第25話 夢の話
「————つまり、聖剣が欲しいと?」
ウォリーは、天窓から降りてきたかと思うと、その目的を話し出した。
「そうだ。村長から聞いたが、お前たちは魔王を倒す為に聖剣が必要なんだろう? じゃぁ、魔王を倒し終わった後は、必要ないよな?」
「まぁ、そうなるが……」
どうしても聖剣を自分のものにしたいらしい。
そして、攻撃するつもりはないという意思表示なのか、なぜか両手を頭の後ろで組み、屈伸をしながという奇妙な状況ではあったが、表情は真剣そのものだった。
「オレはこの聖剣を手に入れることを人生の目標としていた。村長も、村のみんなも、引き抜く事ができたら好きにしていいと言われて……お前も気がついただろうが、この聖剣には魂が宿っているんだ」
「魂が……?」
レモントはそんなわけあるか……というような、バカにした表情をしていたが……
「女神様の魂だ」
「女神様!?」
女神様と言われて、食いついた。
「美人なのかい!? その女神様は乳は!? 父は大きいのかい!?」
「……乳の大きさは知らん。顔しか見えなかったし……オレが見たのは、悲しげに振り返った背中だけだ。でも、美人だった」
ウォリーは、その女神様とやらと夢の中で話したらしい。
女神様はずっとこの地にいることに飽き飽きしているとかで、外の世界を見てまわりたいと涙を見せていたとか……
「だから、オレは誓ったんだ! 必ず、オレが聖剣を引き抜いて、世界中を共に旅をするんだって……」
にわかには信じられない話に、俺は頭を抱えた。
道具に魂が宿るなんて話は聞いた事がない。
しかし、ウォリーは真剣だ。
屈伸の動作からそのまま両膝をつき、今度は土下座をしながら大きな声で叫ぶように言った。
「女神様と離れるなんてオレは絶対に嫌だ!! 鞘を探しにウェストリアに行くんだろう!? だったら、オレも一緒に連れて行ってくれ!!」
「いや、それはちょっと……夢の中の話なんだろう?」
————レモント以上にめんどくさそうだ……
「嘘だと思うなら、村長に聞いてくれ!! この村には昔から女神様の伝説がある。代々受け継がれてきた、夢の中で会うことができる、聖剣の女神様だ!! オレは、その女神様を愛してしまったんだ!!」
「でも……」
「頼むよ!! オレも魔王討伐に力を貸すから!! 見たところ、まだ僧侶しか仲間はいないんだろう!?」
何度も必死に頭を下げられ、泣きつかれ、仕方がなくウォリーを連れて行くことになった。
*
「ウェストリアへ行く道の途中に、盗賊たちがアジトにしている無法地帯の町があるんだ。帝国の支配を受けない、豪商貴族が支配している町で……闇オークションが行われている」
「盗まれたものは多分、そこにあるんじゃないかな? 3年も前に盗まれたなら、もう誰かの手に渡ってるかもしれないけど……何か情報くらいは残ってるんじゃないか?」
とりあえず情報を収集するために道中で出会った商人や旅人たちに話を聞いてみると、皆口を揃えてその町について話した。
闇オークションでは、盗まれた骨董品や絵画、それに、珍獣や人間まで出品されるらしい。
「人間まで……? 一体誰が買うんだよ」
「貴族の奴らに決まってるだろう? あいつらはいつでも奴隷を探してる。中には、そこから魔族に流れてるって話も聞いたことがあるぞ?」
「最低だな!! そんな最低なところに、オレの女神様の大事な鞘があるなんて……早く取り戻しに行こう!!」
レモントとウォリーはウマが合うようで、二人は拳を高くあげながら、「えいえいオー!!」と、叫んでいた。
俺は正直、この二人のテンションについていけない。
それに、村を出る前に村長から言われたのだが————聖剣には確かに何者かの魂が宿っているという伝説がある。
とても美しい女神様の夢を見たことがある戦士というのは、ウォリーの他にも過去に何人かいたらしいが、誰一人聖剣を抜くことができずこの世を去った。
皆、その女神様に恋い焦がれてしまうそうなのだが……伝説の元をたどるとその女神様の夢は決まって後ろ姿と振り返った顔しかわかっていない。
一説によれば、それは実は女神ではなく、聖剣サークロを持っていた伝説の戦士・サークロの弟の魂だという話がある。
サークロの弟は顔が女性のように美しく、そして、数々の男たちを誘惑した魔性の男だったそうだ。
それはもちろん、兄であるサークロも同じで、弟を愛した。
しかし、その魔性のせいで夫を骨抜きにされた女性たちが怒って弟は殺されてしまう。
サークロは愛する弟の魂を聖剣に宿して共に戦った————というもの。
「女神様のためにも、必ず見つけ出すぞ!!」
「おおおお!!」
この盛り上がっている二人に、話すべきか否か迷っていた。
ウォリーはもしかしたら、性別は関係ないなんて言い出しそうだが、レモントは明らかに士気が下がるだろう。
こいつは僧侶のくせに、本当に乳のでかい女の子としか考えていない男だ。
有能ではあるが……
「————お、これが例の町だな! さっそく町の人に鞘について何か知らないかきて見るか」
例の町————トレド町は、ウェストリア地方とノストリア地方のちょうど境目のあたりに位置する町で、四方を大きな山で囲まれているような場所にあった。
レモントはさっそく何か聞き出そうと、乳のでかい女にばかり声をかけて、話を聞いて回っている。
鼻の下が伸びまくっていて、本当にだらしのない表情をしながらだが……
あいつは人の懐にすっと入って行くのが本当に上手い。
一方のウォリーは、町の中心部あたりにできていた大きな人だかりの方を指差した。
「あの人だかりはなんだ……?」
「……なんだろうな? 何かの催し物でもやってるのか?」
気になって近づいてみると、人混みの中心には1メートルほどの高さの木の台が置いてあり、その上に男が立って何かを話している。
男の手には、丸められた大きな紙。
「さぁさぁ、ついに今夜はオークションの日だ!! みんな、金は用意できたか?」
「おおー!!」
「もちろんだ!!」
「今夜の目玉は何!?」
台の上の男に向かって、誰かが尋ねる。
「今夜の目玉! それは!!」
男は紙を広げる。
そこに書かれていたのは、どこかで見覚えのある若い女の人相書き。
「魔王討伐の報酬として有名な、あの第四皇女イグ様と引け劣らない容姿の美少女だ!! 若くて、肌の色艶もいい、乳も大きい!! こんな上玉、めったにお目にかかれない!!」
勇者募集の告知に書かれていたものを、拡大して書いたものだった。
「まさか、皇女様より美しい女がこの国にいるわけないじゃない!」
「魔族じゃないだろうなぁ!?」
「まぁ、まぁ、気になるならどうぞ、今夜のオークション会場で、お客様のその目で確かめてくれ!!」
男は笑いながらそう言った。
そして、乳も大きいの言葉に反応したレモントはいつの間にか俺たちの後ろに立っていて、目を輝かせている。
「オークション!? いつだ!? いつどこでやるんだ!?」
————こいつ、行く気だ。
「さらに、もう一つ!! 女性の皆さんは美女よりこちらの方!! 癒し効果のある魔法石がついた伝説の聖剣サークロの鞘!! 魔法石だけ取り外して、アクセサリーにしてもよし! お買い得だよ!?」
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