるでしょ。いいっすよ先輩。先攻は譲ります」


 上坂は俺の余裕ぶりに苛立ちを見せるわけでもなく、ただ楽器の準備に取り掛かる。どうやら本気で勝ちに来るようだ。メンバーがそれぞれ立ち位置につく。派手だったライトが落ち着いていく。スピーカーから、四つ打ちのビートがズンズンと鳴り響く。生徒たちはそれにあわせて手拍子をする。あるところでビートがフェードアウトしていき、館内に緊張感が生まれていく。ぱっと、ステージ上にライトが集中する。上から目線も舐めた雰囲気も一切ない本気の人たちがそこにはいた。


「それでは早速行きましょう。上坂晃率いる『AKKI.feetスクリーム』で、「リバイバル」です。どうぞ!」


 「リバイバル」とは、2000年代にヒットしたビジュアル系バンドの曲である。昨年の下半期あたりからSNSのショート動画などで使用され、その名を冠するが如く再ヒットした。ギターのリフがおしゃれで掛け声なども多く、盛り上がること間違いなしの一曲である。がしかし、途中に入るベースソロが上級者でも弾くのが難しいということで有名だ。動画投稿サイトでもその部分を弾いている動画が上がっていたりする。


 冒頭ドラム四つ打ちから入る。序盤の簡単なループが続く部分、スティックパフォーマンスも入れて生徒を引き付ける。そこにギターが加わっていく。アレンジされておしゃれさが増したリフが弾かれる。


 イントロへと入る手前、タメが入る。一瞬の静寂。次の音を今か今かと待つ。


「お望み通り、いやそれ以上の音色を聞かせてやる」と言わんばかりの、ベースも、AKKIの方のギターも入った音圧の塊が耳に届く。原曲のかっこよさが、さらにかっこよくなっている気がする。それくらい凄まじい音が、館内を満たしていく。敵ながら思わずリズムをとってしまう。


「すごい」


 俺は心の底からバンドに魅了された。今この瞬間、圭さんと仲良くなる口実が半ば理由だったバンド活動の動機が、さらに付け足されていく。俺もこんな大勢を自分の、自分たちの奏でる音で魅了したい。大勢の前に立って自分の音を奏でたい。そして、圭さんとこの高揚感を共有したい。一緒に弾けたい。


 久我先輩が俺の頭をわしゃわしゃする。いつものようにいやがらせではなく、俺を勇気づけるためだと思う。その顔は、俺と同じような顔だった。


「これが、これが音楽なんだよ」


 彼らの演奏は終始生徒を魅了した。ベースソロも、上坂は見事に弾きこなした。ビートは一切ずれなかった。ボーカルはとってもパワフルで心臓にくる声だった。俺でさえも、上坂の態度や言動を抜きにして虜になった。伝わってくるんだ。彼が本当に音楽が好きだってことが……


「負けてらんねぇぞ。次は私たちだ」


「見せてやりましょう。私たちの、あれよりすごい化学反応を」


 翼先輩と姫野さんも燃えてるようだ。そうだよ、音楽を愛しているのは、なにも上坂だけじゃない。それに今の俺は、もう緊張なんて微塵も感じていない。ありがとう上坂……後攻でよかったよ。


「すごい!見事な演奏でした。『AKKI.feetスクリーム』の皆さんに盛大な拍手を!」


「休みなくいきますよ!次の演奏の準備をお願いします!」


 


「さ、行くよみんな!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


こんなに意気込んでるけど、全体合わせやってないんだよね。反省はしてません。

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