第3章 皇女と初恋

第23話 戦士の村


 ファスト村から西へ進むと、山の中に戦士の村と呼ばれているオセンチ村がある。

 ファスト村では職人たちは不在、その上あの大鎌のトロイが武器のほとんどを破壊してしまっていたため、防具くらいしか手に入れられなかった俺は、このオセンチ村にあるという伝説の聖剣————サークロを手に入れようと思った。


「サークロって、確かこの村にある洞窟の地面に突き刺さってるやつだよね?」

「ああ、2000年以上前————この国が統一される前、伝説の戦士・サークロが魔族を倒した時に使っていたとされる聖剣だ」

「そんな古い剣で戦えるの?」

「実物を見たのは、もう40年以上前だから……今どうなっているかは……————」

「……40年? は? え? リヴァン、君、今年15歳って言ってなかった?」

「え? あ、ああ、俺じゃなくて、俺の父親だ」

「なーんだ、びっくりした」


 うっかり口が滑ってしまったが、レモントは単純な男で、すぐにごまかしたらなんとかなった。


「俺の父が……————子供の頃に見たと言っていた。2000年以上前のものとは思えないほど、立派で、村の戦士たちが守り抜いてきた洞窟の中に突き刺さったまま、誰も抜くことができずにいるんだとか……」


 実際に見たのは、前世の俺が確かまだ10代の頃。

 父のノストリア地方の視察について回った時の話だ。

 サークロを抜くためにたくさんの人々が毎日のようにつかに手をかけたが、ピクリとも動かない。

 俺も挑戦してみようと思ったが、当時は触れることすらできなかった。

 まるで聖剣に意思があるかのように、触れようとした瞬間に手にバチと火花が散ったのを覚えている。


「————この聖剣は、本当に聖剣を必要としている者にしか抜くことができないと言われています。もし、引き抜くことが出来るとしたら、それはこの国が再び魔族の脅威に晒されている時でしょう」


 オセンチ村に着くと、40年前の村長と全く同じ顔、同じフォルムの髪はないのに髭だけは立派な村長が俺たちを歓迎し、まったく同じことを言いながら俺たちを聖剣がある洞窟に案内してくれた。

 昔は聖剣を抜こうとたくさんの若者がきていたが、今は誰も抜くことができないと諦めて、年に数人しか挑戦者が現れないのだとか……


「ウォリー……! お前はまた来たのか」

「やぁ、村長! 今日こそ、このオレが抜いてやろうと思ってね!!」


 洞窟の様子は40年前と変わりなかったが、聖剣の前に戦士が一人立っていた。

 村長の話によれば、彼の名前はウォリー。

 この村一番と呼ばれている鍛え上げられた筋肉が服の上からでもわかるほどにの若者で、ウォリーは自分こそがこの聖剣を引き抜くのだと子供の頃から体を鍛え続けているのだという。


「それで、抜けたのかい?」

「今から挑戦するところだ! まぁ、見ていてくれよ!!」


 特に肩と腕、そして首の筋肉が素晴らしい。

 まさに戦士と言わんばかりの男だった。

 まぁ、少々身長が低いところが残念だが……


 ウォリーは日に焼けた肌とは正反対の真っ白な歯を見せながら自信満々に笑い、両手でしっかりと聖剣の柄を掴んだ。


「行くぞ!!」


 気迫がすごい。

 思わず息を飲みながら、俺とレモントは彼の挑戦を見つめる。


「うおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びをあげながら、体を後ろに倒すウォリー。

 しかし、どんなに頑張っても聖剣は抜けない。

 手元で火花が散っているのに、彼は何度も引き抜こうと頑張っていた。


「く、くそ!! どうしてだ!? どうしてダメなんだ!?」


 あんなに筋骨隆々きんこつりゅうりゅうな男が挑んでもピクリともしない聖剣なのか……と、俺もレモントもその様子をみて、流石に無理だと思った。

 しかし、村長は悔しがって地団駄を踏んでいるウォリーを無視して、俺に挑戦を促した。


「あなたはあの魔族を倒した勇者様なのでしょう? ぜひ挑戦してみてください。見事に引き抜けたら、持って帰っていただいて構いません。もうあの聖剣による観光客の見込みもないですしねぇ。本当はさっさとこの洞窟を改装して、新しい事業をしようという話が出てるのですよ」


 どうやら、全く抜けない聖剣は、この村にとって今や邪魔でしかないらしい。


「そういうことなら……————」


 俺は覚悟を決めて、聖剣の柄に触れた。

 以前は、火花が散って引き抜くどころか、触ることもできなかったが、今回は簡単に触れることが出来る。

 あの時は、まだ子供だったからだろうか?

 それとも、聖剣に嫌われていただけなのか————


「ふん、オレに抜けない聖剣だぞ? お前のような貧弱な若造に、抜けるわけ……————」


 ウォリーは抜けるはずがないと笑っていたが、なぜだろう。

 柄をしっかり握った瞬間、抜けるような気がした。

 対して力を入れることもなく、スポッと音を立てて簡単に地面から抜けてしまう。


「あ、抜けた」

「ななななな、なんで……? えええ!?」


 その場にいた誰も信じられなかった。

 しかし、聖剣は確かに地面から引き抜かれ、俺の手中に収まった。




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