学園祭 その3

 午後からは体育館で、演劇部とボランティア部合同の演劇『眠れる森の美女』の公演を行う。


 演劇部も部員の減少に悩まされており、今回、ボランティア部と合同で開催されることになった。


『ある国に待望のお姫様が産まれました』


 演劇部の部長であるフトシがナレーターを務めている。


 そしてお姫様役は、満場一致で決まったヒカリちゃんである。


『喜んだ国の王と王女は、国の魔女12人を祝宴に招待しました』


 フトシの朗々ろうろうとした低音が、体育館に響き渡る。


『“徳”、“美”、“富”この世の全てを、魔女の魔法で授けられた姫。しかし、この祝宴に呼ばれなかった13人目の行き遅れの魔女が怒り、姫に呪いをかけました』


 そこで13人目の魔女役の先生が現れる。


「誰が行き遅れだ! コホン、この私を祝宴からハブるとはいい度胸だ。いいだろう、この娘を15歳で死ぬ呪いをかけてやろう! べ、別に若い娘が羨ましいとかじゃないんだからな!」


『そうして呪いをかけられ、泣き崩れる王達の前に、まだ魔法を授けてなかった12人目の魔女が言いました』


 12人目の魔女はレンが演じている。


「行き遅れの魔女の呪いは強力過ぎて、消せないであります……。しかし、この呪い、なんとか弱めてみせるであります……!」


『こうして、姫が15歳になった日、弱まった呪いは発現し、姫や王達は眠りにつき、城は茨に包まれ、誰も入ることは出来なくなってしまいました……』


 いよいよボクの出番だ。ゴクリと生唾を飲み込む。緊張で手に汗がダラダラと出る。


『長い月日が経ち、ある国の王子が茨に囲まれた城に立ち寄り、老婆に話しかけます』


「あの城には何があるのですか?」

「ふぉふぉ……あの城には、それはもう美しいお姫様が呪いによって眠っているであります……」

「どうすればその呪いは解けますか?」

「それは──」


『それを聞いた王子は、茨の城に向かいます。そして、次々と襲ってくる茨を撃退し、ようやく姫に出会えました』


 眠っている演技をしているヒカリちゃんは、お姫様の格好をしていて、とても美しかった。


 まるで本物のお姫様のようだ。幻想的で、儚くて、触れれば消えてしまいそう。


『そして王子は眠れる姫に口づけをします』


 ボクはおもむろに屈んで、ヒカリちゃんにキスをする“フリ”をする。


 その瞬間──


「んっ!?」


 ヒカリちゃんが顔を少し起こして、本当に“キス”をした。


《きゃああああああああ!》

《あれ、ほんとにキスしてない!?》

《ああああああああああ!》

《ヒューヒュー!》


 会場が歓声に包まれる。完全にヒカリちゃんの“アドリブ”だった。


 ボクの頬がカァーと赤くなるのを感じる。


『かくして魔女の呪いは、王子のキスにより打ち消されました』


「あぁ、どうやって魔女の呪いを打ち消されたのですか?」

「それは──」


────『行き遅れの魔女の呪いは、自分が愛されない故の孤独が生んだ“嫉妬”であります。ならばそれを打ち消すほどの“愛”を示せば、自ずと呪いは解けましょう』


「つまりあなた様を私を……」

「はい、一目見た時から、ボクは君のことを好きになりました。愛しています、お姫様。ボクと結婚して下さい……!」

「はい/// 」


 そしてボクとヒカリちゃんは抱き合い、暗転し、劇は終了する


 会場はスタンディングオベーションに包まれた。





 後夜祭、キャンプファイヤーを囲みながら、みんなで談笑する。


「ナギサぁ! ヒカリちゃん! 最高だったぜ! へへっ、俺のキャスティングに狂いはなかったな!」

「本当にキスしてて、素敵であったでありますぅ……」

「おい、フトシ、ちょっと来い」

「なに? 美月センセ、ぎゃあああああああ!」


 今日の学園祭の成功の喜びを、みんなで分かち合っている。


 キャンプファイヤーと共に音楽が流れ、ダンスをする生徒達。


 ボクはおもむろにヒカリちゃんに手を差し伸べる。


「ボクと一緒に踊って下さいませんか、お姫様」


 するとヒカリちゃんはクスッと笑ってこう言った。


「ええ、喜んで。王子様……!」


 




 

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