第19話 最初の村


 レモントの話は長かった。

 とりあえず、要約するとレモントも俺と同じく魔王軍に家族を殺されている。

 殺されたのはレモントが5歳くらいの頃。

 魔王を倒して復讐を遂げたいと思っているらしい。


「わたしの家は、代々続く魔法使いの家系だったんだけど、生き残ったのはわたし一人でね……まぁ、その人ももう亡くなってしまったけれど、祖父の友人だという人の紹介で僧侶に預けられてね……両親が生きていたらわたしも今頃、魔法使いとして女性にモテモテだったはずなのに!!」


 やっとノストリアから離れ、最初の目的地であるファスト村に辿り着くまでの道中の森で彼はとても悔しそうにしながらこう言っていた。


「いや、お前僧侶なのになんでそんなにモテたいんだよ」

「これは、反動だ。わかるか? 家族を殺され、シスターのいない、男しかいない修道院で育てられたわたしの悲しみが……!! わたしは特に目をかけられていたせいもあって、他のみんなはコソコソ村娘だったり、他の修道院のシスターと逢引あいびきしているというのに、わたしだけ成人するまで一切外にも出してもらえなかったんだ!!」


 成人してようやく一人前の僧侶と認められた後、レモントはすぐに花街に行って長年の欲を発散してきたらしい。

 そのせいで、独り立ちするためにと用意されていた金を全部使い果たし、僧侶の力を必要としている賞金稼ぎの勇者や戦士に同行して、分け前をもらい、その金で旅をしているそうだ。

 そして、最初の夜のことが今でも忘れられず、つい好みの女性を見つけるとついて行ってしまうのだとか。


「やっぱりわたしはね、どうしても乳のでかい女を求めてしまう。無意識に母を求めてしまう。そういうさがなんだ。幼い頃に母を亡くし、徹底的に禁欲させられ……その結果、こうなった。顔ももちろん大事だが、まずは乳だ!! まぁ、男ならみんな結局最後はそういものだろう?」

「俺に同意を求めるな。俺は別にそこに執着はない」

「ははーん。さては君まだ……っていうか、今いくつなんだい? わたしばかりが一方的に話してしまっているじゃないか」

「一応、今年15歳だ」


 ————リヴァンとしてなら、お前とは二歳しか変わらない。前世の記憶も含めるなら、40年生きているが……


「15歳? なるほど、それじゃぁ、まだ女性の素晴らしさを知っている年齢ではないな。ふふん」

「鼻で笑うな」


 ————お前より知ってるし、妻も娘もいる。


「すまんすまん。ところで、どうして魔王を討伐しようと思ったんだ?」

「……お前と同じだよ。俺はイストリア出身で……魔王に故郷を奪われた」


 さすがに出会って1日も経っていない男に、魔王討伐後の本当の目的まで話す気にはなれなかった。

 前世で起きたクロとの話は、ミクスにもしていない。

 このことを知っている人間は、もう、この世にはいない。

 それに、話したところで、こんな話を信じてくれるようなお人好しは、あの二人以外にはいないだろう。


「イストリア!? それじゃぁ、2年前のあの戦争で……」

「ああ、俺も両親と世話になった町の人々を亡くしたよ。だから、魔王を倒すために勇者になった。戦うには十分な理由だろう?」

「そうだね。やっぱり、わたしたちは気があうね」

「いや、一緒にはしないでくれ」

「なんで!?」

「なんとなく、一緒にされるのは嫌だ」

「いや、『お前と同じ』って、さっき言ったよね!?」

「……言ったか? 撤回する」

「ひどい!!」


 そんなやりとりを繰り返しつつ、森を抜けるとファスト村が見えてきた。

 ファスト村はノストリアの南西に位置する小さな村ではあるが、この村で独自に作っている武器や道具は魔物退治には欠かせないものとなっている。

 まずは、村の入り口近くにあった無人銀行で金を下ろした。

 森の中で小物ではあるが何体か魔物は倒した分の報酬を手に、魔王と戦うための装備をここで調達しようとしたのだが……


「いったいどうしたんだろう? わたしが以前この村に寄った時は、もっとこう、活気付いていたと思ったのだけど……」


 村はとても静かだった。

 道具を作っている工場も、それを売っている店もなぜかほとんど店じまいしているようで、外を歩いている人間もいない。

 村人たちは家の外から一歩も出ないようにしているのか、それとも、この村には誰も住んでいないのか……

 とにかく静寂が村全体を包んでいるようで、天気も厚い雲が太陽の光を遮っているのがその不気味さをより一層強くする。


「俺も、去年来たことがある。どういうことだ?」

「あれかな? 何かの記念日で、今日はみんなお休みの日……とか?」

「もしそうだとしても、人が誰もいないのはおかしくないか?」


 とりあえず、そろそろ夜になるし今日の宿を確保しようと宿屋の看板を探し回った。

 村の奥の奥に勇者協会のマークがついた宿屋を一つ見つけて、中に入ってみると受付には誰もいない。


「どうなってるんだ……?」


 カウンターに置いてあった呼び鈴を鳴らして、見たが、奥の部屋のドアがわずかに開いたと思ったら、すぐに閉じてしまった。


「おーい!! 泊まりたいんですけどー!!」


 レモントが叫んだが、返事はない。

 またちょっとだけドアが開いて、今度はその隙間からこちらを見つめる目と目が合った。


「勇者様……ですか?」


 子供のか細い声でそう問われる。


「そうだ」と応えると、ゆっくりとドアが開かれ、今度は顔だけをぐっと出して少年はもう一度聞く。



「ま、魔族じゃ、ないですよね……?」


 ————いや、待て。

 魔族はお前の方だろう。銀髪じゃないか



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