第5話 決闘《デュエル》

 1年の教室が並ぶ廊下では、ブルートとギルのにらみ合いが続いていた。


 J組の生徒は険悪な雰囲気を察したのか、全員すでに教室を後にしており、他のクラスはまだレクリエーションをしている最中なのか、誰も廊下には出てこない。


 ギルの「ブタ」発言にブルートは身体を震わせながら声を荒げる。



「テメェ……さっきからオレの名前はブルートだって言ってんだろッ! 次にオレをブタ呼ばわりしてみろ……マジで殺すかんな!」


「あー、わかったわかった。このブタ野郎ッ。で、決闘デュエルはもちろんエンブレム全掛けオールインでいいんだよな?」


「てンめぇ! たりめーだろ! オールインに決まってんだろうが!」


「よし、デュエル成立だな。立ち合いは……お前らでいいや。クソダサ2号と3号」


「俺はノブオっ!」

「シンペーだ!」



 クソダサ2号(モヒカン)がノブオで、クソダサ3号(逆モヒカン)がシンペーらしい。

 凄くどうでもいい情報だとギルは思った。



「お前らモブの名前なんて別にいいって。とにかく俺は腹減ってんだよ。早く始めようぜ」


「ぐぬぬ……ブルートくん! コイツ、ぜっっってぇボッコボコにしちゃってくださいッ!」


「……あぁ、任せとけ。んじゃ場所変えるぜ」


 そう言ってブルートはいちいち格好をつけてギルに向かって手招きをした。



「え? ここでいいじゃん。早くやって終わらせようぜ」


「バカ野郎! ガッコーでタイマン張るのは体育館の裏ってウチらの国じゃ決まってんだヨ」


「ほんとかなぁ」



 この決闘デュエルには一撃202エンブレムがかかっている。

 それなら仕方ないとギルはしぶしぶブルートの提案を受け入れた。



 ギルたちは体育館の裏へと移動。

 

