第38話 【ミーナ編】ミーナ、頑張る!②

 生活できる最低限の額を残し、残りのお金を手にしたミーナが週末に向かった場所。


 それは、ルナ王国の王都ミーセアにある魔法雑貨店だった。


 扉を開くとカウンターの向こうにパイプを吹かしながらこちらを睨む、髭面のゴリッゴリのマッチョな店主の姿が視界に映った。



「いらっしゃい。何をお探しで?」


「この店で一番強力な効果を持つ魔道具を見せてくれるかしら」


 ミーナが言うと、店主の眉毛がピクリと吊り上がる。

 カウンターから店内にのそりと出てくると、ショーケースから新雪のように真っ白に輝く指輪を取り出した。



「今ウチにある中じゃコイツがいっとう強力だ」


 店主がショーケースの上に布を広げて、そっと置いたその指輪はまるで上質な魔力のみを抽出して作られたかのように、怪しく不思議な魅力を放っていた。



「……この指輪の効果は?」


幸運ラック大アップだ」


「はぁ? それだけ!?」


「それだけだとぉ! アンタ、ウチの商品にいちゃもん付ける気か」


「だって、幸運なんて一番わかりづらいステータスじゃない」


 ミーナの言葉に店主はやれやれと言った様子で肩を竦めた。



「あのなぁ、嬢ちゃん。確かに目に見えないしわかりづらいかもしれねぇが、全ステータスや非戦闘時に影響を及ぼすのもまた幸運だけだんだぜ。それに、呪いに対抗できる唯一のステータスってのも幸運だけだ。そう考えると、見方が随分と変わってこねぇか?」


「あ……」


 呪い。確かギルには生まれつき呪いがかけられていたはずだ。

 このタイミングでこの魔道具を出されたことは神からの啓示なのかもしれないと、ミーナは思い直す。



「わかったわ。それならこの指輪もらおうかしら。で、おいくら?」


「おぅ、まいどあり。えっと、コイツは……金貨18枚、銀貨6枚だけど、嬢ちゃん可愛いから金貨18枚にまけてやらぁ」


「!!?!?」


 高い。高すぎる。

 ミーナは硬貨を握りしめた手を広げてそっと目を落とす。


 ……

 何べん見ても金貨2枚、銀貨5枚。

 どう見ても全然足りない。



「もう少しまけなさい」


「え? いやー、こりゃ値打ちもんだからあんまり値引けるような代物じゃねぇんだよなぁ」


「まけなさい」


 ずいっと店主ににじり寄り交渉? を試みるミーナ。

 そのただならぬ圧に、店主も思わず怯んでしまう。



「う、それなら金貨15枚……」


「……(圧)」


 さらににじり寄る。



「あー、もうわかったってぇ。利益はいらねえ。金貨10枚でどうだぁ!」


「これで譲りなさーいッ!!!(ドンッ)」


 ミーナは店主に壁ドンを喰らわせると、店主はそのあまりの迫力にその場に腰を抜かした。


 店主を見下ろす形になったミーナはその手を取り、有り金全てを握らせた。


 涙目の店主が無言でやたらと中身の軽い手を広げると、そこには金貨2枚、銀貨5枚が出てきた。



「アガガガ……」


 店主は泡を吹き出しそうになるところをかろうじて堪える。


 魔法雑貨店を開いて30年。

 思い返しても、ここまで無茶な値切りをされたことはなかった。


 だからもちろん、断る。

 と、頭では思うのだが、心の内ではなぜかミーナの値切り交渉を受け入れたがっている自分がいることにふと気づく。



(……そうか。この嬢ちゃんに魔道具を売るために俺はこの世に生を受け、店を開け続けて待っていたのか)


 ミーナの壁ドンの圧によって、店主の思考は完全にトチ狂っていた。



「ふ、わかったぜ。俺の負けだ。これで問題ねぇや。まいどあり」


「え、ホント!? いいの!? わー、ありがとね。きっとまた買いに来るからね!」


 ミーナは小箱に包まれた指輪を手にすると、意気揚々と扉を開けて店を出た。



「ふっ……俺もようやく天命を果せたぜ」


 見送る店主。

 しかしまだ彼は気づいていなかった。


 これから先、ミーナとその仲間たちによって店は大盛況を迎えるが、同時に地獄のような値切りに晒されることになると言うことを。



「ふっ、今日も空気がうめぇじゃねぇか」


 金貨を握りしめて店の外に出た店主。


 その表情は涙が頬を伝わりながら笑顔を浮かべているという、とても気持ちの悪いものだったらしい。


 頑張れ店主!




>>次回は「突然の来訪」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


ミーナの壁ドンからの値切りが炸裂したね。

ミーナ本人は気づいていないけど、どうやらこれは彼女の能力アビリティっぽいね。


ちなみにアビリティは、生まれながらにして持っているユニークアビリティと、今回のミーナのように何度も繰り返しているうちに取得条件をクリアして習得できる通常アビリティ、それと武器や魔道具などのアイテムを装備して、所有者と認められた時に使えるようになる装具アビリティの3パターンが存在するんだ。


剣術や体術もアビリティだけど、これらは通常アビリティ。

ユニークアビリティは今まで出てきた中だと、ブルートの超嗅覚が該当するね。


これからも各キャラクターごとにアビリティが登場すると思うので、その辺りもぜひ注目してみよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る