第18話 変態僧侶
「わたしは旅の僧侶だ!」
「……嘘をつくな。僧侶がこんな時期にこんなところで裸で立っているものか」
「本物だ! ほら、ここ!! 耳の後ろ!! 僧侶の刺青!! 見えるだろ!?」
自分を僧侶だと名乗るこの変態は、くるりと後ろを向いて耳の後ろを見せてくる。
確かに、耳の裏に僧侶の証である刺青が入ってはいるが……
僧侶にしては髪も乱れているし、顔や首筋に赤い口紅の後がべっとりついている。
それに、酒となんだか甘ったるい匂いがする。
花と蜂蜜か何かを混ぜたような、香水のような……
「いや、偽物だろう? 俺は先を急いでいるんだ。邪魔をしないでくれ」
「だから!! 本物だって!! ちょっと事情があってこの状況なだけで……本当に僧侶なんだよ!!」
「しつこいなぁ……なんだよ、事情って。聞いてやるから手短に話せ」
「聞いてくれるか!? さすが、勇者様!! 心優しい男だ!!」
「いや、まだ勇者になって30分しか経っていないんだが……」
「なんでもいい。とにかく、聞いてくれ、わたしは僧侶で、ノストリアには聖職者交流会できていたのだが……」
変態僧侶の話によれば、その聖職者交流会というやつは年に何度か行われている聖職者たちの情報交換の場所だそうだ。
新しい回復魔法や、新種の毒を解毒するための方法なんかを発表する研修発表会のようなものらしい。
「会場から宿までの間に花街があったものだから、ついふらっと……ふらっと立ち寄ったら、わたし好みの
「…………なるほど。それは酷い」
「そうだろう!? 酷いよな!? ぼったくりだろう!? 乳も揉ませてはくれなかったくせに!!」
「いや、こんな僧侶いてたまるか。やっぱり偽物だろ……」
「違うって!! 本物!! 信じてくれよ!!」
変態僧侶は口から酒臭い白い息を吐きながら、身振り手振りでいかに自分が酷い目にあったのか俺に熱弁してきたが、聞けば聞くほど、僧侶の話とは思えないものだった。
とにかく、めんどくさい。
「ああ、もうわかった。わかったから、それで、勇者の俺にどうしろっていうんだよ?」
「わたしを仲間に加えてくれないだろうか? 助けると思って……!!」
「助ける……? は?」
「見た所、まだ仲間は一人もいないのだろう? 勇者になったなら、仲間、必要だろう? サポートする!! だから……だからさ!!」
変態僧侶まだ雪の残っている地面に額を擦り付け、土下座しながら言った。
「金貨50枚、稼がせてくれ!! 今一番手っ取り早く稼げるのは、魔物退治だ!! わたしは僧侶だから、攻撃魔法はちょっとしか使えないし、 勇者のサポートをする。だから、その分、サポート代として分け前をくれないだろうか!?」
「はぁ!?」
「あそこに突っ立ってる門番さんも不審がって、ノストリアの中にも入れてくれないんだよぉおおおお!! 頼むよぉぉぉぉぉおおおお!! このままじゃ凍死する!!」
それが、変態僧侶————もとい、後に魔王討伐の立役者となる僧侶レモントとの出会いだった。
*
「いやぁ……助かった。ありがとうなぁ、本当に……」
さすがに裸の男を連れて歩くのは気が引けた為、俺は花街に服と荷物を取り返しに行った。
レモントがぼったくられた店は、シルバーナ公爵が贔屓にしている店だった為、「リヴァンくんの頼みなら……」と、返してもらえた。
まぁ、必ず後日代金は支払いに来るように念を押されが……
「泣いてないでさっさと服を着てくれ……というか、待ってる間よく凍死しなかったな」
「あぁ、そこは大丈夫。凍死しない程度に体温を上げる魔法をかけてある」
「……なんだその魔法。っていうか、さっきお前、凍死するって叫んでなかったか?」
「ずっとあのままでいたらって意味だ」
昔、フローザが、僧侶の魔法にはいつ使うのかわからない謎の魔法が多いと言っていたのを思い出した。
そして、僧侶という奴はとっても粘着質だとも……
「わたしは僧侶だから、魔法使いのように派手な魔法は使えないが……受けた恩には必ず報いるさ。ところで、目的地はどこだ? 今日勇者になったばかりなんだろう? 魔物退治で稼ぐなら、すぐそこのウィキ山が初心者にはおすすめだが」
「ウィキ山? そんな近場で稼いでどうする。勇者の目的は一つ。魔王討伐だろう」
「————魔王!?」
俺が魔王と口にすると、レモントは目を大きく目を見開いて、ひどく動揺し始める。
口を魚のようにパクパクしている。
————今気づいたが、目も離れているし魚のような顔をしているなこいつ。
よっぽど魔王が恐ろしいのか、顔色も悪いような気がする。
いや、これは凍死しない程度に体温を上げる魔法を解いたせいで、体温調節ができていないせいか?
「実は、わたしも魔王を倒せる勇者を探していたんだ……!!」
「え……?」
「これまで何人か勇者とパーティーを組んだけど、誰一人として、魔王を討伐しに行こうなんていう奴はいなかった! ついに、ついに巡り会えた!!」
レモントはまだ着替え終わっていない中途半端な姿で、いきなり俺に抱きついてきた。
「なんなんだ急に!! 離せ!! そして、ちゃんと服を着ろ!! 俺まで変な目で見られるだろうが!!」
まだノストリアの地を一歩しか踏み出していない。
門の前に立っている警備の男たちが、茶化すように言った。
「おいおい、リヴァンくん。勇者になって旅立つんじゃなかったのか? まさか、その男と駆け落ちでもするつもりか?」
「おじさんはてっきり、ミクスちゃんと仲良くやってるものだと思ってたぞ? シルバーナ公爵には、ちゃんと話してあるのか?」
領主の家で世話になっていたということもあって、ノストリアの住人はみんな俺の存在を知っている。
ミクスには何も言わずに出てきたのに、このままでは変な噂が立たないか不安になった。
「違います!! 断じて違います!! 離れろ!! この変態僧侶!!」
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