大人のチュウ♡
「と、とりあえず中に入ってよ」
立ち話をする内容でもないので、ボクはヒカリちゃんを招き入れる。
「お邪魔しますね」
2人で靴を脱ぎ、廊下に上がった瞬間、ヒカリちゃんはいきなりボクに抱きついた。
「ちょっ!?」
女の子の甘い匂いと、胸の柔らかい感触に心臓が跳ね上がる。
「ずっと……
「ヒカリ……ちゃん?」
「私、頑張ったよ……。痛いお注射も、苦いお薬も、怖い手術も、辛いリハビリも。全部……全部! またナギサ君に逢いたかったから! ナギサ君と“約束”したから!」
「ヒカリちゃん……」
いつの間にか彼女は“昔の口調”に戻っていた。
ああ、彼女は本当に幼い頃のボクとの約束を励みに、闘病を続けていたのだ。
そして、そんなにもボクのことを想ってくれていたのだ。
もう、彼女があの約束を忘れているかもしれないなんて思っていた自分を殴りたくなる。
「あの約束、ずっと信じてくれていたんだね。ありがとう、ヒカリちゃん」
ボクはそっと彼女を抱きしめる。
「うん、ずっと信じてた……」
「闘病、頑張ったんだね」
「うん、頑張って治したんだよ……」
あぁ、彼女は立派に約束を果たしたのだ。ならば、ボクも彼女との約束を果たさないと。
それが例え、幼い頃の約束だろうと関係ない。
「結婚しよう、ヒカリちゃん。まだボク未成年だから無理だけど、お互い18歳になった時には絶対……!」
「……うん、うん!」
彼女は嬉しさを噛み締めるように、何度も何度も
彼女はこれまで、ボクには想像もつかない辛い思いをしてきたのだろう。
だったら、その分、彼女は幸せにならなきゃダメだ。ううん、ボクが幸せにしてみせる。
「今日から一緒に暮らそうよ、ヒカリちゃん」
「うん、もう離れないから……!」
彼女は本当に本当に嬉しそうに、微笑んだんだ。
♢
「先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした……」
ボクが出した緑茶をズズッとすすり、落ち着きを取り戻したヒカリちゃんは、いつの間にか丁寧な口調に戻っていた。
「ううん、全然。婚約者なんだからさ、困ったことがあったら、なんでも言ってよ」
「ナギサ君……」
「ヒカリちゃん……」
ソファの隣にいる彼女と目が合い、お互いの手が触れ合った。
ゆっくりと顔が近づき、彼女は目をつむる。
ボクはゆっくりと顔を近づけ──
そしてお互いの唇が重なった。
「ちゅっ……」
それは昔の思い出と寸分違わぬ、ふんわりとした優しい口付け。ああ、見た目は成長したけど、ヒカリちゃんは昔となにも変わってな──
「ん!?」
いきなり顔の両端を彼女の手でガシッとホールドされる。すると、何か柔らかいものが、彼女の唇から、ボクの口の中に侵入してきた。
「んっ!? んんっ、ふっ!?」
柔らかいものが、ボクの口の中を
こ、これは──舌!?
ボクの舌と彼女の舌が絡み合う。ボクは逃れようとするも、ホールドした彼女の手がそれを許さない。
「んっ……はむ……れろ……ちゅっ♡」
だ、ダメだ。頭がぽわーとして、何も……考えられ……ない……。
「……ぷはぁ!」
やっと解放されたボクは、思い切り息を吸う。
「ヒ、ヒカリ……ちゃん……?」
見ると彼女は
2人の口の間には、激しい交わりを示すかのように、一筋の唾液の糸が結ばれている。
「ふふっ、ごちそうさまです」
か、変わってないと思ったけど、なんかすごく積極的になってる気が!?
「ど、どこで大人のチュウなんか……」
「ふふっ、教育係の“婆や”に情報だけこっそり教えてもらったのです……!」
胸を張ってドヤ顔で、ヒカリちゃんはそう宣言した。
「婆や、何をこっそり教えてんの!?」
「──チュウには2段階目の解放にあたる“大人のチュウ”があるんですね!」
「そんなバトル漫画の設定みたいな説明されたんだね……」
彼女はまだもの欲しそうに、こちらを見つめている。
「これ、癖になりそうですね……。頭がふわっーとして、多幸感に包まれます……。まだまだ行けます……よね?」
「いやー、ちょっと刺激的過ぎるから、休憩してもいいかなー? んっ!?」
「んっ……ちゅ……はむ……ちゅ♡」
彼女は激しくボクを求める。
まるで子供のキスでした約束を、大人のキスで再確認するかのように。
私は大人になったんだよ。なれたんだよ。そんな彼女の想いが、この行為には詰まっているように感じたんだ。
「ちゅ……はむ……れろ……ちゅ♡」
「んんっ!?」
いや、ただのキス魔なだけなのかも……。
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