第7話 五分のダチ
入学3日目。
この日から新入生の授業が開始。
レイアガーデンの1年次の授業は学術が約半分。
残りの約半分は剣術・体術・魔術などの戦闘科目となっていて、週に数コマはホームルームや特別授業が行われることになっていた。
ちなみに2年次からは選択が分かれ、学術は薬学や医学、魔法学、アビリティ学、アイテム学などの専門科目を選べたり、戦闘科目も魔法剣や魔法付与、武器鍛冶から専門武器スキルまで、幅広く学ぶことができる。
1日6コマの授業が行われ、2コマごとに学術と戦闘訓練科目が交互に並ぶ。
この日の1・2コマ目の授業は戦闘の基本科目の1つ、剣術だった。
授業は服装自由だが、生徒の多くはジャージに着替えて校庭に出る。
剣術担当の先生は初日だからと基本的なことを生徒たちに説明していたが、ギルはと言えば相変わらず上の空だった。
「基本だねぇ」
「そうだねぇ」
肩に乗ったクロベエとたわいもない感想を漏らしていると、後ろからブルートがやってきて声を掛けてきた。
「よ、よォ」
振り向くと、そこには露出しているはずの肌全てに包帯を巻いたブルートの姿が。
「ぶはっ! お前やめろよ! そんな姿になってまで笑いが欲しいのか?」
「こっ、これはオメーのせいだろうが!」
ギルはまたお腹を抱えて笑いをこらえる。
クロベエは笑いをこらえることができずに、天高く飛んで行って遥か上空で爆笑していた。
「くくっ……で、何の用だよ? 懲りずにまだ俺と
ギルは笑い過ぎて苦しくなった気道を確保するために、すぅーはぁーと深呼吸を繰り返す。
「い、いや、とりあえずオメーとはもういいヤ」
「ん? そうなんだ。じゃあ何の用だよ?」
「その……なんだ。オメーさえよければダチになってやってもいいかなって思ってヨ」
面白そうな話をしていることを嗅ぎつけたのか、空を飛んでいたクロベエが戻ってきた。
「おぉ、クロベエ。ちょうどよかった。何かコイツ、またわけわかんねぇこと言い出したぞ」
「うん、ダチって聞こえて戻ってきた。初日にあれだけボコボコにされたってのに、このブタさんは頭の中にいも虫でも飼ってるのかな?」
二人の会話を聞いていたブルートが地団太を踏む。
「つーか、一昨日からずっとツッコむのを我慢してたんだけどヨ! その猫は何なんだ? そいつは何で普通に喋ってんだヨ!?」
(え? 今さらそれ聞く?)とギルとクロベエは同時に思うが、確かに初見の人には良く分からないだろうと思い直す。
そして、クロベエが宙に浮いたままギルを前足で制すると、やれやれと言った表情で口を開く。
「ボク? ボクはクロベエ。レイアガーデンにはギルの使い魔ってことで申請してあるから、
すごくザックリした説明だったが、ブルートは一応納得したようであった。
「ふん……まぁ、猫のことはわかったけどヨ、肝心のダチの件はOKってことでいいんだよナ?」
「いいワケねーだろ、気持ち悪ぃ」
「なににににににに!」
ギルが一刀両断すると、ブルートはガクリと崩れ落ちて両手を地面につけた。
しかし、折れそうになる気持ちをグッと奮い立たせて顔を上げると、さらに食い下がる。
「お、オレのどこが気持ち悪いってんだ!」
「いや、だってお前、もの凄くダサいし、弱いくせにイキってるし、人に迷惑かけまくりだし。
そもそも入学式であれだけやらかしておいて、さらに窓際の一番後ろってだけで俺は一方的に喧嘩売られて、で、デュエルで負けたらダチになろうって?
いやいや、ふざけんなよ。そんなクソダセーヤツと友達になんてなれるワケねーじゃん」
「そうだそうだー! 引っ込めこのブター!」
自業自得とは言えボロクソである。
しかしブルートは零れ落ちそうになる涙を必死で堪えて、なおも食い下がるのだった。
「じゃ、じゃあヨ――」
ブルートが何か言いかけるが、ギルはその言葉を遮って、思い出したことをそのまま口にする。
「あーそう言えば、俺のお師匠が『ムカつく野郎は家畜にするのが一番手っ取り早い』って言ってたな」
「あー、確かに言ってたー」
「おぅ、ブルート。お前は家畜にならしてやってもいいぜ」
「ハァ、家畜だぁ? オメー、オレがオークだからって人権無視とか正気か?」
「あっそ、なら交渉不成立ってことで」
そのやり取りに飽きたのか、ギルはブルートから離れようとスタスタと歩き出す。
しかしブルートは諦めない。
ガッシとその肩を掴むと、なおも懇願。
「ままま、待てッ! 男らしく五分のダチでどうヨ?」
「五分? 俺とお前が?」
「おぉヨ!」
「うぜェッ!」【ボガッ】ヒュー! キラーン☆
「あー、星になっちゃったね」
「あぁ、惜しいブタを失くしたな」
ギルのパンチで遥か彼方に吹っ飛んで行ったブルート。
どうにか3時限目の授業終わりの休み時間、校庭のベンチで休んでいたギルの元に、松葉杖のようにつっかえ棒で身体を支えながら、ヘロヘロの状態で戻ってきた。
そして……
「わ、わかった、別に五分とかどうでもいいから、頼むヨ。もう悪いことはしねぇから、よかったらダチになってくれねぇか?」
「だってよ。どうする? クロベエ?」
「えー、嫌だよボク。だってコイツ気持ち悪いじゃん」
「そんなこと言わないでぇ。もう絶対に悪いことしませんから」
「ほんとかなぁ」
「誓いますって!」
なりふり構っていられない様子のブルート。
何が一体彼をここまでかき立てているのだろうか。
あまりのしつこさに、ついにギルも観念したのか、ここで別案を提示した。
「わかったわかった。そんなに構って欲しかったら、お前は一生俺のパシリとして使ってやるから。もうそれでいいだろ」
「へ?」
「嫌なら一生、
「クッ……神さま、アカデミーで華麗な高校デビューを決めようと思ったことがそんなにいけないことなのでしょうか?」
ブルートはまだ何やら言っていたが、ギルとクロベエはまたも飽きた様子でスタスタと次の授業に歩いて行ってしまう。
「お、お待ちになってー! オレも一緒に行くってヨ」
「あー、ホントにしつけぇなぁ。もう勝手にしろ」
「ったく、何なんだよコイツ……」なんて言いながら、ギルが妙に照れくさそうにしていたのはクロベエだけが知るところ。
こうして必死の粘りの甲斐あってか、ブルートは何とかギルとダチ? っぽい何かになることができたようである。
どういう友達なのかはわからないが。
二人がどんな関係性を築いていくのか。
それがわかるのはもう少し先のお話。
>>次回は「最凶世代」と言うお話です!
――――――――――――
【異世界デスアカデミー】の豆情報コーナー(,,>᎑<,,)ヨンデクレテアリガトネ
クロベエは人語が話せる猫。
ん?猫? いやいや、彼の本当の正体は……。
もちろんただの猫なワケがないよね(^^;
そして、レイアガーデンアカデミーにはギルとクロベエのような使役者と使い魔のコンビが他にもいるみたい。
使い魔持ちは能力が高いって言われているから、出てきたら注目してみよう。
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