第44話 嘘つき貴族


 ジェーンが書いた手紙では、マリーは無理やり連れ去られたということになっている。

 2000年に戦地となったイストリアから、応援を要請するのにテントリアへ向かった一団と一緒に、ジェーンがいた。

 新皇帝の娘を安全なテントリアへ送り届けるという任務も、並行して行われていたようだ。

 ミザリは体調があまり良くなかったことから、ジェーンだけがテントリアに……

 その際、生まれたばかりのマリーを連れていた。


 人間の妹は残念ながら無事に生まれることができなかったが、代わりマリーをジェーンは可愛がっていた。

 しかし、当時、ジェーンより少し大きなチリチリ頭の貴族の少年がマリーを見て「単眼ドラゴンが欲しい」と父親に訴える。

 父親はいくらでも出すから、ドラゴンを譲るように言ったが、ジェーンは大切な妹を手放すわけがない。

 ジェーンが一人でいるときを狙って、マリーは貴族の少年に奪われた。


 少年の名前までは書かれていな方が、チリチリ頭であることと、アフロの年齢が一致する。

 そして、何よりマリーを取られてしまったことを申し訳なく思って書かれたこの手紙の右下に、あのチューリップの絵が描かれているのが決め手となった。


「あの野郎……!!」


 姉上の日記に書かれていたミザリが死んだ日にちと、マリーがこの手紙をテントリアからミザリの実家へ送った日にちが同じだ。

 おそらくこの後、イストリアから援軍を要請しに来た一団と一緒に、イストリアに戻り、ミザリの死を知ったのだろう。

 マリーを探して、一人でもう一度テントリアに行こうとしていたのかもしれない。

 行方不明になったのは、その時だ。


「ムートが生まれた時期とも一緒だし……私覚えているわ。小さい頃、ムートを欲しがって何度も貴族の男の子が来ていたこと。でも、ムートは工房にとって欠かせない存在だったから、祖父も父も、決して譲らなかった。それが、ある日突然、来なくなったの。不思議に思っていたけど……今思えば、それがヴィジョン家の次男だったのかもしれないって」


 マーナは当時まだ幼かったため、そのドラゴンを欲しがっていた貴族の子供がアフロだったことに気がついていなかったようだ。


 なにが、イストリアで捨てられた————だ。

 無理やり連れ去ったのは、お前じゃないか。


 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 もし、あいつがマリーを無理やり連れていかなければ、ジェーンは今頃行方不明になんてなっていなかったかもしれない。

 所在も、生死もわからない今のような状態には、なっていなかったはずだ。


「あ、リヴァン! ちょうどよかった!」


 今すぐウェストリアのドラゴン屋敷に戻ろうと踵を返した瞬間、村長の家から出て来たミクスに声をかけられる。

 手には大きな古びた紙を持っていた。


「地図が見つかったわ! それで、冥界鏡がある場所なんだけど……おかしいの」

「おかしい……? 何が?」


 ミクスは地図を広げる。


「冥界鏡は、世界に一つしかないはずなのに、地図上では二つあるのよ」

「二つ……?」


 地図で示されている鏡の位置。

 冥界鏡以外の三つは、それぞれ判明している場所に名前が出ているため、間違いはない。

 ただ、冥界鏡だけが二箇所にその名前が表示されていた。


「一つはイストリアだけど、もう一つはここ。ウェストリアにあるわ」

「どういうことだ……!?」

「詳しくはわからない。でも、リヴァン、バーレさんの家に行ったんでしょう? その時、見なかった?」

「え……?」

「この地図が示している冥界鏡がある場所————バーレさんの家よ。ヴィジョン家の次男の屋敷だって、ベネット村長が……」


 一体、どういうことだ……?

 どうして、冥界鏡がそこにある……?


「————とにかく、そこへ行ってみようじゃないか」


 そこへ、とてもやつれた表情のレモントが逃げるように飛び出してくる。

 ウォリーも出て来たが、目の焦点が合っていない。


「こんなところにいたら、体がいくつ合っても持たない……!! 行こうぜ……その家に!!」


 二人ともトニコさんのポーションの実験台にされて、相当疲弊しているようだったが、一緒に行くと言ってきかなかった。

 一分一秒でも、この家から出たいのだと必死の形相で言われ、今度は村長も一緒に5人でもう一度、あのドラゴン屋敷へ。


 移動中の馬車の中で、マリーが無理やり連れ去られたドラゴンだったことを知ったミクスは、怒りをあらわにしていた。


「バーレさんはいい人だけど、そのチリチリ頭は許せないわ!! 典型的なクズ貴族野郎じゃない!! 人のものを……大事な家族を勝手に連れ去るなんて!!」


 そんな家に、いくらドラゴンの収集家で知識が豊富だとしても、ルースを預けられない。

 ルースはマリーの……ジェーンが大事にしていたドラゴンの子供だ。

 ひょっとしたら、マリーがテントリア近くのあの山でルースを生んだのも、ジェーンを探してとった行動だったのかもしれない。


「……あ、ギャラディ家————チリチリ頭……————そうだ」


 俺はその時、昔のことを思い出した。

 あの離宮————俺が暮らしていたグリブ村の離宮。

 まだクロと出会うずっと前、チリチリ頭のメイドが一人、ガイルに会いに来ていた貴族の男と恋に落ちて、メイドをやめていった事があった。


 そのメイドの嫁ぎ先がギャラディ家だ。

 あのメイドは、嘘つきな上、手癖が悪くてよく人のものを盗む。

 何度もメイド長から注意されていたのを、俺は見ている。


 母方の親戚ということは、アフロにもその盗人の血が流れているということか————


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皇帝殺しの勇者様 星来 香文子 @eru_melon

作家にギフトを贈る

おおおおお贈ってくれるんですか!? なんていい人だ( ;∀;)神や
カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

サポーター

新しいサポーター

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