第32話 行き当たりライブ
「うぉー結構出てるねー。何か食べたいものでもある?」
「今はお米にありつけるだけでも喜ばしい限りでございます」
「あはは、今の私はお金持ちだからなんでも言ってね」
大通りの歩道沿いの出店に沿って何があるかを一通り見ていく。いつもならそこらのスーパーで特売で買えそうな食べ物が、出店特区ともあって500円とか600円とかで売り出されている。恐ろしや出店。
「お、あそこにベビーカステラがあるよ。お嬢ちゃんあれ食べない?」
「お嬢ちゃんじゃないです。立派な高一、JKですよJK」
「わわわ、じゃあもしかして私とタメなの?いくらなんでも合法すぎじゃない?」
「危険思想を感知」
「ごめんごめん遠ざからないで!」
雰囲気というか活力というか、年上かなと思ったけれどもまさかのタメだった彼女は何かよくない考えを私に抱いたようだが、ベビーカステラを3つ彼女の方からもらうことで許すことにした。あと彼女から言葉遣いをタメ口にしてほしいと言われたため、もう一個なにかおごってもらうことで了承した。「これは高くつくよ……」と、彼女は財布を見てげんなりしていた。
ベビーカステラを食べるために駅前の広場まで戻って、芝生が植えられている広場に腰を下ろす。一口ほおばると、500円でこれか……とも思うけど、彼女との出会いと食事代だと割り切った。彼女もほおばりながら、「あ!」と思い出したようにこっちを向く。
「そういえば自己紹介まだだったね。私は蒼、
「りょーかい。私は美空遥。れっきとしたJKで私も音楽やってるよ……まだ活動とかはしてないというか、しようって言っても嫌だって言われるというかだけど……」
「じゃあ遥はバンドみたいなのを組もうとしてるんだ?」
「うん。一応友達に離れたけど、まだバンドやろうって誘いにだけは首を振られちゃうんだよねー」
俺は蒼にどうすればいいかアドバイスが欲しくて圭さんとのことを話すと、蒼はうーんと悩むそぶりをする。
「なんか前にあったのかもね。トラブルとか……トラウマとか」
「トラブル……」
「破廉恥じゃないよ?」
「それはわかるよ!」
まあまあそんな深く悩みなさんなと言って、蒼はおもむろにギターを取り出す。ギターケースを持って、こっちこっちと催促する。
「遥が今フリーなのはわかったし、いったん私と組んじゃおうか!」
蒼は少し屋か床になっているウッドデッキステージにギターケースを置いて、マイクを設置し始める。
「ちょっと蒼、私キーボードないんだけど」
「これ、見てたもれ」
そこには、都合がいいほどにストリートキーボードが一台。
「やろ、遥」
「ふえぇ……」
なにを演奏するかも決めていない、行き当たりばったりのライブが始まった。
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