同棲開始!?

「はっはっは、いやはや、ヒカリはジョークがうまいな!」


 美月先生がそう言うと、クラスのみんなもハッとする。


「そ、そうか、ジョーク……か」

「やだー、ヒカリちゃんってば面白いねー!」

「心臓止まるかと思った……」

「だ、だよねー!」

「ちっ、それはそれで興奮したんだがな……」


 みんながジョークだという雰囲気包まれた後に、ヒカリちゃんは小首を傾げる。


「? みなさん、事実ですよ? 私とナギサ君はキスをして、将来を誓い合った婚約者です」


 再び、教室の時が止まる。


 や、やっぱりヒカリちゃんはあの約束を──


「嘘……だろ……? なぁ、ナギサ?」


 美月先生がすがるような瞳で、ボクを見つめ、クラスのみんなもそれに追随ついずいする。


 ボクは恥ずかしながらも、こう答えた。


「あの……昔の話ですけど、“事実”……です。先生……」

「ぎゃああああああ! 生徒に先を越されたぁああああ! うわーん!」


 美月先生が大声をあげて、泣き出す。


「うわあああああ! マジで!? マジで婚約者!?」

「きゃああああああ! 婚約者だなんて素敵!」

「ナギサてめぇ! 聞いてねぇぞ!?」

「あんな美人な婚約者がいるなんて、許せねぇ!」


 教室は阿鼻叫喚あびきょうかん地獄絵図じごくえずだった。


 そんな中、ヒカリちゃんはコツコツとこちらに歩いてきて、ボクの隣の空席に座った。事前に席を聞いていたのかもしれない。


「お久しぶりですね。ナギサ君」

「う、うん……」


 ヒカリちゃんは、あの頃の面影を残しつつも、可愛らしい素敵なレディへと成長していた。


 昔の病弱で弱々しい雰囲気は全くない。


「ふふっ、積もる話もあります。また後で、たくさん話をしましょうね?」


 ヒカリちゃんは、にっこりと眩しいくらいの微笑みをボクに向けた。


 その微笑みに、ボクの心臓はドキリと高鳴る。か、かわいい……。

 




 結局、今日一日、ヒカリちゃんとはロクに話が出来なかった。


 ヒカリちゃんは女子達に囲まれ、ボクは男子達に囲まれ問い詰められたのだ。


 親友のフトシは「この裏切り者め……」と血涙を流していた。


「ふぅ、なんやかんやで疲れたな……。今日はもう、真っ直ぐに帰ろう」


 学生カバンを持って帰宅しようとすると、ヒカリちゃんがこちらに向かって、歩いてきた。


「ナギサ君、今から帰宅ですか?」

「そ、そうだよ、ヒカリちゃん」


 まだ彼女に対して緊張する。何しろ十数年振りの再会なのだ。


「では、一緒に帰りましょう」

「う、うん……!」


 ボクは照れつつも、その提案を了承する。


「きゃああああ! やっぱり一緒に帰るのね!」

「おのれナギサあああああ!」

「ああああああああああああ!」


 彼女と共に下校をする。途中、何度も男子生徒の羨ましそうな視線を浴びた。


「そう言えば、帰り道はこっちでいいの?」


 ボクはふと気になったので、ヒカリちゃんに聞いてみる。


「はい、ナギサ君と同じ方向ですので」

「そっか」

「あの、ナギサ君?」

「は、はい!」


 ボクはとっさにに固い返事をしてしまう。


「久しぶりに手を……繋いでもいいですか?」

 

 彼女は恥ずかしそうに、頬を赤らめて提案する。ボクは昔、よく手を繋いでいた事を思い出す。


「う、うん……! ボクの手で良かったら……!」

「ふふっ、よかったです」


 ヒカリちゃんと十数年越しに手を繋ぐ。柔らかさと温もりを感じる小さな手に、ドキドキして頭が真っ白になりそうだ。


 そうこうしているうちに、あっという間にウチのマンションの前につく。


「じゃあ、ボクはここだから。また明日、会おうね」


 そう言って彼女と別れようとしたが、彼女は首を振る。


「私もここですので」

「え? 同じマンションなの?」

「はい、そうなんです」


 エレベーターで3階へと上がる。すると彼女もそこで降りた。


「へ、へぇ、同じ階なんだ?」

「はい、同じ階ですね」


 スタスタと302号室前で止まり、今度こそ別れを告げる。


「じゃあ、ボクはここだから」

「はい、私もここです」

「え?」


 一瞬、何を言っているか分からなかった。


「今日から一緒に同棲させて頂きます、天王寺光莉です。ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いしますね!」


 彼女はぺこりと頭を下げる。


「じょ、冗談……だよね?」

「いえ? 冗談ではありませんよ? だって私たち“婚約者”……ですから」


 彼女は頬を赤らめ、恥ずかしそうにそう言った。


「えええええええええええええええ!?」



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