第31話 ストリートギターガール

 学校の最寄り駅から二駅ほどで、新快速や新幹線も通る繁華街に出るため、俺は電車に乗ってその街に行く。ゴールデンウィークということもあって電車は満員で、窮屈な思いをしながらも10分ほどでついた。駅前のちょっとした広場では、GWフェス!と書かれた出店などがあって、美味しそうなにおいを漂わせている。朝と違って空が若干怪しいけども、あとで食べてみようかな。


 あれから全く楽器を触っていないので、ちょっとずつでも勉強していこうとキーボードの本を探しに大通りを進んでいくと、きれいな歌声が聞こえてくる。誰かがどうやら弾き語っているようだ。せっかくなので聴いていこうかなと周辺のベンチに座る。


 彼女は藍がかった黒色のショートカットで、軽快に爽やかな曲を弾く。可愛らしさもある顔立ちから、はきはきとした綺麗な歌声で耳触りが良い。目の前には開いたギターケースと、「もし気に入っていただけたらチップをお願いします」という文言とSNSのアカウントに行けるQRコードが載った看板が立ててある。どうしよう。お金がない。手持ちが2000円で、ご飯代1000円に本代850円……いや、今時本見なくても動画でなんとかなるか。1000円だけでも渡そうか。


 彼女にチップを渡すべくギターケースに近づくと、素晴らしい歌声とは裏腹に全くと言っていいほどチップが入っていない。うーん。まあ屋台にたこ焼きあったし……八個くらい入ってたら足りるだろう……知らんけど。


「お姉さん。ギターも歌も上手いね。これで美味しい物でも食べてね」


 ギターの彼女は俺の言葉に笑顔で


「ありがとう!出店お嬢ちゃんも楽しんでね!」


 きらきらはっぴーすまいるとともに、無意識の棘が俺の心を刺していったが、喜んでもらえて何より。俺は残った500円でたこ焼きでも……あ


「電車代もあるんだった……」


 



 









 二駅で120円。それを差し引いて380円。うぅ、何が食べられるんだろう。コンビニおにぎりかな。うぅ……何しにここに来たんだろう。颯爽とかっこいいお姉さんを目指して立ち去ったあのベンチまで戻ってきて、せめて1500円分最後まで聴かなくてはといういやらしい思考で彼女の弾き語りを聴く。まあ、そんな思考も音色とともに洗い流されていったのだけれど。


 興味がわいたので、看板にあるQRコードを読み取ってみる。映し出されたのはミンスタグラムのアカウント。


「AOI UMINO……ウミノアオイか」


 フォロワー数は600人くらい。俺はそんなに積極的にミンスタを使っていないのでこれが多いのか少ないのかあまりよく分からないけど、中学の時のクラスの子で200人くらいいたから、まあ駆け出しのギタリストってとこだろうか。過去の投稿を遡って見ていると、周りから拍手が上がる。


「みなさん今日は聴いてくださってありがとうございます!今日はこれで終わりです。もし良ければミンスタフォローお願いします!」


 彼女の締めを皮切りに、周りのお客さんがチップを入れだす。なるほど、ここにいるお客さんは何もただの通行人ではなかったようだ。俺と同じように、いや、ちゃんと彼女の音楽の虜になって、ちゃんと彼女の音楽を愛する人たちだったんだ。いやしい俺が嫌になる……


「あーいけないいけない。もう帰ろうか……お腹減ったし」


「お腹減ってまで私にチップくれたの?」


「いやー後先考えてなかったよね……え?」


 振り返ると、そこにはにこにこ笑顔の彼女が、ギターを背負って立っていた。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日初めてジェッソという物の存在を知りました。

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