第12話 あ、ふーん?(誤解)

「じゃあ、お前以外で四人集めないといけないのかよ……」


「ま、そうなりますな」


 現在俺は勧誘に成功した土下座とこれからの勧誘について話し合っている。こやつは一応ドラムらしいので、残るはギターとベースとボーカル。これは轢かれる前の男の時の話だけど、俺は極度の歌唱音痴だったので多分歌えないから、ボーカルもしっかり勧誘しておくべきだろう。


「つか、そういえば自己紹介してねぇじゃんかよ。せっかくだし今名乗りあおうぜ」


「おう。名を聞くのならまずはそちが名の名乗れ」


「名を名乗れだろ……俺は久我雄太くがゆうただ。二年生で軽音部所属。ただ最近入ったからまだ組んでなかったってわけだ。運が良かったな」


「なんか黒い引き金ブラックトリガーとか使ってそうだな」


「なんだそれ」


 そこまできたら”ま”だろと思ったけど、人の名前に文句言っても仕方ないね。てか最近入ったのにこやつは超絶ドラムとかうたってたのか。まさかその浅い歴と自身だけで土下座まで行ったのだろうか。


「違うわ。如月さんの歌声を聞いて、あの声とともにリズムを刻みたいって思ったから入ったんだ。本当なら一番最初に組む人も一番最初に人前で披露するのも如月さんと一緒が良かったんだが、背に腹は代えられん」


「並々ならぬ思い御見それします」


 俺だってあの圭さんとだから一緒に音楽をやりたいって思ったんだ。こやつの気持ちがわからんわけじゃない。が、しかし


「私の方が圭さんへの思いは大きいけどね」


「ほおぉう?聞き捨てならないな。お前はまだ聞いたことがないだろう。あの甘美でそして美しい声を」


「私は声なんか聞かなくても圭さんの雰囲気とかでやりたいってなったんであなたより見る目ありますー」


「んだとぉ!?」


ガラガラ

 扉が誰かに開けられる。俺と土下座はお互い掴みあっていた手を緩める。そーっとドアの方を見るとそこには


「お前ら、仲いいんだ」


 初日に出会った紺色の髪の色白美人さんがじとーっとした目で俺らを見ていた。あの、顔だけのぞかせるのなんか俺と土下座が空き教室で変なことしてたみたいに見えるからやめてもらえませんかね……え、もしかして変なことしてたと思われてる?


「まあ、なんだ。ほどほどにしとけよ」


 美人さんはこちらを気遣ってかそろーっと顔を引っ込めていく。


「おい土下座」


「土下座いうなや。あとこれよ。もしかして……」


「「あらぬ誤解を受けてしまった!!ま、待って!!」」


 

 急いでドアから廊下に出ると、すでに美人さんとの距離が空いてしまっていた。二人で急いで走って追いかける。あっちは歩いてるから早くに追いつくはず………あれ、歩いてるはずなのに、えなんで追いつかないの?


「あれ、歩いてるよね!?はぁ、はぁ」


「あれを見てっいってるのか?はぁはぁ、絶対歩いてるだろ!はぁ、はぁ」


「じゃあなんで私たちは追いつけないんだよ!!」


 見た感じすさささっと歩いてるだけの美人さんにはなぜか走っても容易に追いつくことはできず、時間にして3分。靴箱で外靴に履き替えようとする美人さんになんとか待ったをかけて誤解を解くのだった。








◇◇◇◇



「じゃあ、お前らは如月を取るためにバンドを組んで、今もメンバーを探してると」


「は、話が早くて……助かります……はぁ、はぁ」


「お前、初日から大変だな」


 美人さんに哀れまれた……あ、ちなみに土下座は走った勢いでお腹を下してトイレに行っている。ちなみにどうして俺が誤解を解くためにここまで走ったのか。それはこの美人さんも勧誘できたりするんじゃないかと思ったからだ。だってこの人が下げてるポシェットにギターのストラップが付いてるんだもん。少しくらいは期待しちゃうし、一見怖そうな雰囲気だけどあった時から何回も気を使われているのだ。彼女が根は優しい人なのだと十分理解できた。


「で、話が早い美人さんにまたお話なんですが」


黒咲翼くろさきつばさだ。その呼ばれ方はなんか気持ち悪ぃ」


 見た目もかっこいい美人さんなのに名前もかっこいい。王子様っぽくはないけど、なんていうんだろう。そのまま言った方がいいのかな。ショートボブだから可愛らしさとか綺麗さも残しつつ、イケメンな美人さん。おまけに気遣いもできる……あれ、でもよくよく思い返してみればさっきのは引いてただけ……?まあいっか。


「翼さんって呼んでいいですか!てか呼びます!率直に言いますが、私たちのバンドに入っていただけないでしょうか!!」


「いいよ」


 やっぱりこんないきなりいっても断られるよな……ついつい口から勢いよく出てしまったけれど、順序良くしっかり勧誘しなおして……て、え?


「ハァ……散々な目に遭った……おい味噌でんが……く」


「今、おっけーって言いました!!??」


「ああ。そう言った」


「やったぁぁぁぁぁあぁああ!!」


 俺はこんなにあっさりと、こんなに面倒くさそうなお願いを聞いてくれる美人さんに感動して思わず抱き着いてしまった。


「ちょ、ちょっと離れろ!暑苦しい」


「味噌田楽とあんたって……そういう仲だったの?」


「ちが///だ、断じて違う!誤解だ。離れろ!!」


「ありがと~翼さ~ん!」


「ご……ごゆっくり~」


「靴箱の前でゆっくりもクソもあるか!おい待て!こいつをどうにかしろ!おい!」












「……遥?」


 その光景を遠くから目にしていた圭は、食堂で買ったシュークリームの袋を思わず落としてしまった。


「なんでだろう……なんか、嫌だ」


 彼女はなぜか、自分でも初めて感じるなにかが頭の中を埋め尽くしていき、いてもたってもいられなくなって足早にその場から去るのだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


メンバー 三人

味噌田楽(役なし)

土下座男(超絶ドラム)

イケメン美人(???)

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