プール その2

 ヒカリちゃんは一向に上達する気配がなかった。


「うーん……どうしたものか」

「ヒカリ殿、身体がガチガチでありますよ? リラックス、リラックス〜」

「うっ……どうしても水の中では緊張してしまって……。水の中って怖いですしぃ……」

「恐怖心が問題でありますか〜。ん、そうでありますなぁ……。ナギサ殿が手を繋いで、泳いでみてはいかかでありますか?」

「手を……ですか?」

「好きな人に手を握ってもらえば、恐怖心もなくなるでありますよ!」

「な、なるほど……。ナギサ君、お願いしていいですか?」

「うん、任せて!」


 ボクはヒカリちゃんの両手を取る。


「(あっ……確かに安心します……)」

「そのままバタ足で泳いでみよう。うん、そうそう、いい感じだよ」

「ヒカリ殿、いい調子でありますよー!」


 ヒカリちゃんは、リラックスして泳げているようだ。


「じゃあ、次は顔を水につけてみようか」

「は、はい……ぶくぶくぶく!?」

「お、落ち着いて?」

「ぶくぶくぶく!?」


 水に浸かった瞬間に暴れ出して、バランスを崩してしまう。


「ん〜、ヒカリ殿、あとはもうちょっとでありますが……」

「やはり、顔が水につかるとダメですね……。あぁ、早く帰ってナギサ君とキスして癒してもらいたいです……」

「ふむ?」


 それを聞いたレンがぽくぽくと考えだし、


「閃いたでありますよー!」


 と大声をあげた。


「な、何か名案が浮かんだの!? レン」

「今日、1日、ヒカリンはキス禁止であります!」

「は? なんでですか? ふざけてるんですか?」


 それを聞いたヒカリちゃんの顔がちょっぴり怖かった……。ヒカリちゃん、キス大好きだからなぁ……。


「ま、まぁ……落ち着いて聞いて欲しいであります……。キスは禁止だけど、もし水中に潜れたのならばOKというのはいかがでありますか?」


 なるほど……。アメとムチ作戦か。やってみる価値はある!


「うん! それなら、今日は潜れなかったら、キスは禁止だよ、ヒカリちゃん!」

「そ、そんなぁ……」


 捨てられた仔犬のような悲しい顔をするヒカリちゃん。うっ……辛いけど、補習にならないように心を鬼にするしかない……!


「ううっ……やってみます……!」


 ヒカリちゃんは、息を思い切り吸い込み、プールに潜り込んだ。


 1秒、2秒、3秒、……10秒。


「ぷはっ!」


 ヒカリちゃんは水面にあがり、息をする。


「できたでありますよ! ヒカリ殿!」

「はい、潜れました!」

「これで後は25m泳ぐだけであります!」


 水の恐怖を情欲で克服したヒカリちゃんは、みるみると上達したのでした。





 夜にヒカリちゃんと一緒にベッドに入る。


「今日は頑張ったね、ヒカリちゃん」


 ボクは彼女の頭を優しく撫でる。


「えへへ、もっと褒めてください〜」

「よしよし」

「後はご褒美のチュウもお願いします♡」

「う、うん……ちゅっ。──んんっ!?」


 軽いキスをした途端、ヒカリちゃんに襲われるた。


「ん♡……ちゅ♡……ちゅる♡……はむ♡……ぷはっ♡」


 濃厚なキス。舌と舌が絡み合い、頭が真っ白になって、ぼっーとしてくる。


「“今日”はたっぷりキスをしましょうね? ナギサ君?」

「今日はもう寝ない……の?」

「寝かせません♡」

「んんっ!?」


 ああ、参ったな。ボクは彼女に溺れてしまいそうだ……。


「んっ……はむ……ちゅる……ちゅる……♡」

「んんっ!?」


 いや、とっくに溺れていたのかもしれない。

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