第6話 思いがけぬ再会

 大きな木の上に自作した掘っ立て小屋(ツリーハウス)にギルは住んでいる。


 そこはレイアガーデンから北に5kmほど離れた、ウルヴァース地域にある小高い山のふもとにある森の中。

 


 そして、ギルは現在進行形でめちゃくちゃ貧乏である。


 育った孤児院を6歳で飛び出し旅に出ると、様々な場所で修行をしては敵と戦い、何とか今まで生き延びてきたのだが、これまでに死にそうになった場面は数知れず。


 その度に周りの仲間に助けられながらどうにかここまでやってこれたのだが、その間はずっと自給自足の生活をしていたため、お金の稼ぎ方などはほとんど知らない。


 知っているのは、モンスターからドロップされたアイテムを商人に売るとか、それくらい。


 ちなみに、この辺りを住み家に選んだ理由としては、魔獣やモンスター(食用)がうようよしているエリアだからである。


 近くには川も流れているし、食用の野草も生えているので、水と食料にはとりあえず困らない。


 そんな安易な発想からであった。



 本日、レイアガーデン入学2日目。

 ギルは昨日のうちに川で洗濯して干してあったシャツとパーカーを羽織ると掘っ立て小屋をあとにする。


 レイアガーデンまでの自然豊かな田舎道を鼻歌交じりで歩いていく。

 今日は遅刻をしないで朝のホームルームに間に合った。



「ブルート・ターディグレイド」

「……おぅ」


 朝礼のチャイムが鳴り、担任が出欠を確認する。

 昨日あれだけボロボロにされたブルートもちゃんと登校してきていたようだった。


 窓際最後尾の席のギルが、窓際の前から2番目のブルートの席に目をやると、学ラン以外の体中の見えるところ全てに包帯をぐるぐる巻きにしている姿が目に入った。


 しかし、リーゼントだけはいつも通りビシッと決めている姿とのギャップを堪えることができない。



「ぶはっ! 何だアレ? 全身使ってウケ狙ってんのか!?」

「にゃはははは!」


 出欠確認の最中にもかかわらず、ギルとクロベエは爆笑。

 二人とも腹を抱えて悶絶している。



「こら、ギルガメス・オルティア。静かにしなさい」


 担任の注意も耳に入らないほどギルは大声で笑っていた。

 その時の彼は、包帯の下に隠されたブルートの表情など知る由もなかったのだ。





 2日目の本日は新入生レクリエーションが催される。


 主に新入生同士のコミュニケーション活性化とアカデミーへの理解を深めてもらうことを目的としたイベントである。


 クラスごとの朝礼が行われた後、新入生400人が大聖堂に集められ、アカデミー内に部活ならぬ【クラン】の紹介が行われた後に自由歓談、というのが本日のレクリエーションのプログラムのようだった。


 クランの紹介は、司会者に紹介されたクランのメンバーが登壇して、各々のクランの活動内容やパフォーマンスを、そこに所属する先輩たちが披露するという趣旨のよう。



 アカデミーにおけるクランとは同じ志を持つ集団(チーム)を指す。


 伝統のあるものから最近認められた比較的新しいものまで存在していて、主な目的はクランによってそれぞれ異なる。


 メジャーなクランは剣術、体術、魔術の向上を目的とした花形のものから、薬学、錬金術、鍛冶、農作など、冒険において需要の高いものも人気を集めているらしい。


 一方で、巨大モンスター討伐隊、あやかし研究会、レアアイテム収拾、吟遊詩人の音楽隊などなど、明確な目的があるクランもなかなかの評判だという。


 さらにメンバーは少数ながら、禁呪究明会、新魔法のアトリエ、精霊・妖精の幼体と触れ合い隊、サキュバスの魅了研~奴隷になりたいブタ野郎どもの集い~など、怪しいものから何だかよく分からないものまで、多種多様なクランが存在しているようだった。


