第22話 本物の勇者様


 ファスト村の宿には、俺以外の12人の勇者が閉じ込められていた。

 それも、全員が勇者証明証であるピアスを耳につけている、正式な手続きを踏んだ勇者だ。

 もちろん全員俺よりも先輩の勇者。

 旅をしてる勇者であれば、魔族と人間のハーフや生まれつき銀髪の子供も存在することを知っている。

 だからこそ、幼い人間の子供のふりをしていたトロイに皆騙された。

 宿には監禁魔法の仕掛けが施されていて、本当の宿の娘・ケージィが外側から鍵をかけることで完成するようになっていたそうだ。


「本当に、助かりました。どうすることもできず、困っていたのです」


 ケージィは、トロイに殺されてしまったが、代わりに閉じ込められた勇者たちに経緯の説明をし、村長が頭を下げる。


「私たちは脅されていたのです。ファスト村の周りには、村人たちが逃げ出さないように監禁魔法がかけられていました。魔力のほとんどない我々は、入ることはできても、出ることができず……」


 村に住んでいた武器職人たちであれば少しは魔法が使えるが、その多くが帝都テントリアで開かれている品評会に出席するために出払っている間の出来事だった。

 村に現れたトロイが、助けて欲しければ13人の勇者の命と引き換えだと……

 ケージィは両親を人質に取られており、勇者監禁に協力。

 やっと13人の勇者を監禁することに成功したものの、結果はこの通り。

 魔族が、約束なんて守るわけがない。


「勇者が12人もいたのに、何もできなかった……と、いうことですか?」


 他の勇者たちの方を見たが、皆気まずそうに視線を逸らした。

 全員俺より大人で、体格も持っている武器、見つけている防具もそこそこ上等なものだが……


「誰も、脱出できなかったと……?」


 僧侶を連れている勇者、魔法使いを連れている勇者だっているのに、誰一人、破壊も解除もできなかったなんて、なんて情けない。

 これのどこが勇者なのか。


「し、仕方がないだろう!? 俺は別に、魔族を倒すために勇者になったわけじゃない。魔物を狩って、賞金を稼ぐために勇者になったんだ」

「そうだ! 僕だって、魔族と戦おうなんてそんな恐ろしいこと思ってない。それに、トロイって、確か魔王軍の四天王の部下じゃなかったか?」

「そ、そうだ!! 何処かで聞いたなだと思っていた! 大鎌サイス振りのトロイだろう!?」

「それなら儂も聞いたことがある! 自分の身長よりはるかに大きな鎌で人間を狩る、死神と呼ばれている魔族だ!!」


 勇者たちは、相手が悪かったと自分を正当化しようとしている。

 情けない。

 本当に……


「そんなすごい魔族から、この村を救っていただいただなんて……!! あなたこそ、本物の勇者様!! どうぞどうぞ、こちらへ。お礼に、この村一番のおもてなしを……!!」


 勇者を13人犠牲にして、助かろうとしていた村人たちが、ニコニコと笑いながら俺たちを持て囃しだした。

 レモントは乳のでかい女たちに囲まれて、嬉しそうに鼻の下を伸ばしていたが、俺は本当に気分が悪い。

 魔族と戦う勇気のない勇者も、簡単に魔族から助かるために他者を犠牲にしようとした村人たちも、すべてが気持ち悪い。


 村のあちこちには、鎌で首をはねられた血の痕が残っているというのに、お礼だと言って盛大な宴まで開かれた。


「勇者様バンザーイ!!」

「リヴァン様バンザーイ!!」

「あなたこそ、本物の勇者様だ!!」


 なぜ笑っていられる?

 どうして、まるで何事もなかったかのように、酒を飲み、歌い、踊っているんだ?

 何もかも、気持ち悪い。

 この村も、この国も、まともな奴は、一人もいない。



 *



 ファスト村で起こった出来事は、あっという間に広がって勇者・リヴァンの名前は、国中に知れ渡ることになる。

 後から知ったのだが、勇者登録をして1日目で魔物数匹と魔族————それもかなりの強者だったトロイを退治したことで振り込まれた賞金が過去最高記録だったことが原因らしい。


『本物の勇者現る』と、数日後に新聞に名前が載るほどだった。

 この程度のことで、こんなに騒がれるなんて……本当にどうかしている。



「————監禁魔法を解除したわたしのことはこれだけか!? まったく、ちゃんと取材して記事にしないなんて!!」


 それから数日後、ファスト村から次の目的地を目指し、馬車の荷台に乗せてもらいながら移動している道中でレモントはその新聞記事を読んで怒っていた。

 人相書きも全然似ていないし、『一緒にいるのは僧侶らしい』としか書かれていなかったからだ。


「新聞に載ったなんて、女の子たちに自慢できると思ったのに!! なんだよもう!!」

「レモント……なんでお前は本当に、有能なのにそうなんだ?」

「そう、とは?」

「女にモテることしか考えてないだろう。僧侶のくせに……それに、小さいことでいちいちしつこい」

「……リヴァン、君こそ、なんでそんなにクールでいられるわけ? 新聞に載るくらいすごい魔族を倒したんだよ? モテるじゃん。それだけで、女の子たちにモテるじゃん。ファスト村でもさ、女の子たちから誘われたのに全部断ってたよね?」

「興味がないんだよ。気持ち悪いし」


 まったく、この女好きの僧侶は、自分が村人たちに魔族に売られた側だったということがわかっていないのだろうか?

 そんな村の女たちに言い寄られるなんて、最悪だろうが……!!

 それに俺には、妻が————ミザリがいるんだ。

 前世の話であっても、俺が愛している女は、ミザリただ一人。

 他の女に興味はない。


「……気持ち悪いって、まさか、リヴァン、君————……」


 レモントは自分の胸を守るように両手を組んで、俺から少し離れる。


「もしかして、男色? ごめん、わたしはそういう趣味はないよ?」

「そんなわけあるか! 俺にだって、好みというものがあるという話だろうが……————まったく、なんだってみんな俺に対してそういう反応をするんだよ……」

「みんな? 他にも、誰かに言われたことがあるのかい?」

「あ……いや、言われたというよりは……————」


 俺はレモントのその仕草を見て、ミクスのことを思ってしまった。


 ————きっと、あいつは俺が何も言わずにノストリアを出たことを怒っているだろうな。

 新聞なんて読まないだろうけど、もし、ミクスの耳に俺の旅路が伝わったなら、少しは安心してくれるだろうか……?


「……なんだよ、途中でやめるなよ、気になるだろう?」

「別に、なんでもない。とにかく、町へ着くまでまだかかる。少し寝たいから、黙っていてくれないか? うるさい」

「な!! 失礼な!! わたしのどこがうるさいというんだ!! こんなに寡黙で横顔の美しい男はそういないぞ!?」

「…………」

「うぉい!! リヴァン!! なんとか言え!! 無視するな! おーい!!」


 ————ああ、本当に、うるさいなぁ、この僧侶。




【第2章 旅立ち 了】



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 この作品は「第9回カクヨムWeb小説コンテスト」異世界ファンタジー部門応募作品です。

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