第21話 愚か
「やった! ふふふ!! これで助かる!!」
女は嬉しそうに笑いながら、ドアから離れて行く。
その女が何者か、なんの目的でこんなことをしたのかはわからなかったが、とにかく俺たちはこの部屋に閉じ込められた。
それに、女は13人目と言っていた。
ということは、俺たちの他にも11人、閉じ込められているということだろうか……
————一体、何のために?
『終わったのかい!?』
『ああ、13人集まったそうだ』
『よかった!! これで、この村は救われる!!』
窓の外から急に人々の声が聞こえ、鉄格子の隙間から覗いてみると、誰も歩いていなかった静かな村に人がいる。
家の中に隠れていたのだろう。
子供達は嬉しそうに走り回り、大人たちは抱き合い、喜びの涙を流しているように見えた。
「村が、救われる?」
ところどころ聞こえる村人たちの会話。
それだけでは、何があったのか把握するにはまだ不十分だった。
ただ……
『約束通り、13人の勇者を集めました。だから……』
甲高い女の声は、よく通る。
『だから、お願いします。この村から出て行ってください。トロイ様』
————トロイ……!?
夕陽のせいで髪の色がよくわからなかったが、走り回っている子供達とは他に、こちらに背を向けて立っている銀髪の少年がいた。
女をはじめとする村人たちは、その少年に向かって頭を下げている。
「……やっぱり、魔族だ」
最初に思った通り、銀髪の少年トロイは魔族だった。
受付で話をした時は、怯えている幼い子供を演じていたんだと、その後ろ姿を見ただけでわかる。
『あははははははっ!! 全く、馬鹿な奴らだなぁ、勇者ってやつは!!』
トロイは右手に自身の体よりも大きな鎌を持ち、俺があの日見た魔王と同じように下品に笑っていた。
そして————
『人間というのは、実に愚かだ』
大きな鎌を一振りして、頭を下げていた人々の首をはねた。
『きゃああああああ』
『な、何を!?』
『は、話が違う!!! どうして、どうして、勇者を13人捕まえたら、解放してくれるって……この村を出て行くって約束は!?』
————ああ、本当に、馬鹿だよ。人間は。
『この
————魔族は、人を殺すんだ。信用なんて、意味がない。
首と胴体の離れた死体が転がっている中を、何もわかっていない子供達は走り回る。
その様子を見ていた大人なたちが無理やり子供達の手を引いて、逃げて行く。
それでも、トロイは殺戮をやめなかった。
その様子が、二年前のイストリアでのあの惨劇を思い出させる。
「あいつ……殺してやる」
だが、ドアも窓も開かない。
それなら、部屋ごとぶっ壊してやろうと思った。
ところが————
「————ちょっと待って、壊すつもり?」
「レモント!? お前、いつの間に……」
服も着ていないし、髪も濡れたままのレモントが俺を止める。
「建物が倒壊したら、修繕費を要求されるかもしれないよ?」
「は? そんなこと言ってる場合か!! 今すぐここを出て、あの魔族のガキを殺さないと」
「だーかーら、そのためには、この監禁魔法を解除しないとだろう?」
「それが無理だから、壊そうとしてるんだろう!? お前、状況わかってるのか!?」
「わかってるよ! 部屋を壊すのにその大事な魔力を使う必要ないって言ってんの。魔族ぶっ殺すのに使ってって、言ってんの」
レモントはそういうと、全裸のままドアの方に手をかざした。
「わたしは僧侶だって言ってるだろう? こんな魔法は、ちょちょいのちょいで解除できるんだよ」
するとすぐにガチャリと大きな音がして、ドアの鍵も、窓の鉄格子も消えて無くなる。
「……本物だったんだな」
「まだ疑ってたの? ひどいなぁ……ほら、わたしも服を着たらすぐに追いかけるから、思う存分暴れてきなよ、勇者様」
なんだかバカにされたような気もしたが、今はそんなことはどうでもいい。
俺は階段を駆け下り、宿から飛び出るとトロイの後を追った。
道に倒れている死体を辿れば、すぐに追いついて、鎌を振り上げていたその背中を斬る。
ありったけの魔力を込めた剣で……
「なっ!? 勇者!? 一体、どこから————っ!?」
俺に気がついて、トロイは振り返ったが、もう遅い。
傷口から真っ赤な炎が燃え広がる。
「熱い……熱い……! 体がぁあ」
対魔族用のこの技は、魔族の血を燃やす。
魔族にとって、一番、苦しい死に方をするといわれている————ノストリアで学んだ剣術と魔法の融合だ。
「ぎゃあああああああああああああああ」
トロイの体は内側から燃えて、穴という穴から煙をあげ、のたうち回ったあと、ピタリと動かなくなった。
「……愚かなのは、魔族の方だ。人間をなめるなクソが」
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