第11話 貴族の怒り

 午後はとても静かに過ぎていった。


 ギルたちJ組は学術の授業。

 ギルには内容が難しくてついて行けず、机に突っ伏してすやすやと寝息を立てていた。


 6時間目の授業が終わり、帰りのHR《ホームルーム》が終わったと思ったら突然女子生徒の甲高い悲鳴が耳に刺さった。



「キャァァァァーーー!」


 声は外からのようだった。

 ギルは教室のベランダ窓をガラッと開けると周囲を見下ろす。



「今のどっから聞こえてきた?」


「さすがにわかんないね」


「なら、ちょっと頼むわクロベエ」


「了解だー。ボクにまっかせなさーい」


 クロベエは窓の外にふわりと浮いて飛び出すと、目を閉じてさっきの悲鳴の記憶を辿り始めた。


 クロベエは音の出どころの探索が可能である。

 これは彼の得意とする隠密アビリティの中の一つであった。



「見つけた! あれは部室棟の奥だね」


「よっし! とにかく行ってみようぜ」


「おぅ」


 そうしてギルは校舎の4階からベランダを飛び越えた。

 すたっと地面に着地すると目的地である部室練の奥を目指して走っていってしまう。



「俺を置いていくんじゃねーヨ!」


 ブルートは全力で正面玄関に向かうと靴を履き替えて、全力で部室練の奥へと走っていった。

 

 ブルートが到着すると、ギルとクロベエが何かを見て立ち尽くしていた。



「ッ!! オメーら、どうして!?」


 そこには、ブルートの舎弟であるノブオとシンペーの見るも無残な姿が。


 一方的な暴力を振るわれたのか、顔面は大きく腫れあがり血だらけで、身体には数々の裂傷が見られた。


 パンツ一枚で手首は後ろに、足首も縄で縛られていて、口はガムテープでふさがれている。

 

 おそらく、さっきの悲鳴はこの光景を目撃した女子生徒のものだったのだろう。



「……ったく、ヒデェことをしやがる」とギル。


「あぁ、誰が一体こんなことを……」


 ブルートもかすれた声でつぶやいた。


 ギルはロープを手刀で切断すると、二人に白魔法で回復を施していく。

 そんな中、クロベエだけは、(ギルだって同じようなことを初日にやったくせに)と思っていたのは内緒である。



「ギル……悪ぃな。オメーには何の関係もねぇってのに」


 ブルートの言葉に、回復魔法を当てながらギルが返す。



「……いや、関係ねぇってことはないかもだぜ。どうもきな臭ぇんだよな。こんな回りくどいことをするヤツに心当たりがあるぜ」


「何だと!?」


「まぁとにかくだ。とりあえずコイツらを回復させてから話を聞いてみようじゃねぇか」


 数分ほど回復を施すと、ノブオとシンペーの傷はほとんどが塞がり、意識もしっかり回復していた。



「大丈夫かオメーら!」


 ブルートが声を掛けると、モヒカンのノブオが言葉を返す。



「……ブルートくん? それにギルのダンナも」


「誰がダンナだ、誰が」


 ギルは謎の呼び方を改めさせようとするが、ブルートは手で制して言葉をかぶせる。



「それは後にしとけって。……あぁ、ギルがオメーらの傷を回復してくれたんだ。それより一体何があった? 誰にヤられた?」


「……それが分からないんスよ。いきなり後ろから魔法で攻撃されて、そこからの記憶は全然なくて」


 ノブオは力なく俯いてしまった。

 シンペーも目に涙を浮かべて悔しさを滲ませている。



「そりゃあまりにも卑怯なやり口だな。俺もちぃと頭にきたぜ」


「ちょっとどころじゃねぇだろうヨ! 舎弟がこんな目に遭わされてんだ! オリャーぜってぇ犯人を見つけてぶち殺してやんゼ!」


「やめとけ。コイツらのやられっぷりからして、どう考えてもオメーの勝てる相手じゃねぇし」


「何だと? ギル、オメーは相手が誰だかわかってんのか?」


「ん? まぁ、俺はここに来てからほとんど人と絡んでねぇし。人に恨み買ってるとしたらお前の可能性が高いと思うけど」


「あ……」


 入学式の出来事である。

 ブルートはイキりまくって一年全員に対して喧嘩を売っていたのだ。



「まぁ自業自得だよな。クソよえーのによくあんな真似ができるよな。お前って頭の中に虫でも湧いてんのか」


「あン時は行けると思ってたんだヨ! マジで自信あったし」


「一体どんな環境で育ってきたんだよ……」


「それは今は関係ねーだろ! て言うことは何か? コイツらは俺のせいでこんな目に遭わされたってことなんか?」


 見ると、ブルートは拳を強く握りしめていた。

 無念さがギルにも伝わってくる。



「証跡が残ってねぇから何とも言えねぇけど」


「けど?」


「近いうちに向こうからやってくるだろうよ。何せそいつは俺のことが嫌いで仕方ないみたいだからな」


「??」


 ギルは近くに投げ捨てられていたノブオとシンペーの服を拾うと、二人に無言で被せた。


 そのまま何も言わずにポケットに手を突っ込んで、校門の方へと歩いて行ってしまう。

 その肩にはいつの間にかクロベエがちゃっかり乗っかっていた。


 ブルートはその場からしばらく動くことができなかった。

 一瞬見せたギルの表情に言い知れぬ恐ろしさを感じて後を追うことができずにいたのだ。



(もうすぐ何かが起こる……のか。これがレイアガーデンってところかヨ)


 ブルートの感は遠からずである。

 もうすぐ何かが起こることは間違いないのだが、ただ彼の認識はあまりにも甘かった。



 今は様子見。

 特に今年の新入生は百戦錬磨の強者揃いであったため、実力者同士でけん制し合っていると言った方が正しかった。


 1日で一年をシメたとかのような、不良マンガの世界とはレイアガーデンは随分と勝手が違っていた。



【卒業時に首席で卒業する】



 その価値が計り知れないことを皆が知っているため、特にランキング上位の者たちの動きは静かなものだった。



 しかし、ここは血気盛んな若者が集う場所。

 その時の感情に任せて動く者も少なからず存在する。




>>次回は「トラップ」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ノブオとシンペーの二人は、兄貴分のブルートがボッコボコにされて以来、ギルのことをダンナと読んでいるみたい。


……過去イチどうでもいい情報だった(;・∀・)マジデショーモナイ



――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


もっと早い展開で書いていきたいんですけど書きたい内容が多すぎてなかなか進んでいきませぬ( ;∀;)

ただ、そろそろ動きがありそうなので、よかったら次回も読みに来てください!


★レビューやフォロー、コメントなどはいつでもお気軽にお願いしますッ(,,>᎑<,,)ヨロシクネ

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