林間学校 その3

「真夏の夜の肝試し大会ー!」


 美月先生の声が、夜の闇に響き渡る。この林間学校の恒例行事の“肝試し”である。


「班ごとに道に沿って、真っ直ぐ行ったところにスタンプが置いてあるから、それを手の甲に押して帰ってくるまでが、一連の流れだ。では、準備が完了次第、一班から行ってくれ」


 ボク達は2班、この後すぐだ。


「去年まではくじ引きで、男女ペアだったんだがな……。カップル共から、寝取られただの、脳を破壊されただの苦情が来たので、班ごとになった」


 ボクはヒカリちゃんが別の男と、2人きりで夜の森を歩いている所を想像した。


『ステゴザウルスさん、私怖いです……』

『はっはっは、俺に任せろステゴ!』

『ああっ、語尾がザウルスじゃない所が、また素敵です♡』


 おえー! 想像しただけで、ちょぴり脳が破壊された。よかった……班ごとで……。


「今回は様々な趣向を凝らしてある。お前らを恐怖のどん底に叩き落としてやろう。男女でイチャつく暇すら与えん。くっくっく……」


 先生、その為に気合を入れたんじゃ……。先生は仕掛け人として森へと消えて行った。


「フトシは参加しないんだっけ?」

「おーよ。俺は驚かす側での参加。お前ら、ちびらせてやるから、覚悟しとけよー?」


 そう言って、フトシも森の中へと進んで行った。


 つまりボクはヒカリちゃんとレンと3人ということになる。


 ついに肝試しが始まった。


 一班が恐る恐る進んで行った数分後──


「きゃあああああああああああ!」


 夜闇に悲鳴が響き渡る。一班の人達の悲鳴だ。


 10分後、一班の生徒達がげっそりして帰ってきた。


「俺、今日、眠れるかな……」

「もう無理ぃ……」

「森……怖い」


 一班はふらふらと宿泊施設に帰って行った。なかなかのホラーのようだ……。


 懐中電灯を手にし、ボク達はゆっくりと森への一歩を踏み出した。


 闇に吸い込まれように、一歩、また一歩……。


「あのー? 歩きにくいんだけど……」


 左腕にはヒカリちゃんが、右腕にはレンが抱きついている。


「だって、怖いじゃないですかぁー!」

「ヒカリちゃんは、まぁいいとして、レンもホラーが苦手なタイプだっけ?」

「うん……めちゃくちゃ苦手でありますぅ……。助けてぇ……ナギサ殿ぉ」


 いつも元気なレンが珍しく、しおらしい。


 それにしても両手に花。女の子の甘い匂いと胸の感触でドキドキが止まらない。


「し、仕方ない……。2人ともボクから離れないでね?」

「は、はい……!」

「頼もしいであります……!」


 しばらくすると、草むらからゴソゴソと音が聞こえた。


「く、くるよ……!」

「ひぃぃ……」

「きゃあああ……!」


 2人に強い力で抱きつかれる。ボクは思わずグエーとカエルみたいな声を出した。


 そして草むらから出たモノは──


「うらめしい……」


 白い三角頭巾と白い浴衣をきた、黒髪で長髪の女性だった。


「「きゃああああああああああ!」」


 レンとヒカリちゃんが悲鳴をあげる。白い女は何やらぶつぶつと語り出した。


「友人の結婚式招待状が届く度にうらめしい……」

「え?」

「歳をとるにつれて、友人が家庭を持って、食事の誘いを断られるのが、うらめしい……」

「んん?」

「友人が赤ちゃんの写真をSNSで送ってくるたびにうらめしい……」

「……先生……ですよね?」

「ぎくっ……!」


 白い服の女性は明らかに動揺している。


「なーんだ……。先生でありますか……」

「びっくりしましたよ……。もぅ〜……」

「な、なぜ分かった……! ナギサ、貴様、エスパーか!?」

「バレバレだと思うんですけど……」


 喋ってる内容は、生々しくてある意味怖かったけどね……。





 しばらく道なりに進む。すると顔に、むにゅっとした感触がいきなり襲う。


「うわっ!」

「な、何でありますか!?」

「きゃああああああああ!」


 懐中電灯を照らすと、そこにはこんにゃくを垂らすフトシがいた。


「へへっ、驚いたかよ?」

「なかなか、びっくりしたよ……」

「うんうん……。ってアレ? ヒカリ殿は?」

「え?」


 見渡してもヒカリちゃんの姿がない。まずい……! パニックになってどこかに逃げてしまったのかも……!


そう言えば、こんにゃくが当たった辺りで、左腕の感触がなくなったんだよな……。


「ボク、ちょっと探してくる! 2人は待ってて!」

「お、おい!」

「ナギサ殿ー!?」


 そう言えばこんにゃくの時に、右の方でガサガサした音が聞こえたんだよな。うん、多分そっちだ!


 




 

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