第35話 どうして私以外とやったの?

 その場にいたお客さんや、カンペの男の人、途中乱入してくれた人たちに感謝を述べて、ライブは解散となった。蒼とはそこで連絡先を交換して別れて、圭さんとはせっかくなので一緒に街ぶらしよう!って感じで今喫茶店でゆったりしている。4人掛けのテーブル席なのだが、なぜか圭さんは俺の隣に座った。向かいの椅子よりソファーが良かったのだろうか。先にどっち座るか聞かなかった俺の落ち度でもあるので、そのままゆっくりしている。



 5月初めとはいっても、今日は7月上旬の気温で汗がびっしょりだったため、店内の空調がとってもひんやりしていて気持ちいい。


「圭さんなに頼みます?」


「私は……アイスコーヒー。ブラックでいい」


「うわっ、大人か」


「だって、砂糖とかミルクとか、入れたくないもん」


 もん。かわよすぎか?朝と比べてどこか表情が豊かになったというか、感情が表に出るようになったというか……萌え死にしそう。


「じゃあ私はナポリタンとオレンジジュースで」


「お腹すいてたんだ……」


「当たり前ですよ!チップ入れたらお金なくなっちゃったんですから!」


「お金。なくなるくらい、よかったんだ……」


「そりゃもう!蒼のギター上手かったなぁ……また一緒にやりたいなって思いました!」


「そっか……ふーん。そう、なんだ」


 圭さんが頭を私の肩に乗せる。お互い汗かいてたから、ぴたっとくっつくと、その湿り気が伝わってくる。


「け、圭さん。汚いですよ。私汗いっぱいかいちゃったんですから」


「別に、汚れてないし。ふん」


 なんかご機嫌が斜めになってしまったようだ。なんなら両腕を私の左手に絡めてくる。圭さんの熱気がもろに伝わってきて、空調で右半身がより冷やされているように感じる。


「ちょ、ちょっと……風邪ひいちゃいますよ。嫌ですよ私。ここ数年毎年夏風邪ひいてるんですから」


「ふーん。そう……」


「え、無関心ですか?圭さんにも関わる体調のお話なんですけど」


「私は別に、いい。ひいても」


「いやだめでしょ。せっかく綺麗な声してるのに、ガサガサになっちゃいますよ?」


「綺麗……ふーん、そう……」


「え?話聞いてました?」


 圭さんは頬をすりすりしながら、もっと腕を締め付けてくる。猫なの?かわいすぎじゃない?俺の汗臭わない?。



「おまたせせしました。ご注文の商品です」


 ごゆっくり~。と、おっとりした店員さんの声が遠のいていく。テーブルの上にはそこそこボリュームのあるナポリタンと、値段の割にはグラスが大きくいっぱい入っているオレンジジュースとアイスコーヒーが置かれている。初めて来たけど、絶対ここ常連さんに愛されてるだろうな。


「ほーら。パスタ来ちゃったんでそろそろ離れてください」


「やだ。もう、離さない……」


「はいはいワガママはちょっとがまんしましょうねー」


「今馬鹿にした」


「痛い痛い痛い!してないですって!ご、ごめんなさい勘弁して!」


 

 俺の思考は読まれているのだろうか。ちょっとでもいたずら心が入った言葉は、こうして絡められた腕で関節技を決められるのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


もうすぐ球技大会。なのに、今日ちょっとジャンプして着地しただけで足をつりました……

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