プール その1

 ボク達は今、レジャープールに来ていた。休日ということもあって、辺りには大勢の人がごった返している。


「お待たせしました……」


 ヒカリちゃんが更衣室から出てきた。


「──っ!」


 フリルがついた水色のビキニを着たヒカリちゃんに思わず息を呑む。


 水着からはち切れんばかりの、胸にどうして目が行ってしまう。


「ど、どうでしょうか……?」


 恥ずかしそうに頬を赤らめて、モジモジとするヒカリちゃん。


「うん、とっても似合ってるし、可愛いよ!」

「あ、ありがとうございます……!」


 彼女の顔がパァと明るくほころぶ。その笑顔は、夏の日差しにも負けないくらいに、ボクの瞳に眩しく映る。


「さて、じゃあ練習しようか!」

「は、はい……!」


 今度から学園でプールの授業が始まる。そして──


「じゃあ、ビート板に捕まって泳いでみよっか!」

「はい……! ぶくぶくぶく……」


 ヒカリちゃんは致命的なまでに“カナヅチ”だった。あっという間に、彼女はプールの底に沈んでいく。


「ヒカリちゃーん!?」


 ボクは急いで、彼女を水面にあげる。


「ぷはっ……ぜぇ……ぜぇ……」


 ヒカリちゃんは肩で息をしていた。


「もしかして変な味がする実でも食べた……?」

「だれが能力者ですか……」


 このままでは体育の補習になるということで、事前に練習をしにここに来たのだ。


「ふふっ、ヒカリ殿はほんとにカナヅチでありますなぁ」


 一緒に誘ったレンは、隣で軽快に泳いで泳いでいる。


「レンも似合ってるね〜。その水着」


 ボクは彼女に声をかける。


「ふふっ、嬉しいでありますよ〜!」

「ええ、とってもお似合いですよ」


 ヒカリちゃんもレンを絶賛している。


「ありがとうであります! ヒカリ殿〜!」

「きゃあ、いきなり抱きつかないで下さいよ! レン!」


 女の子2人が水着でじゃれあっている。うん、いい光景だな……。


「しかし、お恥ずかしい限りです……。スポーツ全般ダメダメなんですよ……私」

「確か去年は25m泳げればOKだったから、それを目安にがんばろうね」

「は、はい! ぶくぶくぶく……」


 ビート板、共々に沈むヒカリちゃん。うーむ、凄まじい……。


「なんだ、お前らもプールに来ていたのか」

「あれ? 美月先生じゃないですか? ──って、え!?」


 先生はなんと“スク水”を着ていた。胸には平仮名で“みつき”の文字。申し訳ないが、正直、かなりきついです……先生。


「こんにちはであります! 美月先生!」

「こんにちは、美月先生」


 レンとヒカリちゃんが挨拶をする。


「お一人ですか? 先生」


 とりあえずボクは尋ねてみた。


「まぁな。ここで私がこうしていれば、いい男が寄ってくると思ってな」

「なんでスク水……なんですか?」

「? ネットに男受けがいいと書いてあったぞ? お前も好きだろ、ナギサ」


 ヒカリちゃんなら嬉しいけど、先生はまぁ……。


「あはは……まぁ、一部には需要はありそうですが……。ちなみに収穫は?」

「0だ。やれやれ……」


 美月先生は肩を竦める。


 うん、確かにいい年したスク水の女性には、声かけずらいよなぁ……。


「じゃあ、私は向こうのいい身体をした男共のの所にさりげなく泳いでくる! ふふっ、背泳ぎで胸を強調すれば男なんて1発だ!」


 先生はスイーと背泳ぎで泳いで行った。


「いやー、美月先生、愉快な格好でありますなぁ……」

「あれはちょっと恥ずかしい……かもですね」


 願わくば、いい年した女性のスク水に興奮してくれるような、残念……じゃない素敵な男の人がいますように。




 

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