お掃除

「寝室のお掃除しますね〜」


 ヒカリちゃんが掃除機を持って、寝室にやってきた。


「うん、ありがと──ん?」


 何か嫌な予感がする。ドクンドクン。何か、とても大切なことを忘れているような……。


「あっ……!」

「──?」


 今、思い出した……! ボクのベッドの下には同棲する前に、愛読していた“アレ”が隠してある……!


 ま、まずい……。“アレ”を見られてしまったら……。


「ヒ、ヒカリちゃん?」

「はい?」

「この部屋はボクが掃除するよー! ヒカリちゃんはゆっくり休んでてて!」

「いえいえ、ナギサ君こそゆっくり休んでて、下さい!」


 にっこりと邪気のない顔で微笑んむヒカリちゃん。そしてボクの目の前を通り過ぎようとした。


 ま、まずい……! こうなったら仕方がない。


「きゃっ……!」


 ボクはヒカリちゃんに抱きついた。


「い、いきなりどうしたんですか///?」

「ごめん、ヒカリちゃんが可愛いかったからつい……!」

「もぉ〜/// ナギサ君ったら、甘えん坊なんですから〜。ふふっ、待っててくださいね。お掃除が終わったら、たっぷりキスをしましょうね♪」

「あっ……」


 ヒカリちゃんが離れようとするので、ボクは彼女を強く抱きしめて、キスをした。


「〜〜〜〜っ///!? ぷはっ、ど、どうしたんですか!? んっ!?」


 再びヒカリちゃんの口を塞ぐ。


「んんっ……ふぁ……んちゅ……れろ……ぷはぁ……! も、もう〜/// 今日はなんだか積極的ですぅ……」


 こ、これでなんとか気が逸れたかな……?


「でもまずは先にお掃除ですよ……! だいぶ、汚れてきてますから!」

「うっ……」


 だ、だめか〜……。


「(ん? 何か妙ですね? 私が部屋を掃除しようと言い出してから、ナギサ君の様子がおかしいです……。はっ……! ま、まさか! 思春期の男子の部屋には必ずあるという、えっちな本……!?)」


 ヒカリちゃんが顎に手を当てて、何かを考え込んでいる。


 な、何か勘づかれた……!?


「ナギサ君……?」

「は、はい……!」

「ベッドの下から掃除してもよろしいですか?」

「あばばばばばばば……!」


 ボクの顔はしどろもどろになる。するとヒカリちゃんは窓を差してこう言った。


「あー! 解説の掛布かけふー!」

「え!? どこどこ!?」

「隙ありです!」

「しまった……!」


 虚を突かれたボクは反応が一手遅れる。その瞬間にヒカリちゃんは、ささっとベッドの下を確認する。


 そしてベッドの下から何かを見つけて、確認する。


「こ、これは……!」

「あああああああああ……!」


 そこにあった物は──


「箱……ですか?」


 あれ?という顔をしたヒカリちゃんは、こちらを見つめる。


「開けてもよろしいですか?」

「うん……まぁ、ここまで来たら隠すのもね……」

「では……」


 パカっと小箱を開くヒカリちゃん。


「幼稚園の頃の私が写ってる写真と、それに……」


 そこには、写真他にどんぐりのネックレスにビーズで作った輪っかがあった。


 そう、それは幼稚園の時の思い出の品々。


「これって確か……」

「うん……、幼稚園の時にヒカリちゃんと作った、どんぐりのネックレスとビーズで作った指輪……だよ」

「まだ……持っていてくれたん……ですね」

「うん……、ボクの大切な思い出の品なんだ……」


 ヒカリちゃんは、その品々を慈しむように触って、こちらを向いて微笑んだ。


「ずっと持っててくれたんですね……。くすっ、隠さなくてもよかったのに」

「何だか照れ臭くてさ……」


 ボクはパリパリと頭をかく。


「確か結婚ごっこで作ったんでしたよね」

「うん……」

「じゃあ、これを着けてもらってもいいですか?」

「え? う、うん!」


 ボクは彼女にどんぐりのネックレスを首にかけ、ビーズの指輪を左手の薬指にゆっくりとはめた。


 まるで、あの時に戻ったようだった。


「私の事をずっと想っていてくれたんだね。ありがとう、ナギサ君。とっても嬉しい……!」

「あっ……」


 ヒカリちゃんは昔の言葉遣いで、ボクを抱きしめて、昔のように優しいキスをした。


「ずっと一緒にいようね……! ナギサ君!」

「うん……! これからも、ずっと!」

 



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