林間学校 その4
《ヒカリ視点》
「あぁ……やってしまいました……」
何かぬめっとしたモノが顔に当たり、パニックになって、森の中へと逃げ込んでしまった。
冷静になればアレはこんにゃく辺りだろうと、今ならば分かる。
「ここは……どこでしょうか……」
懐中電灯こそ持っているものの、方向感覚も分からず身動きがとれない。スマホも旅館に置いてきてしまっている。
「あっ……!」
懐中電灯がチカチカと点滅した後、消えてしまった……。これで頼みの綱もなくなった……。
「ううっ……どうしましょう……」
辺りが完全な闇に包まれると同時に、不安や恐怖が襲いかかってきた。
ガサガサっ! ウォーン!
「ひっ……」
何かが草むらをかき分ける音や、何かしらの動物の遠吠え。気づけば手足が震えていた。
声を出して、助けを呼ぶべきだろうか? でもそうしたら、もしかして周りにいる動物に自分の位置を知らせる事にならないだろうか?
「ナギサ……君」
そんな時に浮かんできたのは、優しくて温かくて大好きな彼の顔だった。
────昔のことを思い出す。
幼い頃に身体の調子が良かった日に、かくれんぼをした事がある。
私はかくれるのが得意だった。だけど、ナギサ君が鬼の時に限ってはすぐに見つかってしまう。
『ヒカリちゃん、みーつけた!』
『なんでわたしのばしょが、すぐに分かるの?』
『えへへ、ヒカリちゃんのかくれそうな所は、なんとなく分かるんだ! だって“ふーふ”だからね!』
『ナ、ナギサ君///』
その屈託のない笑みを今でも覚えている。
『じゃあもし、わたしが迷子になったらすぐにたすけてね!』
『うん、まかせてよ!』
「ナギサ君……」
再びガサガサという音が聞こえた。
「ひっ……」
その音は、どんどん私に近づいているように思えた。私は思わず目をつむる。
「わ、私、今、糖質制限ダイエットしてるので、美味しくないですよー!」
私は恐怖のあまり、意味の分からない命乞いをする。
「ヒカリちゃん、みーつけた!」
「……え?」
恐る恐る目を開けると、そこにはナギサ君がいた。
「ナギサ……君? なんで……ここが?」
「ヒカリちゃんの行きそうな所はなんとなく分かるんだ」
「あっ……」
それは、昔と全く変わらない、屈託のない笑顔だった。
「ごめんなさい……。ナギサ君……。私、ご迷惑を……」
「ううん、全然。それより怪我はない?」
「はい……大丈夫です」
「よかった。怖かったでしょ」
「あっ……」
ナギサ君は私を優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。うう、優しいよぉ……。
心と身体がとっても温かくなる。あぁ、安心する。
私は本当にこの人を好きになってよかった。一緒になれてよかった。
「ごめんね。ヒカリちゃんを離してしまって」
「いえ……私が勝手に逃げ出してしまって……」
「だからさ──」
ナギサ君が私の手をぎゅっと握る。
「あっ……」
「もう離れないように、しっかり手を繋いでおくからね!」
「は、はい……! 私ももう、離れません……から///」
彼への愛おしい気持ちが溢れ出て、止まらない。大好き、大好き、大好き……!
ああ、言語とは何て不自由なのだろう。この気持ちを表す言葉が大好き以外に見つからないのだから。
そうして、私達は元いた場所へと戻る。
大好きな彼のその手を、決して離さないように、ぎゅっと、ぎゅっと握りしめて。
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