カップル限定……

「本日、カップル限定イベント、開催しておりまーす!」


 ヒカリちゃんと街を歩いていると、女の人にビラを渡された。


「へぇ、この食事のお店にカップルで行くと、色々特典が貰えるみたいだよ?」

「そろそろお昼ですし、行ってみますか?」

「うん、そうだね」


 ビラに書いてあった店に入店し、着席する。


「本日、カップル限定でドリンクとストラップをプレゼントしております」

「じゃあ、このランチセットを2つと、カップル特典をお願いします」


 注文すると、大きいグラスの中に、飲み口が2つあるストローが刺さったドリンクが運ばれてきた。


「こ、これは……!」

「カップルで2人で飲む奴ですね……!」


 漫画やドラマとかでしか、見たことのないやつだ! これを人前で2人で飲むのは、ちょっぴり恥ずかしいな……。


「あのぉ……、せっかくなので頂きましょうか?」

「そ、そうだね……!」


 ボクとヒカリちゃんでストローを吸う。自然と顔が近づいて、ヒカリちゃんと目が合う。


 するとヒカリちゃんは、にっこりと微笑んだ。その笑顔に、思わずボクはドキリとする。


「ズズッ(ううっ、ヒカリちゃん可愛い……)」

「ズズッ(ふふっ、照れてるナギサくん、可愛い♡)」

 

 なんだろう。いつもキスしているはずなのに、これはこれでドキドキする。


 食事を終えると、カップル限定特典の“ラブラブ・カマキリストラップ”を貰った。


「オスとメスと2匹のカマキリさん、可愛いですね〜!」

「ヒカリちゃんにあげるよ!」

「ありがとうございます! 大事にしますね!」


 ラブラブ・カマキリかぁ。確かカマキリって交尾した後に、メスがオスを食べちゃうじゃなかったっけ?


 なんて生き物を、恋人のストラップにチョイスしてるんだよ……。


「ふふっ、このストラップのラブラブなカマキリ。まるで私達みたいですね」

「ボ、ボクは食べても美味しくないからね!?」

「?」





「カップル限定イベントやってまーす!」


 街を歩いていると、再びビラを渡された。んー? なになに。


『ベストカップルコンテスト! 一位のベストカップルには豪華景品!』



「面白そうだね! やろうよ!」

「は、はい……!」





『第34回ベスト・カップルコンテスト開催です! 審査員はこの方! 仲違破滅太郎なかたがいはめつたろうさんです!』

『カップルなんて、みんな滅びればいいのに……』


 審査員の人選、明らかにミスってるよね!?


『最初の1組はこちら! ミッチーとゴブリンさんペアです!』


「おで……ミッチー……守る」

「やん/// ダーリンったら!」


 すげぇのが来たな……。


『さぁ、ベストカップルアピールをお願いします!』


「おで……ミッチー……のせる」

「ふふっ、お願いね……」


『おっーと! ゴブリンさん、その巨体を活かして、ミッチーさんを肩にのせたー!? これはなかなかのアピールです!』

『ほぉ……これはなかなか……。80点ですな』

『いきなり高得点です! これは激しい戦いになりそうだー!』




 

 筋肉カップル、熟年夫婦カップル、ムエタイ式カップル、様々なカップルがアピールをし、現在の最高得点は96点だ。


 これを超えるのは至難の技だろう。そしていよいよ最後はボク達の番だ。


「だ、大丈夫ですかねねねねねね」


 ヒカリちゃんが他のカップルのアピールに圧倒され、緊張してきたようだ。


「まぁ、負けてもいいし、気楽に行こうよ」


 ボクはそっと彼女の肩に手を置く。


「あばばばばばば」

「大丈夫かな……」


『さぁ、最後を締めくくる“ナギサ&ヒカリ”ペア! ベストカップルアピールをお願いします!』


「………」

「……あの、ヒカリちゃんのトリプルアクセルからのボクがトリプルトウループの流れだよ?」



『お願いします!』


「………………」


 心ここに在らずといった感じでポカーンとしている。会場もざわつき始めていた。


『おっーとこれは、緊張からか、アピールが出来ないアクシデント発生かー!?』


「ご、ごめんなさい……。ナギサ君。頭が真っ白になっちゃって……。ベストカップルの名を手にするチャンスなのに……」


 小声でプルプルと彼女は震えていた。


「…………」


 このコンテストに誘ったのはボクだ。ならボクがフォローをしてあげないと……!


 ボクはぎゅっと拳を握りしめ、気合を入れる。


 そしておもむろに彼女に近寄るとぎゅっと抱きしめた。彼女の震えを止めるかのように。


「あっ……」


『おっと! いきなりのハグだー!』

『ほう、ベタですが王道ですな』


 うん、いろいろとベストカップルアピールを考えてはみたものの、やっぱりボクらには“これ”が一番ふさわしい。


 ボクは彼女の唇に優しくキスをした。


「〜〜〜〜〜〜///!?」


 ボンっとヒカリちゃんの顔が真っ赤になる。


『おっーと! 大勢の観客の目の前でキスだぁぁぁ! これはアツアツだぁ! いかがでしょうか!?』

『彼女が照れてるのがまた初々しいですね。やっぱり恥じらいなんですよ。青春なんですよ。甘酸っぱいんですよ。100点!』

『ナギサ&ヒカリペア、堂々の優勝だぁー!』


 わぁぁぁと会場が歓声に包まれた。





 景品はハート型のペアネックレスだった。


「なるほど、2人のネックレスを合わせるとハートが完成する訳ですね」

「うん、なかなかおしゃれだね〜」


 ボク達は首にネックレスをぶら下げて、お互いのハートを合わせる。


「ふふっ、完成しましたね」

「うん……」

「ありがとうございます。ナギサ君のおかげで優勝できました」


 彼女は嬉しそうに微笑む。


「いや、なんかいきなり人前でキスしちゃって、ごめんね。嫌じゃなかった?」


 彼女はかぶりを振り、ボクの手をぎゅっとにぎりしめた。


「私が不安で何も出来なかった時、ぎゅっーと抱きしめてくれて、とっても頼もしかったです。それとキス……も嬉しかったです///」


 彼女は頬を赤らめて照れている。


「それなら、よかった……」


 ボクはふっと笑みを浮かべる。


「あの……えと……それで……」

「ん? なにかな?」


 彼女は上目遣いでモジモジとしている。


「あの〜人前でキスするのって興奮……しませんか?」

「──しないよ!?」

「そんな〜……」


 どうやら彼女の変な性癖を開拓してしまったらしい。


「人前はもう無理だけど、代わりにキス……たっぷりする……から」


 ボクは照れながら、ポリポリと頬を掻く。


「──じゃあ早速、ちゅー♡」

「うわー! いきなり!?」


 うん、やっぱりボク達はベストカップル……だよね?
















 

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