第38話 魔法使いの村
四つ鏡は、ノストリア、サストリア、ウェストリア、イストリアの各地の領主が代々継承してきたものらしい。
ノストリアには天啓鏡、サストリアには現世鏡、ウェストリアには写実鏡、イストリアには冥界鏡だ。
テントリア軍本部にある現世鏡は、2000年の戦争の後、サストリアから移された。
ガイルの妻は、サストリアの領主だったエイメール家の娘だったし、皇帝からの命がなくとも自由に動かせたのだろう。
ウェストリアの写実鏡は、先の偽勇者騒動の時にテントリアへ運び入れた。
ノストリアの天啓鏡は、所有者はシルバーナ公爵だが、ノストリア教会にある。
未来を映す鏡といっても、覗けば必ず何かが見えると言うわけではなく、必要な人間が覗いた時にだけ見えるように魔法がかけられているらしい。
そして、イストリアのどこかにある冥界鏡。
所有していたのはルルベル家だが、120年ほど前に起きた魔族との戦争の際、当時の領主がどこかへ隠してしまったせいで、行方知れずになっている。
ルルベル家には、冥界鏡のありかを示しているという当時の領主が趣味で作った怪文が残っていたが、俺がその答えの場所を確認した時には、もう何もなかった。
2000年の魔族との戦争で、イストリアの建物の多くが瓦礫となったらしいし、きっとそれよりも前に見つけた誰かが隠し場所を変えたのだろう。
魔王軍にイストリアを奪われて三年。
ノストリアの研究チームは、今でもイストリアのどこかに冥界鏡があると考えている。
その冥界鏡を使って、ガイルの魂から金の流れについて、何が起きていたのか真実を聞き出そうとしているらしい。
「あと、これは噂程度でしか聞いたことがないんだけどね……四つ鏡をすべて集めて向かい合わせにすると、奇跡が起こるらしいわ」
「奇跡?」
「どういう仕組みなのか詳しくは知らないけど、その奇跡を手にした者は、誰にも負けない力を得るそうよ。神の加護的な何からしいわ」
「ずいぶんざっくりしているな……」
「仕方がないじゃない。噂なんだから」
とにかく、今はストレガ村へ。
まぁ、イストリアを魔王軍から取り戻さないと、場所がわかる地図を手に入れても、何も始まりはしない。
魔王討伐の準備を、着実に進めなければ……————
そうして、数日かけて俺たちはウェストエリア地方へ。
ウェストリアで二番目に大きい町の手前に、ストレガ村はある。
「相変わらず、奇妙な町だな……」
重力の概念がないのだろうか、この村はどこを見渡しても普通の家が存在しない。
巨大樹の幹をくりぬいて作ったのではないかと思うような家や、宙に浮いている家もある。
いたるところにフクロウと黒猫のモニュメントが置かれているし、何かの動物か魔物の頭蓋骨が飾られているとても趣味がいいとは言えないようなものまで……
「まずは、この村の村長に挨拶しないと……えーと、あぁ、この家ね」
そうして、ミクスが指差したのはその趣味がいいとは言えない家だった。
多分、前世の俺が死んでいた間に、村長が変わったのだろう。
前はこんな家ではなかった。
確かに形は奇妙ではあったが、ここまで主張の激しい家ではなかったはず……
ミクスが大きな黒い格子の門のすぐ横についていた紐を何度か引くと、繋がっていたベルがカランゴロンと鳴った。
数十秒もしないで、門の方へ赤い蝶ネクタイをつけた白いフクロウが飛んできて、門の上に止まる。
「どなた?」
喋るフクロウだ。
「ノストリアから参りました、ミクス・シルバーナと申します。ベネット村長にお会いしたいのですが……」
「なに? シルバーナ公爵の使いか?」
「はい、紹介状はこちらに」
ミクスがフクロウに封筒を差し出すと、フクロウはそれを咥えて屋敷の方へ飛んで行く。
すると、数分もせずに門がギィッっと音を立てながら、ひとりでに開いた。
そのまま奥へ進むと、ミクスの魔法の杖よりも大きな杖を持った魔法使いが立っている。
「ようこそ、わが家へ。ミクス嬢。おや、連れが三人も……」
フクロウと同じ赤い蝶ネクタイをつけた、想像していたより遥かに若い————ニュート・ベネット村長だ。
ベネット村長は、俺たちを舐めるようにじっと見た後、すぐに視線をミクスに視線を戻す。
「申し訳ないが、この家は男子禁制でね」
「え……?」
「すまないね。姉さんが男と見ると見境なく手を出してしまうもので……すまないが、魔法をかけさせてもらってもいいかな?」
「魔法……?」
「何、一時的なものさ。すぐに元に戻せる。それじゃぁ、いくよ……」
「え、ちょっと、待って————」
なんの説明もないまま、俺たちの体は魔法の光に包まれた。
眩しくて、一瞬目を閉じた間に、異変が起こる。
「うわああああっ!? なんだこれ!? え!? 乳がある!? わたしの体に、乳が!!」
レモントがスレンダーな美人に、ウォリーがふくよかな何人も子供を産んでいそうな婦人に、俺はミクスと同じくらいのサイズの少女になっていた。
「これは、一体、どういうことですか?」
声まで、高くなっている。
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