林間学校 その1

 辺り一面に広がる木々、涼やかな風、鳥の鳴き声。ボク達は今、林間学校に来ていた。


「あぁ、空気が美味しいですねー!」


 思いっきし空気を吸うヒカリちゃん。


「うん、都会とは明らかに違う」

「都会の喧騒けんそうに疲れきったレン達にはみるでありますなぁ!」


 レンがうーんとノビをする。


「へへっ、今日は待ちに待った林間学校だぜ! ひゃほう!」


 フトシがウキウキと目を輝かせていた。


 今回の林間学校は基本的に班で活動し、ボク、ヒカリちゃん、レン、フトシの4人が同じ班に組み込まれていた。


「おーい、みんな集まったかー?」


 先生がパンパンと手を叩いて、生徒達の注目を集める。


「みんな腹減ったろー? 昼は班ごとにカレーを作ってもらうからな。カレーを作るのが2人、飯盒炊爨はんごうすいさんをするのが2人で別れるんだぞー? 飯盒炊爨の読み方、ここテスト出すからなー。飯盒炊飯じゃないからなー」


 じゃんけんの結果、ボクとヒカリちゃんがカレー係。レンとフトシが飯盒炊爨係に決まった。


「えー……フトシとでありますか? ナギサ殿かヒカリ殿が良かったでありますよぉ……」


 レンのテンションが露骨に落ちている。


「おい! それが常連客に対する態度かよ! レン!」


 そう言えばメイド喫茶の常連客だったな……フトシ。


「だってぇ、フトシの視線いっつも、やらしーでありますぅ……」

「ぎくぅ!」


 レン達のコントを横目にボク達は調理を開始する。


「林間学校と言っても、やってることはお家と変わりませんね〜? ナギサ君」

「ふふっ、そうだね。いつもの光景だよね」


 ボクが野菜を洗って皮剥きをして、ヒカリちゃんが調理する。いつもと同じ光景。


「でもナギサ君といつでもキス出来ないのは辛いです……」

「昨夜と朝に、あれだけしたのに?」

「もう〜あれだけじゃあ、まだまだですよ〜」

「ふふっ、ほんとに欲しがりさんだね、ヒカリちゃんは」

「はい〜♡」


 ボク達は仲良く料理をにいそしむ。


《くそぉ……イチャイチャしやがって》

《あああああああああああああ!》

《あのヒカリさんを毎日好きにできるなんて……》

《この世はなんて理不尽なんだ……》

《美月先生が落ち込んでる……》


 

「くそぉ、オイラだってどうせならナギ子ちゃんと飯盒炊爨してぇよ!」

「フトシ、まだ諦めてなかったのでありますか?」

「おうよ! なんなら最近、通常のナギサがナギ子ちゃんに見えてきたところよ!」

「うわー…………」


 なぜか、急に背中がゾワリとした。





 自然の中で食べる、みんなで作ったカレーはとっても美味しかった。


 その後、自然探索をし、存分に緑を堪能たんのうした後、旅館に到着。


「つ、疲れました〜……」

「あははっ、お疲れであります、ヒカリ殿!」

「へへっ、早速、旅館浴衣りょかんゆかたに着替えるぜ!」


 部屋は班ごとに別れていた。寝る場所はさすがにふすまで男女で分かれてはいたが。


「では私達は温泉に行ってきますねー」

「行ってくるであります〜」

「うん、行ってらっしゃい」


 2人を見送った後、ボクはフトシに声をかける。


「フトシー、ボク達もそろそろ温泉に行こうよ」

「…………」


 フトシは何やら固まっている。


「フトシ?」

「今、お前と風呂入ったらよぉ、ナギ子ちゃんとお前が重なって、どうにかなっちまいそうなんだよ……。だからよぉ、先に風呂、入っててくれねぇか?」

「…………」


 ボクは1人で温泉に向かったのだった。



 ────だがナギサはまだ知らなかった。なんやかんやでお風呂の男女の暖簾のれんが、今だけ入れ替わっていたのことを……。





 ボクは男性用の暖簾のれんをくぐり抜け、服を脱ぎ、ロッカーに預ける。


 温泉に入り、まずは身体を洗う。ふぅ、さっぱりしたな。


 そして温泉にひたろうとした時に、異変に気がついた。


「────え?」


 そこには裸でお湯にかる女性が3人。

ヒカリちゃんとレンと美月先生だった。


「きゃああああああ///! ナ、ナギサ君!? な、何やってるですか!?」

「もぉ〜ナギサ殿ったら、大胆でありますよぉ……」

「おい、ヒカリィ。お前の旦那が欲求不満で女湯に突っ込んできたぞ? お前、ちゃんと相手してやってるのか?」

「わ、わ、私達は清く正しい交際をしておりますぅ///」

「あっ……あっ……」


 な、な、な、なんでぇ!? こんなの、ラブコメでよくあるけど、現実じゃ絶対有りえない奴じゃん!?


※有りえました


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