メイド喫茶 その2

 食事を終えて、帰ろうとするとなんだか店内が慌ただしかった。


「忙しそうだね、なんか」

「そうですねぇ。レンに挨拶をして帰りましょうか」


 そうして、手元にあるベルを鳴らそうとするとレンが急いでやってきた。


「申し訳ない! 少し来てもらってもいいでありますかー!?」

「ん?」

「なんですか?」


 ボク達は2人して首を傾げる。





 ボク達は店の奥にある控え室に連れて行かれた。


 目の前には店長と思しき、赤髪のメイドの女性がいた。


「アタイはメイド長の“チチブクロ”ってモンだ。すまねーが、アンタ達に折り入って頼みがある」


 源氏名とはいえ、すごい名前だな……。チチブクロて……。ごくり。


「な、何ですか? チチブクロさん」

「店のメイド3人が、風邪やら捻挫やらで急遽きゅうきょ来られなくなっちまってな……。このままでは仕事が回らなくて、困っちまってる。だから、どうか力を貸して頂きてぇ! もちろん謝礼は弾む!」


 チチブクロさんはボク達に深く、頭を下げる。


「何だか面白そうですね! ぜひ、やってみたいです!」


 ヒカリちゃんは興味深々のようだ。


「そっか! ヒカリちゃんがいいなら、それでいいよ!」


 ボクは胸の中でガッツポーズする。やった! ヒカリちゃんのメイド服が見られるぞ!


「じゃあ、ボクはお客さんとして、ヒカリちゃんを見守っておくね」


 するとメイド長がこう言った。


「アンタにもお願いしたつもりなんだが?」

「え?」





 ヒカリちゃんがフリフリのメイド服に着替えたようだ。


「へへっ、良い感じだぜ、お嬢ちゃん」

「とっても似合ってるでありますよー! ヒカリ殿!」


 レンはぴょんぴょんと飛び跳ねて、喜んでいるみたいだ。


「えへへ、ありがとうございます!」

「ナギサ殿も早く!」

「ナギサくーん?」


 2人の声がする。ううっ……こんなメイドさんの格好で人前に出るなんて……。


 ス、スカートの中がスースーする……。女の子って普段、こんな感じなの……?


 ボクは恐る恐るみんなの前に姿を現す。


「ううっ、恥ずかしい……」

「「「きゃああああ! 可愛いー!」」」


 メイド長とレンとヒカリちゃんの黄色い歓声が響き渡る。


「ウン、アタイの目に狂いはなかったな」


 メイド長は満足気だ。


「ナギサ殿、超、超、超似合っております! まるで本物のメイドさんみたでありますよぉ〜」

「ハァ、ハァ、ハァ……。すみません、ナギサ君……。いえ、ナギ子ちゃん、写真撮ってもいいですか?」

「ダメだよ!?」


 ヒカリちゃんは興奮して、目が血走っている。


「そもそも、初心者のボク達がお店の戦力になるんですか?」

「そこは問題ねぇ」


 店長はボクとヒカリちゃんに、社員証のようなものを首にぶら下げる。

 

「“赤ちゃんメイド”?」


 そこには初心者マークと共にそう書いてあった。


「そう。初心者の印だ。初心者の初々しい接客にも需要があってな。むしろ、それ目当てのお客さんもいるくらいってなもんよ」

「へぇ〜そうなんですね〜。でもボク、男なんですけど……?」

「むしろ、男の娘は需要があるから問題ねぇ」

「そ、そうなんですか……?」

「観念しましょう、ナギ子ちゃん!」

「そうでありますよ! ナギ子ちゃん!」

「その呼び方、恥ずかしいからやめてぇ……」


 顔から火が出そうだった。





「あら、可愛いメイドさんね。新人さん?」

「はい、新人メイドの“ヒカリン”です! 可愛がって下さいね、お嬢様!」

「うふふ、あらあら、これはこれは……」


 ヒカリちゃんは上手く接客をこなしているようだ。


 ボクも頑張らないなきゃ──


「ふぎゃあ!」


 慣れない服装にボクはこけてしまった。し、しまった……! お客さんの前でなんて醜態しゅうたいを……!


《おお、これは“ドジっ子”ですな……!》

《ふふっ、たまりませんなぁ》

《拙僧のポイント、マシマシでござるw》


「あれ?」


 意外と好評だった。


 するとレンが急いでボクに手を差し伸べて、起き上がるのを助けてくれた。


「おっとと、怪我してないでありますか?」

「う、うん。ありがとう、レン」

「痛いの痛いの飛んでけーであります!」


 レンがボクを身体をさすさすと撫でた。


「レ、レン……は、恥ずかしい……よぉ……」


《んほぉー! たまらんでござるww》

《と、尊い……》

《くぅ〜拙僧も“痛いの痛いの飛んでいけー”してもらいたいですなぁ!》

《そしたら、お主が飛んで行くことになりますぞww》

《だれが痛い人でござるかぁwwコノコノォww》

《や、やめるでごさるよww〜みゃんみゃん太郎氏ww》


 なかなか濃いご主人様が多いみたいだ……。



 



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