学園祭 その1

「という訳でオイラたちのクラスは『メイド喫茶』に決定ー!」


 学園祭のクラスの出し物が多数決で決まる。


《ひゅー! やったぜ!》

《これで女子のメイド姿が見られますな……むふふ》

《たまんねぇぜ!》


 他にも演劇やたこ焼き屋などの案はあったものの、男子達の圧倒的な結束力によって、メイド喫茶に決まった。


《えー、メイド喫茶ー?》

《は、恥ずかしいよぉ……》

《男子が見たいだけでしょー?》


 女子からは少し不満の声が漏れ出ている。そこで美月先生が発言する。


「まぁ、これが多数決、民主主義だ。多数派の意見により、少数派の意見は切り捨てられる。悲しいがこれが現実だ」


《…………》

《…………》


 先生はそこで一旦、間をおいてニヤリと笑う。


「だが決まったからには、みんなメイドをやってもらうぞ。“男女問わず”な?」


 その一言で男子達はギョッとして、女子達は喝采かっさいした。


《それならいいかもー!》

《くふふっ、男子のメイド姿の写真撮ってやろ!》

《ふ、ふさけんじゃねー!》

《だれがメイド服なんて……!》


「メイド喫茶は“多数決”で決定したからな。異論は認めん。執事のコスプレなど逃げも許さん。“メイド”喫茶なのだからな」


《ぐっ……》

《ち、ちくしょう……》


 そこでフトシが声を上げる。


「おいおい、お前ら何をテンションを下げてんだ? 男子もメイド服を着るってことはよぉ、つまり“ナギサ”もメイド服を着るって事だぜぇ!?」


 その一言で男子達に歓声があがる。


《ひゃほぉ! そいつを忘れてたぜぇ!》

《またナギ子ちゃんに会える!》

《はぁ……はぁ……》


 クラスの視線が一斉にボクに集まる。


「あ、いやー、今回はボクは裏の厨房に回ってもいいですかー?」

「「「「却下!」」」」

「何で!?」


 ヒカリちゃんや、レンや美月先生までもが一斉にそう言った。





 文化祭当日。まずは女子達が先にメイド服に着替えた。


「やっぱりメイド服は落ち着くでありますなぁ」


 レンに注目が集まる。


《おおっー! さすが本職!》

《かわいいー!》

《よっ! No.1》

《頼りにしてるよー!》


 続いてヒカリちゃんが登場した。


「ひ、久しぶりに着ましたけど、どうでしょうか?」


 ちょぴり恥ずかしながら、フリフリのメイド服を披露するヒカリちゃん。あまりの可愛さにクラス中が息を呑んだ。


《か、かわいいー♡》

《うっ、鼻血が……》

《とんでもねぇ破壊力だぜ……》

《エッチコンロ点火!エチチチチチチチチチw》


 クラス中が大騒ぎになっている。かく言うボクもその姿に釘付けになってしまう。


「ふふっ、どうですか? ナギサご主人様?」


 ヒカリちゃんがボクに寄ってきて、微笑みながら、上目遣いで見つめてきた。心臓がドキリとする。


《あっ、ナギサずりぃぞ!》

《ヒカリちゃん、俺もご主人様って呼んでくれー!》

《実は夜は、そう言うプレイしてたりして……》


 あの……すみません。夜のそういうプレイは逆ならあります……。


「うん……! とっても似合ってるし、とっても可愛いよ!」

「えへへ、嬉しいです///」


 そんな中、何やら抵抗するような声が、教室に響き渡る。


「は、はなせー! なんで私まで!」

「全員、メイド服って言ったの先生でありますよー!」


 そうして出てきたのはメイド服姿の美月先生だった。


「ううっ……さすがにいい歳して、メイド服は恥ずかしいぞ……」


 モジモジしながら、メイド姿の先生が姿を現す。あの……プールにスク水着てきたのはどこのだれでしたっけ?


《うおおおぉ! 美月先生、全然いけんじゃん!》

《美月センセ、可愛いー!》

《きゃああああああ!》

《んほ〜、普段、凛々しい先生とのギャップがたまんねぇ〜!》


「よ、よせ。おだてるな///」


 生徒に囲まれ、絶賛されている美月先生。うん、やっぱり黙っていれば、本当に綺麗で可愛い先生なんだよな……。黙っていればだけど……。





 いよいよ次は男子の番だ。次々と着替える男子達は、お互いの姿に阿鼻叫喚あびきょうかんである。


「うふっ、オイラのメイド服どお?」

「おえー!」

「ああん? お前の姿もひでぇぞ、見てみろ、鏡!」

「おえー!」

「こ、こんな姿で人前に出るのかよ!?」

「歩くZ指定だぜ! こりゃあ!」


 そんな中、ボクもおずおずと男子達の前に姿を現す。


 すると一斉に、みんなの視線がボクに集まる。


「なんでボクのメイド服だけ、ミニスカでフリフリ度が増してるのぉ……ううっ……」


「「「「ぶっー!!!!」」」」


 その瞬間、教室中で鼻血が噴水のように、撒き散った。

 

「オ、オイラが手芸部に頼み込んで、特注品で仕立ててもらったんだ……がくっ」

「な、ナイスだ……フトシ……がくっ」

「俺はもう人生に悔いはねぇ……」

「…………ぐはっ」


 最初のお仕事は、拭き掃除からになりそうだな……。





「お待たせ〜」


 ボクは教室の外で待っている女子達に、男子の着替えが終わったことを報告する。


《きゃ、きゃああああああ!》

《か、可愛いー♡』

《ちょっと、写メ撮るし!》

《やばいやばい!》


「ちょっ!? みんな落ち着いて!?」


 一瞬で、ボクは女子達に取り囲まれる。


「ナギサ殿、相変わらず、流石でありますなぁ!」

「さすが夏のメイド喫茶の指名No.1ですね!」


 そう言えば、ヒカリちゃんとフトシが指名しまくったおかげで、No.1になれたんだっけ……。

 

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