 結局、クソダサ2号ことノブオが立ち合いを務めることが決まったところで、ようやく決闘デュエルが始まろうとしていた。


 その時、余裕の表情のブルートは口に謎の白い小さな筒を咥えて、ポケットからライターを出して火を点ける。



「ん、何だアレ?」


「あれってもしかして、東の国の麻薬ドラッグかなんかじゃない? 確かタバコとかって言う」


「いや、よく見てみろクロベエ。筒に小さく(chocolate)って書いてあるぞ」


 ブルートは火で筒の先を軽くあぶったに過ぎない。実際はチョコレートを口に咥えていただけだった。



「アイツ……一体何がしたいんだろ?」


「わかんない。東の国じゃ、あれが喧嘩の前の儀式だったりするのかな」



 ブルートのペースに翻弄されるギルとクロベエ。

 ブルートは、白い筒を人差し指と中指で挟み口から離すと、「ふぅー」と余裕の笑みを口元に携えて息を吐いた。


 ただの透明の息である。

 火は付いていないので煙などはもちろん出ていない。



「んじゃ始めっかヨ。学年最下位の替え玉入学のチン〇のちいせぇカス野郎」


 手に持っていた白い小さな筒チョコレートを指でピーンと弾いてブルートが口にしたのは、まるで初等部小学校の子供並みの悪口だが、ギルはその言葉にしっかりと反応する。



「はぁ!? 一応ちゃんと受験はしたし! それに小さくねーし! たぶん普通だし! いやー、お前マジでムカつくじゃん」


「ケケッ、っせーよバーカ。おいノブオ、とっとと合図しろ」


 ブルートが言うと、モヒカンのノブオが右手を天に向かって選手宣誓を行うかのように突き上げ、声を張り上げる。



「デュエル! アルスターダ アーチ バスラット!」



 それはレイアガーデンにおける決闘デュエル開始を告げるお決まりの掛け声。


 意味は不明だが、レイアガーデンの生徒は入学前に必ず覚えるように学生証に記されていた。

 この掛け声がかからないと決闘デュエルは成立しないらしい。



「いっくぜぇえええ! 死ねヤーッ!!」


 ブルートは掛け声とともに極短ランの内ポケットからドスを取り出した。ちなみにドスとは小型の刀のことで、東の国の一部ではそのように呼ぶとのこと。


 ドスを小脇に抱えたブルートが真っすぐにドスドスと走りながら突っ込んでくる。


 ギルは足元に落ちていた小枝をゆっくり拾うと、ブルートのドスを足捌きステップワークだけで交わしながら、小枝で手首をピシっと叩いた。



「うっぎぃぃぃゃあーーーーーーッ!」


 ブルートはドスを手から離し、手首を押さえて地面に仰向けに倒れると、ゴロゴロと巨体をよじらせながら悶絶している。


 ギルはその様子をしばらく呆然と見つめるとクロベエに顔を向ける。



「なぁ、もしかしてコイツ……」


「うん、めっちゃくちゃ弱いね……」


 ブルートは小枝の形に腫れ上がった手首のミミズ腫れに向かって「ふぅーふぅー」と一生懸命に息を当てて痛みを冷ましていた。


 ようやく痛みが落ち着いたところで、ブルートはふと我に返る。

 地べたにしゃがみこんでいる自分に影が落ちていることに気づくと顔を上げた。


 そこにはもちろんギルの姿が。



「おい、ブタ。そんなクソ雑魚の分際で随分とイキった真似をしてくれたじゃねぇか。テメーみたいなハッタリ野郎はお仕置きしてやらなきゃなあ」


 ギルはブルートのリーゼントをむんずと鷲掴むと、片手でぐるぐると巨体を宙でぶん回して、空高く放り投げた。


 それから、指にフッと息を吹きかけたかと思うと、まるで鼻くそを丸めるかのように親指と人差し指を高速で動かし、ビー玉くらいの小さな魔法の玉を生成した。



「んー、これくらいでいいかな。はいっと」


 そう言って人差し指でブルートに狙いをつけて、ピィンと弾き飛ばす。


 空中で身動きが取れないブルートにギルの初歩の属性魔法弾が直撃。

 ブルートは「んぎゃあぁぁ!」と叫び声をあげると、力なくそのまま地面に叩きつけられ、身体から煙をプスプスと立ち昇らせながら泡を吹いて気絶していた。



「よ、弱すぎる……」


 思わず、ギルの肩に乗っていたクロベエが声を漏らした。

 それくらい誰の目にも圧倒的な勝利だったのだ。



「おい、クソダサ2号。これって決着ついたよな?」


「え? あ、はい……」


「勝ち名乗りを宣言しろって。オメーが立ち合いだろ」


「え、あ、その……すいません、アナタ様のお名前をフルネームで存じ上げないので……」


 崇拝していたブルートがボロ雑巾のようにされた姿に衝撃を受けたのか、クソダサ2号ことノブオの態度は急変していた。



「あぁ、そっか。俺の名前な。俺の名前はギルガメス・オルティア。卒業時にはアカデミーのトップに君臨している男だかんな。二度と忘れんなよぉ」


「ははは、はいっ! 勝者、ギルガメス・オルティア!」



 こうしてギルの初日は幕を閉じた。

 そして翌朝――



「おい、クロベエ! 学生証を見てみろ! 俺のエンブレムが1つしか増えてねーじゃんか!」


「あぁ、そりゃそうだよ。決闘デュエルで賭けられる上限は手持ちの少ない方のMAXだからね」


「は? お前また騙しやがったな! じゃあ、今度また俺が全掛けオールインしても次に増えるのは……」


「うん、もちろん今持っている2エンブレムが上限だね」


「そ、そんなバカな……」



 世の中そんなには甘くない。

 レイアガーデンはもっと甘くない。


 また一つ成長したギルであった。




>>次回は「思いがけぬ再会」と言うお話です!

――――――――――――

【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ


決闘デュエルで賭けられるエンブレムの上限は手持ちの少ない方の最大数まで。


これはもちろん、順位の低い者がイカサマなどの不正な手段を用いて上位者に偶然にも勝利してしまったりした場合を懸念してのことである。


あと、ランキング上位者にとって全くうまみがないってのも理由だね。

だから、レイアガーデンでは入学時の順位がめちゃくちゃ大事ってことなんだ。


デュエルの決着は、どちらか一方が戦闘不能、戦意喪失、敗北宣言などの行動を取った後で、立ち合いが勝者の勝ち名乗りをあげることによって決まるみたい。


もし、立ち合いが虚偽の申告をして勝者を貶めるような行為を行った場合は、アカデミーに張り巡らされた結界から裁きの雷が落とされるらしいので、立ち合いも嘘はつけないんだよ。


ちなみにレイアガーデンの学生証は魔法が付与エンチャントされていて、現在のエンブレムの獲得数がわかるようになっているよ(反映までのタイムラグはあるみたい)。


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★作者(月本)の心の叫び


第五話までお読みいただき本当にありがとうございます!

本日からカクヨムコン期間中は毎日投稿予定(毎日19:51)ですので、まだの方はぜひフォローをしてお待ちください(。>ㅅ<)✩⡱タノムゥ


今後ともどうぞよろしくお願いいたします(,,>᎑<,,)

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