第26話 闇オークション


 闇オークションには、参加するのに金貨一枚かかった。

 3人分なので金貨三枚の出費だったが、初日で魔族を倒し、結構な金額を稼いでいた俺に取っては大した額ではない。

 入り口で番号札と目元を隠すマスクを渡され、マスクをつけてから中に入るように言われた。

 俺たちは後ろの方の席に座り、薄暗いオークション会場の様子を眺めると明らかに金持ちそうな煌びやかな装いの夫人や、老紳士、どこかの若い貴族など、とにかく多くの人が参加している。

 やはり一番の話題は第四皇女に似ていると噂されている少女のようだ。


「ここまでみんな期待してるってことは、やっぱり相当な美人なんだろう」


 レモントはまた鼻の下を伸ばしながら、だらしなく笑っている。

 ウォリーは少女の方には興味がないようで、腕を組んでただ早くはじまれと貧乏揺すりをしながら待っていた。


 俺はオークションのこともそうだが、この町がこんな風に変わっていたことの方が、驚いていた。

 町に入った途端、前世で一度、来たことがあるような気がして、オークションが始まる前に少しこの町について調べたのだが、以前はトレド町という名前ではなく、プアレドという村だったことがわかった。

 プアレド村といえば、俺の教育係だったガイルが生まれた村だ。

 俺がクロに殺された後、この村は急成長を遂げたらしく人口も増えて今のこのトレド町に変わったらしい。


 昔は、ただの農村のような場所だったのに、すっかり都会になってしまっていた。

 今は豪商貴族がこの町の領主だと聞いているが、その豪商というのがガイルの親戚らしい。


「この町は、前宰相様の寄付金のおかげでここまで大きな町に変わったんですよ」と、古くから町に住んでいる人たちは誇らしげにそう言っていた。

 そういえば、俺の知っているガイルはそういう男だった。

 世の中には、貧しい暮らしをしている人がたくさんいるのだと俺に教えたのはあの男で、父上から俺の教育係にされる前は、稼いだ金の幾らかを孤児院や魔物による被害、自然災害にあった町に寄付をしているなんて美談をいくつも聞いたことがある。

 そういう男だからこそ、父上は俺の教育をガイルに任せたのだろうが……


 何が本当だったのか、わからない。

 クロが俺を刺し殺したことは事実だ。

 その場にガイルがいたことと、クロが俺の代わりに皇帝の座につき、ガイルが宰相の立場まで上り詰めていたことや、クロの息子に娘や姪、親戚を嫁がせていたことを考えると……————あいつはこの国を自分のものにしようとしていたのではないだろうかと思えてならない。

 だが、その一方で、国民からの評判はいい。


 2000年の魔族との戦争。

 そして、停戦まで持ち込んだのは、皇帝の業績というより宰相であるガイルの力が強かったと話す人もいた。

 俺を殺させたのか、それとも、偶然その場にいて、クロに協力するよう話を持ちかけられたのか……

 今となってはわからないが、ガイルがこの国を牛耳っていたことに変わりはない。

 知らない間にいくつも法律や制度が変わっている。

 そのどれもが、見方によってはガイルやガイルの親族たちが徳をするようなものばかりだった。

 この町への寄付も、いったいいくら費やしたのだろう。

 その金は、どこから出た金だろうか。


 わからないことが多すぎる。

 それに、この闇オークション。

 盗品だけではなく、人間まで出品するだなんて……

 あれただけ讃えられている人間が、こんな行為を放置していたということだろうか?

 わからない。


 ここで売られた人間は、貴族の奴隷になるのか?

 人間を買う方もどうかと思うが……


「————それでは、続いての商品はこちら!」


 俺がぐるぐると考え込んでいると、いつの間にかオークションは始まっていた。

 ステージの上に運ばれたのは、豪華な額縁に入った風景画。

 これもきっと、どこかから盗んで来た盗品だろう。

 本当に様々なものが出品されていて、客たちが値段を釣り上げ、次々と買い手が決まっていく。


「続いてはこちら! かの有名な聖剣サークロの鞘でございます! こちらには癒しの力を持つ魔法石が埋め込まれておりまして、とても珍しい一品です」


 ついにサークロの鞘がオークションにかけられたその時だった————


「待て!! 逃げるな!!」


 両手と両足に枷をつけられた少女が、必死にあがきながらステージの上に飛び出た。

 色艶のよい髪と肌。

 次に出てくる予定の、目玉商品とされていた第四皇女イグに劣らずの美人だという少女が、逃げようとして逆にステージの方へ出てしまったようだった。


「今すぐ私を解放しなさい!! この無礼者!!」


 スポットライトの下で、その少女は叫んだ。

 その顔は、あまりにあの人相書きの第四皇女イグに似過ぎていて、会場は騒然となる。


「————私はこの国の皇女ですよ!?」


 実物を見たことのない客たちは、「そんなわけがない」「嘘だ」と大笑いしていた。


 だが、俺は知っている。

 俺と同じ、雲ひとつない青空のような瞳。

 ガイルの葬儀の時に会った時より3年経ち、少し大人びているがイグだ。


 ————どうして、こいつがこんなところにいる……?


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