第10話 この世で一番嫌いな奴
ミーナにレバーブローをぶっ刺された翌日。
ギルは回復魔法を当てまくって、ようやく元の状態へと復活していた。
教室の中も、廊下に出てからもそうであるように、徐々にクラスメート同士が打ち解けてグループを形成しつつある様子が視界に映る。
ギルは
だからだろうか、彼にはその光景はとても新鮮に感じられていた。
その日の昼休み。
ギルは教室のベランダで持参した弁当(魚の丸焼き5匹。そのうち3匹はクロベエに食べられた)を平らげた後、水飲み場に水を飲みに行こうと教室を出た(ギルはめちゃくちゃ貧乏なのでジュースを買うお金を持っていないのである)。
「いやー、それにしても昨日はとんでもない目に遭ったぜ」
「てか、オメーがあのヴィルヘルミーナ・ラバンと知り合いだったなんていまだに信じられねぇぜ」
今日も隣にはブルートが普通にいる。
ギルもいちいち気にしなくなった。
校舎から体育館へと続く区画にピロティと呼ばれるちょっとした広場があった。
水飲み場はその奥にあったため、ギルたちはなんて事のない会話をしながらそこを通り過ぎようとする。
すると、左の頬を大きく腫らしてはいるが、いかにも女性にモテそうな整った顔をした長身の男が行く手を遮るように、いきなり目の前に立ち塞がった。
身長177㎝のギルよりも5㎝くらいは背が高い。
細身のイケメン。誰だコイツ?
「おぉ、これはこれは。嫌われ者でいじめられっ子の泣き虫ギルじゃないか。キサマ、庶民の分際で無礼だぞ。頭を下げろ」
「はぁ? 誰だよお前?」
いきなりの挨拶にギルも言葉にトゲを含めて言い返す。
『あー、ヴィンセントさまだ。ごきげんよう』
「うむ、ごきげんよう」
目の前の男はすれ違う同じ一年の女子生徒に声を掛けられては朗らかに手を振り応えている。女子生徒たちは「ご挨拶しちゃったー」などと言ってはしゃいでいた。
「ヴィンセントぉ? ……あぁ、お前ビンスかよ。でかくなってて全然わからなかったぜ」
「おい貴様! 馴れ馴れしくビンスって言うなし! 大体、貴様のような下賤な輩がどうしてこの王国一と誉れ高いレイアガーデンにいるのか不思議でならんな。ここは貴様のような下等な輩が来るような場所ではなかろうぞ」
その言葉に思わず、隣のブルートと肩に乗ったクロベエを交互に見た。
「おいクロベエ、聞いたか今の?」
「うん、典型的なバカ貴族ってキャラだね。めちゃキモ」
「何かオメーの知り合いってヤバいヤツ多くね?」
「聞こえてるぞ! 下等な庶民ども!」
ビンスは言ってからずいっと一歩前に踏み出した。
額がくっつきそうな距離でギルを見下ろしている。
「ビンスぅ……」
「なんだ?」
「お前、そのほっぺたどうしたよ? 女にでも手を出して殴られたのか?」
「にゃははははは!」
ギルはビンスの左頬が腫れ上がっていることに、とうとうツッコんだ。
クロベエも気になっていたのか、宙に浮いて腹を抱えて爆笑している。
「これは貴様のせいだ!」
「は? なんでだよ? お前に会うのだってこの学校に入ってからは初めてじゃねぇか」
「これは姉さんにいただいたのだ」
「い、いただいた!!?」
「貴様が昨日姉さんに何かしたのだろう? それで姉さんはずっと機嫌が悪くて、うっかり貴様の話題を振ったらビンタを思いっきり振り抜いていただいたのだ」
……
俺の話題を振ったらビンタを振り抜いていただいた?
何言ってんのコイツ……
普通に怖ぇんだけど(泣)
ギルが得体の知れないシスコンの恐怖におびえる中、ビンスは自分の頬をさすり、恍惚の表情を浮かべていた。
誰がどう見ても危ないヤツである。
これ以上関わるのはやめておこう。
両隣に交互に目をやると、クロベエもブルートも同意見であることがその目を見ただけでわかった。
ギルは目の前のビンスの肩をポンと叩くとすれ違いざまに声を掛ける。
「おい、ショタコン」
「ショタコンじゃねーし! そこは間違ったとしてもロリコン! つーか、俺はシスコンだ!」
「あー、いちいちうるせーな。てか、大好きなお姉さまからビンタをいただけて良かったじゃねぇかシスコン変態野郎。まぁ、そういう訳だからミナちゃんにもよろしく言っといてくれ。あと、オメーはマジでクソキモいから二度と話しかけてくんなよ。じゃあな」
そう言い残して右手をひらひらと二度振るとその場を後にした。
その背中をブルートが小走りで追いかけていく。
ビンスは怒りのあまり、身体が震えていた。
ゴミ同然と思っていた庶民から浴びせられた屈辱的な言葉の数々もそうだが、何よりもその相手と言うのが昔からずっと大嫌いだったギルだったからだ。
昨日、姉さんからギルがレイアガーデンにいると聞かされた時から、見つけたらすぐに
しかしそれでは生温いと思い直す。
子供の頃からずっと思っていた。
なぜ姉さんはあんなヤツのことを気にかけているのだろうと。
最初に屋敷に連れてきた瞬間から気に入らなかった。
姉さんがずっとアイツの近くにいたからその機会は訪れなかったけれど、姉さんさえ見ていなかったら動けなくなるまで、死ぬ寸前のギリギリまで殴ってやりたいとまで思っていた。
ビンスがこれまでの人生で最も気に入らなかった相手。
この世で一番嫌いな奴。
それがギルなのだ。
「許さん……あの愚かな庶民を冥界の入口まで必ず連れて行ってやる……」
ビンスは積年の思いを晴らすべく策を練る。
確実に
負けることは万が一にもあり得ないが、それでもいざとなれば禁呪を使ってしまえばいい。
根回しなど簡単にできる。
それこそ貴族に与えられた特権ではないか。
「ハハ……フハハハハハハ!!」
心の奥底から笑いが込み上げてくる。
ビンスは早速行動に移るのであった。
>>次回は「若人の怒り」と言うお話です!
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【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ
ビンスとギルも幼馴染。
物心がついた頃には完全にシスコンだったビンスは、大好きな姉であるミーナのお気に入りのギルが昔から大嫌い。
顔を合わせる度にネチネチと嫌味を言っていたんだけれど、その度にミーナから怒られていたんだよ。
姉弟の力関係は昔も今も変わらないみたいだね。
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★作者(月本)の心の叫び
入学3日目。ビンスもそうですが、他のクラスでも問題が起き始めているみたいです。
これから登場人物がさらに増えてくるので、独りよがりにならないようになるべく分かりやすく書いていくつもりなのです(^^;
★レビューやフォロー、コメントなどはお気軽にお願いしますッ(,,>᎑<,,)ヨロシクネ
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