酔っ払い その1
夕食後のことだ。
「ボク、ちょっと近くのコンビニに行ってくるねー」
そうヒカリちゃんに声を掛けると、彼女も「私も行きます!」と言って付いてきた。
「何か欲しいものあるの? ヒカリちゃん」
「コンビニ限定スイーツが今、発売中なんですよー!」
「へぇ、美味しそうだねー!」
「えへへ、後で一緒に食べましょうね。ナギサ君!」
「うん!」
ヒカリちゃんと腕を組みながら、
「うぃー、ヒック!」
「…………」
「…………」
コンビニ前に酔っ払って、座り込んでいる美月先生に出会った。出会ってしまった。
「あ、あの……先生?」
ボクはおっかなびっくりと、先生の様子を
「ヒック、うん? ナギサかー? 何やってんら? こんな所で?」
「その質問、そっくりそのままお返ししますよ……」
「ういー……ヒック。酒飲んでたら酒無くなったから、コンビニ来たんらよ。そしたら、ふらふらして歩けないのら……」
先生はどうやら
「夜に女性がこんな感じだと、危ないですよね? ナギサ君」
「うーん、仕方ないね……」
ボクとヒカリちゃんは先生に肩を貸す。
「ヒック?」
「ほら、おウチに行きますよー、先生」
「私たちが肩を貸すので、しっかりして下さいねー」
「すまんなー、おまえらー、ヒック……」
ほんとに仕方のない先生だ。まぁ、ここのコンビニ使うってことは、ここら辺に住んでいるのだろう。たぶん。
「先生のおウチどこですかー?」
「そこらよー。ひっく……」
近所のマンションを指差す。よかった。すぐそこみたいだ。
♢
「つきましたよ、先生」
先生から鍵を借り、ガチャっとマンションのドアを開け、先生を部屋の中へ運ぶ。
「すまんなぁ、ナギサぁ、ヒカリィ……」
ボクとヒカリちゃんは、とりあえず部屋のソファに先生を座らせる。
辺りには酒缶とつまみの空が散らばっていた。だらしないな……。
「美月、お水、欲しいかもー⭐︎」
「その口調はちょっとキツイかもー⭐︎」
「はい、お水ですよー」
ヒカリちゃんがキッチンから水を汲んできてくれた。
「ごくごくぷはっー! すまんなー、お前らー!」
「全く、お酒はほどほどにして下さいね?」
「そうですよ? 先生」
「だってぇ……飲まなきゃやってられないんだもん……」
「…………」
現代社会の闇を、かいま見た気がする。うん、社会人にはいろいろあるんだろう、きっと。
「ストロングワンを〜、モンスターブルで割ってぇ〜、流し込むのが最近の私のトレンドなんだゾ⭐︎ 」
あぁ、誰がこの人をここまで追い込んだのだろうか……。だれか早くもらってあげて下さい……。
「正直、先生、顔だけはいいんですから、マッチングアプリとかしてみればいいんじゃないですか?」
ボクはふと、思ったので提案してみる。
「やだやだー! 白馬の王子様が迎えに来てくれなきゃやだー!」
先生はいやいやと駄々をこねる。乙女か。
「ストロングワンをエナジードリンクで割って飲むような人に王子様は来ないと思うんですけど……」
「くるもん! くるんだもん!」
「ナギサ君……乙女はいつまでもそんな夢を見てしまう生き物なんですよ……」
ヒカリちゃんはボクの肩を叩いて、そう言った。
「ううっ、ヒカリは分かってくれるか……」
「もちろん、私にとっての王子様はナギサ君です♡」
「ヒカリちゃん……///」
「うわーん! 見せつけるなー! 悲しくなるじゃんかよー!」
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