第53話 clear leaf ②
「よし……深く刺さってなくてよかった」
うっ、と、刺すような痛みで目が覚める。目が覚めて、実際に刺したんだっけと自嘲して、そのまま諸々思い出してまた気が狂いそうになったけど、目の前にいる女の人がすごく丁寧に手当てをしてくれていることに気づく。私が、ひよってたから、ハサミって言っても、病院に行かなきゃいけないほどに刺さってなかったようだ。
雨は止んでおらず、私たちは公園のトンネルみたいな遊具の中で雨宿りをしているような状況だった。
無言。お互いがお互いをさらけ出すのを待つように、深入りしてはいけないかのように沈黙が流れる。私はこのとき、人を信じる気になれなくて、向こうが話しかけてくるのをずっと待っていた。それに気づいたのか、自分のことをつらつらと話し出す。目線はお互い、トンネルの壁を見つめている。
「俺さ―――
一人称が俺だった。そのことに驚いて、女の人の方を見る。急に見られたからか、向こうもびっくりしていた。
「あ、つ、続けてください」
「あ、うん。ごめん。俺さ、こんなぱっとしない見た目でさ。学校でも友達いなくて。いっつも自分の世界で笑ってるから気味悪がられてて」
私と一緒だと。話の第一印象はそれだった。ただ、私を騙して共感を誘って、そこからまた突き落とされるかもしれない。あの最悪な出来事の延長かもしれないと、まだ私は話半分信じ切れずにいた。
「俺、最初は夢っぽいこともあったんだけどさ……て、今こんな話してもあれだよね。ごめん……」
私の人生は、一体どこで狂ってしまったのだろうか。さっきのあれが起こるまでに、なにか私が変わることができていたんじゃないか。
「私も……その、あなたの足、しょ、衝動で……」
「あぁだいじょぶだいじょぶ、この前棚の上からほこりまみれのキーボードに頭つぶされかけたところだから、別にこれくらいはなんともないよ」
「そ……それは、それは……」
「君の方も、気に病むことはあっても、自分を傷つけちゃだめだ」
「その……私、私っ」
そこからの記憶はあいまいで、何か彼女と話したのは覚えてるけど、何を話したのかは覚えてない。気が付けば彼女は去っていて、雨も上がっていて……
ふと気が付いて、傷は誤魔化せばいいし、とりあえず帰ろうと思い立った矢先、地面に紙が落ちていることに気づいた。
「レシート……」
あの人が落としたのだろうか。それとも入ってきたときに気づかなかっただけで、誰かが落としていたものなのか。真相はいまだに分かっていないけど、気を紛らわしたかった私は、それを拾って帰った。あとで調べてみようと思った。
母には、帰り道にこけたと誤魔化した。多少怪しまれたけど、それ以上は何も言われなかった。
学校のカバンと、その中のものは自分で隠れて処理していった。教科書が入っている場所とは別だったから、授業がどうこうという問題はないだろう。しかし、またそれを目にすると私はとてつもない倦怠感と嫌悪感に苛まれる。
私は、本当に関係がないことで頭を満たしたくなり、レシートに書かれている品名を頼りに、これが一体何なのかパソコンで調てみた。すると、そこに書かれていたのはあまり星がついていないPCゲームだった。
「600円……」
パソコンでダウンロードサイトにて価格を調べると、格安だった。割とレビューは否定的なものが多かったが、ただ一人高評価をつけている人がいた。この人がこのレシートの持ち主だろうか。そう推測してしまいそうになるほど、レビューはぼろくそだった。
「レシート……1080円なのに」
なんだか少し気の毒な気持ちになった。
ゲームは簡素な対戦型タワーディフェンスだった。スマホで無料でできるようなクオリティだ。一つ特徴的なところを上げるとしたら、なぜかフレンド機能とチャット機能がついているところだろうか。
早速やってみようとしたが、人がいないのかコンピューター戦でしかつながらない。だけど、ウェーブごとに能力をゲットしていくのはまあ、ついつい時間を使ってしまう。しかもこの能力だが、組み合わせを考えるとなんと2000を超えるそうだ。どこにお金をかけているんだと私は思う。夜23時くらいだろうか。最後くらい人とやりたいと思ってオンラインマッチへと駆り出す。5分10分待っても誰も来ない。気が利いてボットでも来るかと思ったが、しっかり人を待つ感じのゲームらしい。
待つのも悪くないと、スマホで小説を読みながら待とうと思った。けど、小説を読んだり、音楽を聴くという自分にとって至高の行為でさえ、私に嫌なものをつきつけるようで、できない。
黙々と、ただマッチングを待つ。半ば泣きながら、ただ待つ。すがるようにして、ただ待った。
ピコンと音がする。PCに顔を向けると、マッチング成功という文字。そこから待ちに待った対人戦が始まった。
「うお、すご、これ人あんまいないのに」
このゲームは、一体どこにお金をかけているのだろうか。なんとボイスチャット機能さえも有していた。さすがに知らないでびっくりした私は、意図せず声が出てしまう。
「あ、ごめんなさいビビらしちゃったね。このゲーム金額に見合うアップデートが別の場所にされるから、プレイ人口がめっちゃ少ないんだよね。当たったら見ない人だったからつい声出しちゃった」
声はどこか、放課後に会った人に似ていた。
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ちょっと勉強するので年明けまで休みます。最後に駄文を少々残していきます
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