風邪 

《ヒカリ視点》


「へっくちゅん!」


 どうやら私は風邪を引いてしまったようだ。顔が熱い。とりあえずマスクをして、熱を測ってみる。


「38.4℃。うん、やっぱり熱あるね」

「そうですか……すみません。風邪を引いてしまったようです……」


 私は体力が普通の人より少し低く、ときおりこうして風邪を引いてしまう。


「明日は休みだし、ゆっくり休んでね、ヒカリちゃん。さぁ、ベッドに行こう。立てる?」


 ナギサ君が心配そうに、私の顔を覗きこむ。


「少しフラフラします……」

「そっか、じゃあちょっと運ぶね」

「運ぶ? きゃっ!」


 ナギサ君は私をお姫様抱っこして、軽々とベッドに運ぶ。


「重く……ないですか?」

「ううん、全然軽いよヒカリちゃん」


 やっぱり男の子なんだなぁ……。頼もしいなぁ……。あとお姫様抱っこも嬉しい/// えへへ。


 ナギサ君は私を優しくベッドに降ろし、毛布をかけてくれた。


「あまりにも症状が辛いようなら、風邪薬飲む?」

「いえ、たまに風邪を引くんですが、大抵は1日ゆっくりすれば治るので」

「そっか! じゃあ、ポカリここに置いとくから、こまめに水分補給してね? 後、汗拭きも」

「はい、ありがとうございます」


 ナギサ君が私の手に取りやすい場所に、ポカリと汗拭きを置いてくれた。


「そうだ、ヒカリちゃん、食欲はある? おかゆ作ろうか?」

「はい、少しくらいならなんとか。……って、ナギサ君、おかゆ作れるんですか?」


 私は首を傾げて、質問する。


「うん、任せてよ! ヒカリちゃん!」


 ドンと胸を張ったナギサ君は、ピューとキッチンに駆けて行った。


 だ、大丈夫……なのかな?


 そうだ、今のうちに汗を拭いて、パジャマに着替えておこう。


 私は上の服を脱ぎ、次にブラのホックを外して、汗を拭く。


「んしょ……よいしょ……」


 ふぅ、谷間と下乳に汗がびっしょりだ。胸が大きいとこういう所が大変だと切に思う。その瞬間──


「あっ……」


 ナギサ君の声が聞こえた。


「──え?」


 熱々のおかゆを持ってきたナギサ君に、その姿を丁度見られてしまった。


「きゃ、きゃああ///」

「ご、ごめん!」


 私は咄嗟に胸を隠す。


 ナギサ君は顔を真っ赤にして、後ろを向いた。


「ノ、ノックすればよかったよね……!」

「い、いえいえ、お気になさらず……!」


 み、見られちゃったよぉ……。


 恥ずかしかったけど、顔を真っ赤にして照れてるナギサ君が可愛かったから、まぁよしとしよう……かな?





 おかゆの見た目は悪くなく、ちゃんと美味しそうには見えた。


「はい、ではいただきます」

「はい、あーん!」


 ナギサ君はスプーンでおかゆをすくって、私の口元に持ってきた。


「え/// じ、自分で食べられますよ?」

「いいから、いいから」


 ナギサ君は屈託のない、にっこりとした笑顔でこちらを見つめてくる。


 うっ/// あの顔は反則だ。断れるはずがない。


「はい……ではお願いします……。あーん」

「はい、どーぞ!」


 ナギサ君は親鳥がヒナにエサを与えるかのように、優しく私の口元におかゆを運んだ。


 私はもぐもぐとおかゆを咀嚼そしゃくする。不器用だけど、優しい味がした。


 私のために料理が苦手な彼が、頑張って作ってくれたかと思うと、胸にじんとこみ上げるものがある。


「はい、とっても美味しいです。ありがとう、ナギサ君」


 私は心からの笑みを浮かべ、感謝を告げる。


「味見はしたんだけどね? 口に合うか心配だったから、よかったー!」


 ナギサ君はほっと胸を撫で下ろす。その後も、彼はゆっくりと私におかゆを食べさせてくれた。


 食べ終わるとナギサ君は


「風邪なのによく頑張って食べられたね、偉い、偉い」


 と言って、優しく私の髪をなでてくれた。そんな彼に、私の胸がきゅんとなる。


 ああ、可愛らしい顔も、優しい笑顔も全部、全部愛おしい。


 風邪さえなければ、ぎゅっと抱きしめて、ありったけのキスをするのに……。


「ううっ、ナギサ君とキスがしたいですぅ……」


 し、しまった……。思わず本音が漏れてしまった。風邪を移すといけないというのに……。


 それを聞いたナギサ君の顔がゆっくりと近づいてくる。


「だ、ダメです! 風邪が移っちゃいます!」

「じっとしてて……ちゅっ」

「────///!?」


 ナギサ君は私のひたいに、キスをしてくれた。


「うん、今日は唇のキスはできないから、他のところで我慢してね?」

「じゅ、十分ですよぉ///」


 ふにゃあと、私の顔がさらに赤くなる。ね、熱がさらに上がっちゃうんですけど!?





「あの、ナギサ君、風邪が移っちゃいけないので、この部屋から出た方がいいですよ?」

「ううん」


 ナギサ君は首を振ると、おもむろに私の手を取りこう言った。


「ヒカリちゃんが昔、病気で苦しんでいる時、ボクは側にいてあげられなかった。何も出来なかったんだ。だから、決めたんだ。ヒカリちゃんが病気になった時は、もう独りにしない。もう寂しい思いはさせない……って。だから、ボクはここにいるよ」

「〜〜〜〜///!?」


 その時の気持ちをなんと表現すればいいのだろう。言葉になんて出来なかった。出来るはずもなかった。


 ただただ、彼への愛おしい思いが、胸からとめどなく溢れるばかり。


 限界を超えて臨界へ。彼への想いがオーバーフローする。


「もう、ダメぇ……///」


 プシューと頭から湯気が出て、私は倒れた。


「ヒ、ヒカリちゃーん!?」





「完璧に元気になりましたー!」


 症状が引いて、数日後、私は復活宣言をする。


「よかったー! 元気になって!」


 ナギサ君も喜んでいる。


「ふふっ、これで今日からおもいっきしイチャイチャ……できますね?」

「う、うん/// ──ん!?」

「んっ……はむ……ん……ちゅる……ちゅ……ぷはっ♡」

「ぷはっ……い、いきなり!?」

「ふふっ……まだまだ序の口……ですよ?」


 昨日、我慢した分、おもいっきしイチャイチャしちゃおう! 優しく、愛おしい彼と一緒に……!



《第一部・同棲編・完》


 第一部はいかがでしたでしょうか? カクヨムコンに参加もしているので、星で評価を聞かせていただけると、とっても嬉しいです♪



 







 

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