球技大会特訓 その1

「来週は球技大会のドッヂボールがあるねー! ヒカリちゃん!」

「はい……そうですねぇ……」


 ヒカリちゃんはどよ〜んと落ち込んでいた。


「ど、どうしたの? ヒカリちゃん」

「あはは……いえ、私ではチームのお荷物になるのが確定しているので……あはは」

「…………」


 ヒカリちゃんは確かに運動音痴だからなぁ……。いや、でも何かボクに出来ることがあるはずだ……! 


「ああ、白鳥になって、優雅にどこかに飛んで行ってしまいたいクエ……」


 語尾に鳥っぽく“クエ”をつけるヒカリちゃん。か、かわいい……。


「そう言えばさ、優雅に泳いでいる白鳥も、実は水中ではバタバタと足を動かしているんだよね」

「そうなんですクエか!?」

「うん、だから明日は、ちょっとだけバタバタしてみない?」

「──クエ?」





 休日、ボク達は近くの公園に来ていた。


「こーえんで、遊ぶのたのしみー!」


 きゃっきゃっとはしゃぐ幼い少女──ヒカリちゃんの妹のトバリちゃんも、ヘルプとして呼んである。


「おねーちゃん! びしびししごくから覚悟してねー!」

「お手柔らかにお願いしますよぉ……。トバリィ」

「じゃあ、まずは準備運動から始めよっか!」


 3人で準備運動を始める。ふぅ、身体があったまってきたな。


「ふぅ……ではちょっと休憩しましょうか?」

「まだ準備運動終わったとこだよ!?」

「おねーちゃん! 早すぎー!」


 仕方ないのでヒカリちゃんの息が整うを待ってから、ランニングを開始。


「まずは軽くランニングから始めよう。体力はどんな球技にも必要だからね」

「わーい! 走るよー!」

「は、はい……!」


 すると少し走ったところで、ヒカリちゃんがピタリと止まった。


「ヒカリちゃん?」

「ぜぇ……ぜぇ……ふぅ……。ああ……24時間走った後に流れる、定番の曲“フナイ”が聞こえくるようです……!」

「まだ50mだよ!?」

「おねーちゃん……うんどー、うんち……」

運動音痴うんどうおんちね……」


 ボクは自販機でスポーツドリンクを2本買って、ヒカリちゃんとトバリちゃんに渡す。


「2人とも、今日は暑いからしっかり水分補給してね」

「ありがとうございます、ナギサ君!」

「ありがとー! おにーちゃん!」


 2人は蓋を開け、美味しそうコクコクと飲み始める。


「あの、よかったらナギサ君もどうですか?」


 ヒカリちゃんは自分のスポーツドリンクをボクの方に向ける。


「う、うん、ありがとう……」


 間接キスになっちゃうなーと思ったけど、さんざんキスしといて今更か……。


 ボクは少しだけドキドキしながら、スポーツドリンクをこくりと飲んだ。


「あー、ずるーい! ならあたしもおにーちゃんにスポーツドリンクあげるー!」


 トバリちゃんがボクに、ずいっとスポーツドリンクを渡そうとする。


「ダメですよー、トバリ! そういうのは好きな人とじゃないと!」

「そうだよー? トバリちゃん」

「──ふしだらな女とわらいなさい……!」


 トバリちゃんは大人びてそう言った。


「ど、どこでそんな言葉を覚えたんですかー!」

「ばぁばが言ってた!」


 ばぁばさぁ……。





 その後、トバリちゃんの持ってきたボールでドッヂボールの練習を開始した。


 ボクとトバリちゃんで、ヒカリちゃんを挟み込む形をとる。


「おねえちゃん! 行くよー!」

「は、はい……!」

「──ひけん・とびいづなー!」


 トバリちゃんは当たっても痛くないふわふわのボールを、ヒカリちゃんに向かって投げる。


「あうっ……!」


 あっけなく当たるヒカリちゃん。


「おねーちゃん、ひとつもうごいてないよー!」

「投げた瞬間に、目を閉じてるね……」

「だってボール怖いじゃないですかー!」


 これはなかなか、練習しがいがありそうだな……。





「づ、疲れました〜」

「わーい! 楽しかったー!」


 対照的な2人と共に帰宅する。


「今日はお泊まりしていいって、おとーさまに言われたんだー!」

「もぉ〜お父様ってば、トバリには激甘なんですから〜」

「そっか、じゃあ2人ともお風呂入っておいでよ。汗かいてるでしょ」

「ありがとうございます……! えぇ、もう汗だくなんですよ〜。ほら、トバリ、お風呂行きますよ〜」」

「はーい!」


 そう言って、ヒカリちゃんとトバリちゃんは脱衣所に入って行った。





「たいへん、たいへーん!」


 トバリちゃんが風呂から上がって、ボクに何やら報告にきた。


「どうしたの?」

「おねーちゃんの腕が“きんにくつー”で身体が洗えないんだって!」

「え!?」





「入っても大丈夫ー? ヒカリちゃん……」

「はい……」


 ボクが恐る恐るお風呂に入ると、ヒカリちゃんが硬直していた。


 彼女の裸の後ろ姿にドキリとする。


「すみませーん……急な筋肉痛で腕が動かないですぅ……」

「今日、ちょっと無理させちゃったかな……ごめんね」

「いえ、ナギサ君のせいではないですよ。すみません。後は背中側だけなので、お願いできますか?」

「う、うん、任せて……!」


 前、ボクがやってもらったみたいに、手のひらにボディソープをつけて、泡立て、ヒカリちゃんの背中を洗う。


「ひゃん///」


 ヒカリちゃんが艶のある声をあげて、ドキリとする。


「ご、ごめん! 大丈夫?」

「いえ、平気ですので、お構いなく……!」

「そ、そう?」


 ボクは再び背中に泡を塗りたくる。あぁ、女の子の肌って、すべすべでもちもちで、触っていて飽きないな……。ぬるぬる……。


「ふっ、ふふっ……ひゃあん///」


 き、気にするな……! 煩悩ぼんのうを捨てろ! 色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき……! 


 ふぅ、これで終わりかな?


「あっ、脇の下、忘れてました……」

「…………」


 ヒカリちゃんの細くて可憐な腕を手に取り、脇の下から脇腹にかけて、手を滑らせる。


「ううっ/// ひゃああん!」


 正直に言えば心臓が破裂するくらい、ドキドキする。って、あれ?


「これって、トバリちゃんに手伝ってもらえばいいんじゃ……」

「……あっ」




 

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