生徒相談

 今日の部活内容は生徒相談。悩める学生の話を聞いたり、アドバイスしたりとする活動である。


 今日はレンも先生もいないので、ヒカリちゃんと2人で部室で相談者が来るのを待っている。


「失礼するぜ〜」


 ガラッと戸を開けて入ってきたのは、ボクの友人のふとしだった。


「あれ? ふとしじゃないか」

「ふとし君が相談ですか?」

「あぁ、そうなんだよ……」


 張り詰めた顔をしたフトシに、とりあえず座ってもらう。


「実はオイラよぉ……。恋をしちまったんだ」


 フトシは両手の人差し指をつんつんと合わせつつ、頬を赤らめた。


「へぇ! それはそれは! じゃあ相談内容は恋愛相談なんだね?」

「おうよ……」

「恋愛相談ならお任せください!」


 ヒカリちゃんが目を光らせてた。ヒカリちゃんも女の子だから、恋愛話には目がないみたいだ。


「オイラ、好きになった子がいてよぉ……」

「ふむふむ」

「その子はメイド喫茶で働いてる“ナギ子”ちゃんって言うんだよ……」

「────!?」

「────!?」


 2人して絶句した。


「オイラぁ、あの子のこと考えると夜も眠れなくてよぉ……。でも、あの店に行っても、いねぇし……。この想い、どうすりゃいいんだ……」


 どうしよう、これ……。ボクがナギ子だって言ってもいいのこれ? いや、そんな事言ったらショック死するんじゃないか?


 と、とりあえず、少し質問して様子をみよう……。


「でもナギ子ちゃんって男の娘でしょ?」

「? むしろ生えててお得だろ?」


 何がお得なんだよ……。


「それに惚れた相手が男だ女だと、細けぇ事は気にしねぇよ、オイラはよ。人は中身だろぉがよ!」


 ドンと胸を張るフトシ。ぐっ、フトシの割に格好いいな……! 仕方ない……。ナギ子への愛想をつかせる方向でいこう……。


「あのさぁ、フトシ。ナギ子ちゃんはあんまりいい噂聞かないよ?」

「ああん!? テメェにナギ子ちゃんの何が分かるってんだ!?」


 本人なんですけど!? 


「そうです! ナギ子ちゃんへの悪口はダメです!」


 ヒカリちゃんも反応しないで!?


「いやぁ……ナギ子ちゃん、歯磨きした後についついポテチ食べちゃうような子らしいよ?」

「(それ、ナギサ君の昨晩のことじゃないですか……)」

「てめぇ、噂で人を判断すんのかよ!? 目を覚ませ! ナギ子ちゃんはなぁ、うんちしないし、代わりにイチゴを捻り出してんだよ!」


 お前が目を覚ませよ!?


 ヒカリちゃんがコソコソとボクに耳打ちをする。


「(本当のことを伝えた方がいいのでは?)」

「(うん……そうだね……)」


「フトシ、実はナギ子は“ボク”なんだよ」

「へ?」


 フトシは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。


「そんな訳ないだろ(笑)」

「こんな事もあろうかと、メイド服を用意してあります。ナギ子ちゃん、カモン!」


 え? 用意してるの?


「ナギ子ですぅ……」


 メイド服に着替えたボクが、フトシの前におずおずと出る。


「なんてこった……ナギ子の正体がナギサだったなんて……」

「騙すつもりはなかったんだよ……。たまたまお手伝いで……」

「あぁ、そうか……。ありがとよ。オイラの為に、ナギ子ちゃんに逢わせてくれてよ」


 フトシは吹っ切れたような爽やかな顔をしていた。


「よかった……。悩みはなくなったみたいだね」

「おっし! 今度、遊びに行く時はナギ子ちゃんで頼むぜ!」

「え?」

「じゃあなー!」


 フトシは意気揚々と踵を返し、部室からスキップで出ていった。


「え、ちょっ!? 待って!」

「めでたしめでたしですね〜!」

「そうなのかな!?」





 2人目の相談者の女の子がやってきた。


「一年の田中ゆいです」

「田中さんはどんな悩みがあるの?」

「私、ナギサ先輩が好きなんです!」

「え!?」

「なっ!?」


 いきなりの告白にボク達は動揺する。


「気持ちは嬉しいけど、ボクには付き合ってる人が──」

「わ、私とお付き合いしてるんですよ!?」


 ボク達は2人で慌てふためく。


「はい、分かっています……。落としたプリントを、面識もないのに拾ってくれた、あの時の優しさ、笑顔が忘れなれなくて……」


 あっ、思い出した! あの時の子か! ゆいちゃんはポツポツとさらに語り始める。


「好きな人には付き合ってる人がいる……。でもそんな好きな人への気持ちが溢れて、行き場を失くして苦しい……です。でもなぜかそんな自分に興奮している私もいるんです……」


 興奮してるんかい……。


「どうすればいいんだろう……?」


 ボクは顎に手を当て、うーんと唸る。


「私にお任せ下さい」


 ヒカリちゃんが彼女の側におもむろに寄る。


「ゆいさん。あなたの苦痛を解放する方法が、あなたの話から浮かび上がりました……」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、確かにあなたをを救うかもしれない方法です……」

「お、教えて下さい!」

「劇薬ですよ? 覚悟はお有りですか?」


 ヒカリちゃんは真剣な顔で彼女に問いただす。


「は、はい! もう夜も眠れないんです!」


 ゆいちゃんは頭を下げで懇願する。


「分かりました……。では想像してみて下さい。同棲している私とナギサ君が、夜にいちゃついているところを……」

「うっ……頭が破壊されるように痛い!」


 いきなり何を想像させてんの!?


「はい……でも奥底で何か興奮が芽生えてきませんか?」

「そう言えば、何か心の奥底で……快感が?」


 彼女は何かに目覚めたかのように、ハッとした顔つきになる。


「そう、それがNTR《寝取られ》への入門です。あなたには才能があったのです……。その才能を大事に育めばば、きっとあなたは救われます……」


 ヒカリちゃんは聖母の様な声色と眼差しで、彼女を諭す様に見つめる。


「た、確かに、何だか興奮してきました!」


 ゆいちゃんはみるみると顔に精気を取り戻す。


「相談に乗っていただき、本当にありがとうございます! それでは、今日もナギサ先輩とたくさんいちゃついて下さいね! その方が興奮しますので!」

「ふふっ、ええ、そのつもりです」


 ヒカリちゃんはボクの頬に、見せつけるようにキスをした。


「い、いきなり何してんの!?」


 するとゆいちゃんは顔を赤らめて、熱心な瞳を僕たちに向ける。


「ふぁぁ///」

「ふふっ、どうですか?」

「め、めちゃくちゃ興奮しました!」

「ふふっ、あなたへの餞別せんべつです……。よきNTRライフを……」

「あ、ありがとうございました! はぁはぁ……」


 ゆいちゃんは呼吸を荒げて、ふらふらとした足取りで部室を後にした。


 対してヒカリちゃんはスッキリとした顔でボクに笑顔を向けて、こう言った。


「ふふっ、これで一件落着ですね!」

「そう……だよね……?」





「相談があるんだが……」


 美月先生が相談にやって来た。生徒に相談する先生って……。


「どうやったら、結婚出来るんだ?」

「帰って下さい……」





 

 






 

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