第37話 【ミーナ編】ミーナ、頑張る!①

 ミーナはJ組の教室から逃げるようにH組の教室へと戻ってきていた。



「あっぶな。もう少しでギルくんに見つかるところだったよ」


 ギルが気になって教室へ様子を見に行っていたミーナ。

 とりあえずは無事なようで安心はしていたのだが、いつリューヤが仕掛けてくるかはわからない。


 ギルのためにできること。

 ミーナが出した結論とは――





「いらっしゃいませぇ! 3名様ですか? では、こちらの席へどうぞ」


 ミーナは地元から離れたファミレスでアルバイトを入学当初から始めていた。



 はて? ミーナはラバン辺境伯という大貴族の孫娘で、家は大富豪。

 なぜアルバイトなどしているのか?


 それは、レイアガーデンに入学する少し前の話。


 ミーナの祖父にあたるラバン辺境伯(61)は、近隣にその名を轟かせる有能な人物として知られているが、その一方でとにかく変わった性癖の持ち主であることも同時に知られていた。


 そして、起こるべくして起こった醜聞スキャンダル


 奥方を3年前に亡くしているため、単なる恋愛であれば何の問題もない。大貴族であるため、何人か側室や愛人がいても誰も咎めはしないだろう。



 しかし……


 ラバン辺境伯が手を出したのは、同性である男子中学生。


 本人曰く、ただ一緒に寝ていただけとは言うが、親族でもない男子中学生と一緒に全裸でベッドで寝ていただけでも、倫理観を疑われて当然である。


 さらに悪印象を決定的にしたものがある。

 ラバン辺境伯は全裸でベッドに横たわっている写真を撮られていたのだ。


 噂と共に61歳のラバン辺境伯の全裸写真1,000枚ほどが領地内にばら撒かれて、ジエンド。


 これはラバン辺境伯を失脚に追い込むための敵対貴族の罠。

 つまりは、いわゆるハニートラップではあったのだが。



 それ以来、


ラバン辺境伯=『ど変態ショタコン色欲クソエロジジイ』


 という呼び名が領地一体に定着し、その威光は地の底に沈んだ。


 納税を拒否する領民。

 王家から爵位はく奪の危機。


 名誉と信頼回復のため、無償で領内各地をボランティアで回っているが、その間は懲罰として無収入。


 蓄えていた財産は領内の施設建設などに充てられて、この数ヶ月ですっかり貧乏貴族の仲間入りである。



 とばっちりを食ったのはミーナとビンスだ。

 しかし、二人は逞しかった。


 当然のようにミーナはラバン辺境伯を「ど変態ジジイに天の裁きを~ッ!」と叫びながらボコボコにしたのだが、そのあとすぐに現実を受け入れた。


 家がそのような、ある意味地獄のような状況の中にあっても、思考を切り替えてアルバイトに精を出す日々。


 アカデミーで見せる高貴な姿と、アルバイト先で見せる懸命な働きぶり。


 とりあえず、自分の食い扶持は自分で稼ぐとばかりに、アカデミーが終わると夜遅くまでアルバイトをする二人。


 だが、ここへ来て、ミーナはさらに早朝と夜中、そして週末にもアルバイトを始めたのだ。


 一体ミーナの目的とは……?





「おぅ、ねーちゃん。次はこっちを頼むわ」


「はーい、まっかせてー」


 とある街はずれの建設現場。

 ドワーフ、リザードマン、オーク、それに様々な獣人たち。


 屈強な男たちに囲まれながら、ミーナはニッカポッカに頭にはバンダナを巻いて、汗水を垂らしながら現場作業に従事していた。



「アンタ、若ぇのにめちゃくちゃ働くじゃねぇか。でもよ、アンタみたいなべっぴんなら他にいくらでも楽に稼げる仕事があるだろうに」


 休憩時間。

 ミーナは現場監督であるドワーフから差し出されたお茶をすすっていた。



「ちょっと訳アリでね、すぐにお金が必要なの。で、何と言ってもここは日払いじゃない。さらに身体も鍛えられるってんだから、アタシにはいいことづくめなのよ」


「へぇ、最初に見た時はどこぞの貴族かと思ってたが、アンタ意外と苦労してんだな」

 

「苦労? ぜ~んぜん。これはアタシが好きでやってることなの」


「ふぅん。ならいいけどよ」


「そゆこと。じゃ、仕事に戻るわ。ごちそうさま」


 そう言い残して再び現場へ戻るミーナ。

 彼女の仕事は夜通し、日の出まで続いたのであった。





「ちょっと姉さん! 今日もバイト!?」


 放課後。

 一人、ふらふらと教室から出て昇降口へ向かうミーナをビンスが引き止める。



「……は? 当たり前じゃない。時間は有益なのよ。早く行かなきゃ」


「そんなこと言って、今日だってほとんど寝てないじゃないか! 目の下のクマといい、げっそりとした頬といい、どう見ても明らかに体調不良だろ!」


「アタシがたかがバイトくらいで体調を崩す訳がないじゃない」


「バカ言うな。もう3週間近くもこんな生活を続けて平気な訳がない! それに来週には新入生イベント、〈クエストオリエンテーション〉だってあるんだぞ。まさか、そんな状態で参加しようって言うんじゃないだろうね?」


「……学校は休まない。バイトも休まない。大丈夫、あと2日で目標金額に届くから、それまでは見逃しなさい」


「姉さん……」


 そしてミーナは短期バイトをやり切った。

 アカデミー以外の時間のほとんどをバイトに費やし、成人男性の約2ヶ月分の給料を3週間で稼いだのだ。



>>次回は「ミーナ、頑張る!②」です!

――――――――――――

★作者(月本)の心の叫び


身内にやらかしちゃった人がいると周りが苦労するというのは、現代もこの世界も同じようですね(;・∀・)オソロシイ

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