第24話 決着
圭さんは、ステージの上に上がってくる。
「如月さんが良いと思った方のバンドリーダーの手を挙げてください。その方を今日の勝者といたします」
部長がそう圭さんとみている生徒たちに説明する。圭さんの歩みは止まらない。遅くも早くもない、下校中の足幅くらい?余計わかんなくなったか。
「上坂くん、美空さんは目を瞑ってその場で立って待っていてください」
そう言われる。最後にみんなの顔を見ようと後ろを振り返る。清々しい位に笑顔である。久我先輩に至っては拳をこっちに突き出して自信持て!みたいに口パクしてる。このメンバーでできて本当に楽しかったな。
俺は覚悟を決めて目を瞑る。
予想外だった。生徒の多数決で決まってしまうと思っていた。別にそうならそうでいいと思っていた。バンドに入るだけ入って嫌なら行かなければいいと思っていた。多数決の結果でそれに至るなら他の人たちもまあ納得してくれるのではないかと、甘い考えが頭の中に過っていた。
曖昧にできない。自分自身の決断が今必要。つまり、自分で選ぶのだからその後を怠ることができない。しかし、逆を言えば私の好きな方に私自身の選択で行くことができる。誰にも文句は言われない。なら私が選ぶのは、もう決まりきったも同然。彼女たちが酷い音を奏でていたらこの道も閉じていたのだから、彼女たちの頑張りだってこの選択には考慮されていると言ってもいい。
私は足を止めずにズンズン進んでいく。
足音が止まる。横には上坂が同じく目を瞑って待っている。目の前には圭さんがいる。目を瞑っている状態ではあるが、久しぶりに圭さんがこんなに近くにいる。なんだか少し嬉しいな……ん?嬉しい?なんでだろ……
そんな疑問もすぐに吹き飛ぶ。右肩に手が乗せられる。これは圭さんの手……だろうか。俺の努力を労ってくれているようなぬくもりを感じる。
「まず……両者よく頑張った……と思う。上坂は、前よりも断然ベース上手かったし、遥はこう……初めてがんばってるとこ見れて、かっこよかった」
誰のどの言葉よりも嬉しかった。仲間の励ましを聞いてもなお出来栄えに不安が残っていたところに、今一番欲しかった言葉がかけられる。肩に乗っていた手が降ろされる。
「私が最後に選ぶんだから……多少の私情が入っても別にいいよね」
声の聞こえ方からして、これは見ている生徒の方に聞いている。生徒たちも、いきなりの問いかけにラグはあったものの拍手と歓声いう形でその問いを肯定する。
「じゃあ、決まった」
突如体に伝わる衝撃。優しい温かみに包まれる感覚。突然の外力により足がふらつき倒れてしまう。
「うわぁ!」
目を瞑っていたため、受け身も取れずにそのまま後ろに仰向けになる形で倒れる。もろに背中を打ち付けるという事態は、自分の両肘がカバーしてくれたおかげで回避する。がしかし、その両肘も打ちつけた衝撃で支えきれなくなり背中を地面につける。
「私、あなたを選ぶわ」
突如その声が前方……?上の方から聞こえる。事態を把握しようと衝撃によりぎゅっと瞑った目を開ける。俺のお腹の上に馬乗りになっている。逆光で顔がよく見えないけれど、状況と声からしてわかる。
さらには首に伸ばされる両手。密着する体。擦り寄る頬。鼻をくすぐる匂い。耳元でささやく声。
「一度やってみたかったの」
館内は静寂に包まれた。それは唖然からか、喜びの最絶頂からか、予想を裏切られたからか……それはそれは静かだった。
ただ一人、自分が友達になりたいと思っている女子にいきなり抱き着かれている彼(彼女)の心拍音だけが、駆け足に大きく聞こえるくらいには……
勝者――『インスタント』 美空遥
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すっげぇ雰囲気壊すメタ発言ですが、圭さん抜きの839人で10点差なんてものつくれないということを書いていて気づきました。なのでまあ近似的に10点差ということで、疑問を持っていた方もお許しください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます