学園祭 その2

 学園祭が開幕し、お客さんが少しずつ増えて来たみたいだ。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」


 ボクは中年の眼鏡をかけた男性に挨拶をする。


「き、君は……!」

「あっ……!」


 見覚えのある顔だった。夏のメイド喫茶のアルバイトで指名してもらったことがあったハズだ。


「まさか君がここの学生だったとはね……」

「あはは……お久しぶりですね。明太子侍めんたいこざむらい様」

「夏のメイド喫茶助六に現れ、人気をかっさらい、そのままカゲロウのようの消え去ってしまった“伝説のメイド・ナギ子”。まさか、ここでまた逢えるとはね……」

「ボクもまた明太子侍様に逢えて、嬉しいですよ!」

「ふふっ、さすが、さすが。指名No1は伊達じゃない……か」


 男性はメガネをクイッとすると、紅茶を注文した。


「あれ? 明太子侍様でありますか?」


 レンもひょいっと顔を出す。


「なにっ、レン嬢までいるのか。それにあれは一日だけメイドになった、伝説のヒカリ嬢まで! こうしてはいられない! SNSで拡散させてもらうよ!」


 明太子侍さんは、かぶりつきでスマホを操作している。


「明太子侍様はメイド喫茶ソムリエとして、有名なインフルエンサーであります。これは集客にも期待できるでありますよー!」


 レンの言った通り、その後、お客さんがドバッと押し寄せた。


《伝説の男の娘メイドに、また出会えるってのはここか!?》

《くぅ、ナギ子殿、拙者、もう逢えないかと思ったでござるよ……》

《はぁ、相変わらず可憐だ……》

《おい、アレが男って嘘だろ? 女の子にしか見えねぇぞ!》


 次々と訪れるお客さんを、ボクとレンを中心にして、さばいていく。


「ナギ子やレンに頼りっぱなしじゃあ、情けねぇよな! オイラも接客頑張るぜ! お帰りなさいませ、ご主人様ァ!」

「チェンジで」

「そんなシステムありませんけど!?」


 順調に進んでいる中、いきなり教室に大声がなり響いた。


「何してくれんだよ!」

「すみません、すみません!」


 クラス女の子が平謝りをしている。どうやら、お客さんにうっかり、水をこぼしてしまったようだ。


「謝って済むなら警察はいらねぇーんだよ!」

「すみません、すみません……」


 泣きそうなクラスの女の子の間に、ボクはタオルをもって駆け寄る。


「(ボクに任せて)」

「ナギサ君……」

「申し訳ありませんでした、ご主人様ァ……。お詫びにボクがフキフキさせていただきますぅ……」


 ボクは屈んで、上目遣いでそう言った。


「お、おう……」

「フキフキ♪ さぁ、ご主人様もご一緒に?」

「フキ……フキ?」

「フキフキ♪」

「フキ……フキ♪」

「フキフキ♪」

「フキフキ♪」

「はい、完成でーす! お詫びに甘ーいケーキ、あ〜んしてあげますね♡」

「……/// お願いします……。後、そこのお嬢ちゃん、声を荒げて悪かったな……」


 男の人は頭を下げて謝った。


《さすが夏のNo.1メイド……!》

《あっー、俺もフキフキされてぇー!》


「あ、あの……!」


 さっきの怒られた女の子がボクに、駆け寄ってきた。


「さっきはありがとう、ナギサ君……! アタシ、どうしたらいいか分からなくて……」

「みんな最初はあんなもんだよ。困った事があったらいつでも頼ってね」

「あ、ありがとう///」


 そう言って彼女は嬉しそうに、接客に戻って行った。


「ナギ子ちゃんはやっぱり危険ですね……」


 ヒカリちゃんがボソッとそう呟いたのが、聞こえた気がした。





「おー、なかなか本格的じゃねーか」

「チチブクロ店長! 来てくれたんですね!」

「おーよ。レンに話を聞いて、面白そうなんでな。おっ、そこの君、可愛いね? メイド喫茶で働いてみない?」

「スカウトしないで下さいよ……」

「わぁーたよ。でもよ、やっぱりお前が抜けた穴はデカいんだわ。どーよ、また働かねーか?」

「またお金に困ったら、考えますね」

「おう、困るのを待ってるぜ!」

「待たないで下さい……」


 チチブクロさんの他にも、見知った顔が来店した。


「おにーちゃん! かわいいー!」

「あらあら、ほんとね〜」

「アカリさんとトバリちゃん!」


 ヒカリちゃんも気づいたのか、駆け寄って来た。


「2人とも来てくれたんですね! 今日は楽しんで下さいね!」

「うん、おねーちゃん、とってもかわいい!」

「あらあら、ヒカリも似合ってるわねぇ。ふふっ、そこに2人で並んで〜。撮ってあげる」


 ヒカリちゃんと2人で写真を撮ってもらう。ちょっぴり、恥ずかしいな……。


「(お母様、後でLINEに……)」

「(はいはい、分かってるわよ)」


 2人は何かコソコソと話していた。


「おにーちゃん、これちょーだい!」


 トバリちゃんはオレンジジュースを指差す。


「かしこまりました。トバリお嬢様」

「わぁぁ! おにーちゃん、うちでやとってー! おかーさまー!」

「ふふふ、本気で考えちゃおうかしらね」

「だ、ダメですー! ナギ子ちゃんは私のものなんですー!」

「あはは……」





《センセー、注文お願いしまーす!》

《きゃああ/// かっこいい!》

《美月センセ、いいよねー!》


「なんか私、女性からの指名が多いぞ……?」


 美月先生がぼやく。


「ははっ、先生は凛々しくて、格好いい系でありますからなぁ(黙っていれば)。女性人気も頷けるでありますよ」

「男にモテなきゃ、意味ないじゃないかー!」

「色気が足りないのかもしれないでありますなぁ」

「語尾に“うっふ〜ん♡”付けて接客するかなぁ……。あっ、お客さん来た! お帰りなさいませ、ご主人様♡ うっふーん♡」

「(やっぱり残念であります……)」


 


 


 

 

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