第27話 料理とは感覚である
「遥。猫の手じゃないと危ない」
「指と包丁に距離あるから切れないですって」
「怪我したら危ない。ほら、よそ見しない。あと目、拭いて」
時刻は午後6時を回る。まだ夏に入ろうとしている季節だから外は明るめだが、地域のチャイムが鳴る。今は圭さんと一緒に夕食のカレー作り。圭さんは慣れた手つきでじゃがいもをしゅぱしゅぱ切っていく。対する俺は慣れないたまねぎのカットに大苦戦。挙句目がしゅぱしゅぱして涙が止まらない。
「圭しゃん。なみだが……どまらない”」
「鼻水かんできて。不潔」
戦線離脱。鼻水を出し切って頭もすっきりしたところで無念ながらも洗い物に徹する。圭さんはコンロに火をかけて野菜と肉を煮込んでいく。
「遥。冷蔵庫からはちみつとってきて」
「あいあいさー」
業務用かと思うくらいにでっかい冷蔵庫を開けると、きっちり整理整頓された調味料棚に手をかける。ま、マヌカハニー……すげぇ。
「甘口、嫌だった?」
「いえいえ、私も辛いの苦手なんで」
「……そう」
え、なんか微笑まれたんだけど。絶対馬鹿にされたよね。うわーおこちゃまだーって思われたよね。
「や、やっぱ辛くていいですよ」
「え?」
え、そんな顔しかめるの?俺が辛口いけるのがそこまで嫌なのか?
「覚悟は良いか?」
「お、おれはできてる!」
バサッ。その刹那大量の粉が舞う。赤く色づいたその散り散りは、カレーになる鍋めがけてひらりひらりと落ちていく。
さらば、愛しき野菜たち。さらば、吾が望む最高のカレー。今夜はどうやら、僕の命日のようだ。
「……やっぱり、辛いのダメだったんじゃ」
「はは、父さん母さん、先立つ不孝をお許しください」
「……馬鹿なの?」
圭さんはため息をついて握っているビンの裏を見せる。こ、これは……
「スパイシーカレーの素。中辛」
中辛。その言葉が頭の中で反芻される。僕、まだ生きてるよ……父さん!母さん!!
「馬鹿だったみたいだ……」
「舌がぴりぴりする」
「強がるからそうなるの」
「うぅ」
出来上がるころには日も暮れて、19:00頃。デカめの水ピッチャーを片脇に添えて、俺と圭さんでご飯を食べている。めちゃ辛くなって命果てるまではいかなかったけれど、中辛がじわじわ俺の舌と喉を攻撃してくるため、もはやカレーよりも水を飲みすぎてお腹がタプタプである。
「あそうだ。圭さんこれ行きませんか?」
俺は唐突に思いだしたものをスマホで見せる。
「ん?ぬこぬこ激談義……なにこれ」
「来週末にあるんですけど、ネッ友と行こうとしてたらその子が急に来れないってなって……初めて会えると思ってわくわくしてたんですけど」
「それで私に……」
このイベントはなかなかに人を選ぶものもあれど、中に入ればもうそれはUSJくらいはしゃげるでっかいイベントだ。
「ごめん。この日は空いてないかも」
「……まじすか」
ペアチケットだしペア限定のイベントとかも参加したかったんだけどなぁ。学校とかで誰か見つけるかな。
「うん。ごめん」
「んじゃ!気を取り直してさくっと軽く歌でも―――」
「お風呂入る」
「ちょ待ってくださいよー」
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やっとテストが終わったのでちょっとずつ書いていこうと思います。
追記:誤字訂正しました。
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