 クランは基本的に加入は任意であり、無所属の生徒も半数くらいはいるという。


 ギルは同世代との交流がこれまでにほとんどなかったことから、興味深くアカデミーの先輩たちの話を聞いていた。


 そして長かったクラン紹介が終わり、自由歓談の時間のアナウンスが告げられると、パイプ椅子に座ったままギルは大きく腕を伸ばした。



「ん~、俺もどっかに入った方がいいのかな?」


 肩に乗るクロベエに尋ねると、


「キミは協調性がないからなぁ。入るとしても少人数のクランの方がいいんじゃないかな」


「そんなことないっての。でもまぁ、焦って決める必要はないか」


 そう言って立ち上がると、すでに周囲の生徒たちが歓談している様子が目に入ってくる。


 その場で周囲を見回し、まだ一人でいるヤツに声を掛けてみようか、そんなことを考えていると、突然背中から声を掛けられた。



「ギル!」


 振り返ると、そこには狐の耳が生えた獣人の少女が立っていた。

 形の良い胸を包む真っ赤な水着に、ピタピタのショートパンツ。さらにはオレンジがかった金髪に、銀色の目の周りには濃いオレンジのアイシャドウ。


 とにかく、一人だけ別次元でめちゃくちゃ目立っている。

 こんなに目立つ人なら一度会ったら忘れないはずだけど。


 だが、ギルはいくら思い出そうとしても、目の前の人物が誰だかわからなかった。



「え~っと、アンタ誰だっけ?」


「くは~、まぁ姿が前とは異なるし、わからなくても無理はないのぉ。アチシじゃよ。ほら、昔、酒呑童子しゅてんどうじと一緒に戦った――」


 おでこをぺチンと叩いて獣人の少女が言うと、ギルは少女に顔を近づけてまじまじと眺める。


 う~む。顔かたち、姿には全く見覚えがない。

 けど、この派手なオレンジ色の隈取には確かに見覚えが――。



「……え? もしかして、じろきち?」

「わあ! じろきちだぁー!」


 ギルよりもなぜかクロベエの方が興奮して、獣人の少女に速攻で飛びつこうとしたが、あっさりとぶん殴られ吹っ飛ばされて、大聖堂の壁へ「ぐべっ」と激突していた(クロベエはセクハラの常習犯。詳しくはマメ知識のコーナー参照)。


 その直後、獣人の少女は何もなかったかのようにニカッと八重歯を見せて笑うと、溌剌はつらつとした声で言う。



「うむ。当たりじゃ。あ、でもアチシはこっちの世界じゃ『ジュナ』って名乗っておっての。こっちじゃ『じろきち』は男子の名前だって言うからな。だからギルにもそう呼んでほしいのじゃ」


 入学ランキング4位/400人。

通り名不明アンノウン〉のジュナ。


 もちろんギルはジュナのランキングなどは露知らず、久々の再会に胸を躍らせていた。



「おおう、マジかよ! こっちの世界に来てたなんて聞いてねーぞ。もっと早く連絡くれればよかったのに」


「いやいや、バカを言うな。探索の〈能力アビリティ〉も無いのに、探せるわけがないじゃろう。ただ、昔おヌシが『ルナ王国一のアカデミーに入ることが元の世界に戻ってからの目標』って言っておったのを思い出してな。それでアチシらも頑張ってどうにか入学して、ここでおヌシを探してたのじゃ。もっと褒めてくれたっていいのじゃぞ~」


「やー、そんな苦労をしてまで会おうとしてくれてたなんて、ちょっと感動――って、ん? 『アチシ』?」


 その時。

 ジュナの背、いや太ももの後ろに隠れていた、紺地のメイド服を着た童女がそっと顔をのぞかせた。


 童女は伏し目がちでオロオロしながらも、カラカラと笑うジュナに背中を押されてギルの前にその小さな身体を現した。



「ぎ、ギルさま……そ、その、お久しゅうございます。わ、わたくしのことなど覚えていらっしゃらないと思いますが、わわ、わたくしはずっと貴方さまを――」


すいッ! 翠じゃねーか!! ひっさしぶりだなぁ! そうかそうか、じろ……じゃなかった、ジュナと一緒にこっちの世界へ来たんだな。また会えてほんっとに嬉しいぜ!」


「あうっ、うっ、ギルさまあああ!」


 ギルは膝立ちになると、涙を流して飛び込んでくる翠を受け止めた。


 入学ランキング8位/400人。

通り名不明アンノウン〉翠。


 彼女もまたギルと共に、こことは違う別の世界で鬼の総大将である酒呑童子と戦った一行パーティの一人であり、生死をかけた戦いで背中を預け合った仲であった。



「うわ~ん、翠はギルさまに、ずっとずっとお会いしとうございましたあああ!!」


 込み上げてくる想いを抑えきれない翠を優しく抱えて頭を撫でるその光景は、すぐそばにいたジュナも思わず人差し指で目の端を押さえる感動的な場面。


 だが、傍から見ればメイド幼女を抱きしめる新入生の男と言う、謎の光景に映ったため、ギルは一部の生徒からど変態ロリコン疑惑を持たれることになったとか。


 入学2日目。

 思いがけぬ再会に、ギルはいつ以来かの穏やかな表情を浮かべていた。




>>次回は「五分のダチ」と言うお話です!

 ――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ギルはこの世界のルナ王国の出身だけど、7~9歳の頃に時空を超えて別世界へ行ったことがあるんだ。


そこで戦った相手が三大妖怪として知られる酒呑童子。

ジュナ(その時はじろきち)と翠はその時に一緒に戦った仲間なんだ。


共に死線を越えて戦った仲だから、再会の感激はひとしおだったはず。

特に翠は、ギルに会えて嬉しそうだったね。


ちなみにクロベエもその時、一緒に戦った仲間の一人ではあったんだけど、クロベエはああ見えて女好きで、特にジュナには一目惚れしてからずっとご執心。


ことあるごとにちょっかいを出しては抱きつこうとしていたからウザがられていて、今回も即ぶん殴られていたね(^^;



――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


ちなみにですが、この辺りのお話は、前日譚となる


聖魔のギルガメス〜呪われた少年は英雄になる夢を諦めない〜

https://kakuyomu.jp/works/16817139558143902273


の第四章で詳しく描かれています。

もし、その時の話が知りたいという人がいたら読んでみてください。


でも、補足は随時して行きますので読まなくても全然大丈夫!(長いし……)

知っていても知らなくても楽しめる作品を目指しているのです( *'ω'*)و

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